ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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3回目のプロテストだった。

一寸遅い20歳からゴルフを初めて、プロを目指してからは練習場の手伝いやレッスンをやりながら自分のゴルフを高めて来た。
もう30近い年齢だけど、調子は今までで最高に良かった。
地区の予選やカットを軽くクリヤーして来て、プロテスト独特の雰囲気にも慣れてきたし、特別な事故でもない限り必ず通るという確信みたいなものがあった。

一応レッスンプロの資格はあるけれど、プロを目指したからには試合に出て脚光を浴びたいし、賞金を稼いで贅沢もしたい。
少ない稼ぎで苦労させている嫁さんのためにも、今度のプロテストは絶対に通って、子供を作れるような環境を作ってやるつもりだった。

自分のゴルフは、飛距離は出ないが正確さとインテンショナルに曲げる技術が売りで、アプローチ、パットには特に自信があった。
体調も万全で、何も不安はない...はずだった。

プロテストの組み合わせ表が発表されたとき、同じ組に今売り出し中の学生の飛ばし屋Kの名前を見つけた。
なんでも、ドライバーで300ヤードを飛ばすという、アマチュア界の「怪物」と呼ばれている男だった。
(今の時代と違い、パーシモンのドライバーは250ヤードを打てれば「飛ばし屋」と言われていた。
まして、300ヤードを打つなんて男は「怪物」としか言いようがなかった。)

先輩のベテランゴルファーや、世話になったプロは
「絶対に奴のショットを見ちゃいかんぞ」
「奴のプレーを見ると力が入るからな、奴を完全に無視してまわれ。」
とアドバイスしてくれた。
...少しは不安があったが、飛ばし屋と言われるプロと回ったことは何度もあったし、自分は飛ばないことを知っているから大丈夫だろうと思っていた。
「自分の本分は正確さとパットだ」
それを心に決めていれば...



「甘かった」
プロテスト当日、初めて間近に見た「怪物」は、180センチ以上の身長と堂々たる体格をしていた。
もちろん、先輩達のアドバイス通り絶対に彼のショットを見ないことにしていた。

...しかし、音が聞こえた。
同じパーシモン使っているとは思えないような、「爆発音」というか「圧縮音」...今まで一緒に回った「飛ばし屋」とは比べ物にならない桁違いの音だった。
それに比べると、自分のショットの音はまるで楊枝でボールを引っ叩いているようにしか聞こえなかった。
力んじゃいけないと頭の中では100パーセント思っているのに、もっと強い音を出そうと身体がかってに動く。
自分が何をしたいんだか判らなくなっていた。
自分でも信じられないほど、ボールを強く叩く...でも、「音」が...弱い...。
また「怪物」の強烈なインパクト音が聞こえる。
自分でもどうしようもなく、「もっといい「音」を出したい」と叩く...叩く...

ボールは曲がった...曲げるんじゃなくて曲がった。
アプローチや小技の勝負にいく前に、既に取り返しようもないほど叩いていた。

結局、「怪物」はトップ合格。
自分は今までで最低のスコアで落ちた。
同じ組の他の二人も、ボロボロになって落ちた。

自分があれほど一緒になったゴルファーに影響されてしまったのは初めてだった。
彼以外のゴルファーと一緒だったら、自分はきっとプロテストを通っていただろうと今でも思う。

...でも、それが運命なんだろう。
自分はそういう運命だったんだろう。
ツアープロになる夢は、それで終わった。
その後やって来た不景気とゴルフブームの衰退で、レッスンの仕事も立ち行かなくなり、今ではゴルフの仕事からも離れた。

自分にとって、あれが最後のプロテストだった。
...あれからずいぶんの時間が経ったけれど、今でもあの音の記憶は耳から離れない。


怪物と言われ期待されたその男も 、結局ツアーではさしたる実績をあげる事も出来ずに消えて行った。


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いい天気だ。
ゴルフ日和といっていいだろう。

Kさんは空を見上げて、思う。
今日は一番大事なトミー・アーマーのドライバーを磨いてやろう。

ああ、なんて美しい...流れるような流線型のフォルム...絶妙な木目の流れ...時間が作り上げた渋い色合い...嵌め込まれたペーパーファイバーのインサートの美しさ...

ゴルフを始めた頃、一番気に入ったのがパーシモンのドライバーで糸巻きボールを打った時の、「バシュッ」というような音と、フェースにいったんくっついてから離れて行くようなあの感触だった。
あの頃はよく夢の中でも、「バシュッ」という音と、ドローの軌道で遥か遠くまで飛んでゆく白球の夢を見たものだった。
まあ、現実の世界では右に曲がる球しか打てなかったんだけど。

その当時、トミー・アーマーの693と、ターニーのM85は「幻の名器」とかいわれていて、パーシモンドライバーの最高峰だった。
飛距離の性能もさることながら、その道具としてより芸術品とまでいわれた形状と仕上げの美しさも見事な物だった。
おそらく当時のゴルファー全てが、やがてはあれを使ってみたいと憧れていたと思う。
自分でも使いたいという気持ちはあったけど、Kさんにとって月給より高いクラシックドライバー(状態のいいものはセットで100万円を越えていた)は、とてもじゃないが高嶺の花で現実味は全くなかった。
ラウンドは月に1度か2度、100を切るかどうかの腕だったけど、それなりにゴルフを楽しんでいた。

変わったのは、メタルヘッドのドライバーが普及してから。
あっという間にほとんど全てのゴルファーがメタルヘッドのドライバーを使うようになった。
メタルからカーボン、チタンとヘッドの素材は変わって行って、パーシモンの時代はあっさりと終わってしまった。
Kさんもメタルや、カーボンやチタンのドライバーを打ってみた...が、何の感動も湧かなかった。
ただボールが金属音を残して前よりも遠くに飛ぶようになっただけ。
パーシモンで糸巻きのボールを打った時の、あの胸が痛くなるような感動が全く無い。
周りの仲間は以前は「0Xはフェースのラウンドが...」とか「この二百年もののパーシモンの方が感触が..」とか「ここはヒールで打ってスライスを...」とか言っていたのに、みんな「XXヤード飛んだ!」とか「前より00ヤード飛ぶ!」とかの話ばかりになって、会話がつまらなくなった。
Kさんは、だんだんゴルフをプレーする情熱が無くなって行くのを感じていた。

ただ、Kさんにとって幸運だったのか不運だったのか...パーシモンの需要がなくなると同時に、あのクラシックの名器たちの値段も急速に下がっていった。
ゴルフへ行く情熱を殆ど無くしたKさんだったけど、不思議なことにパーシモンのドライバーへの興味は全然なくなっていなかったという。
ゴルフへ行かない分だけお金に余裕ができるし、名器の値段が下がってくる..,それからKさんは、お金を貯めてはクラシックのパーシモンヘッドのウッドを集めるようになった。

さすがに「トミー・アーマー693」や「ターニーM85」は状態のいい物はまだ高いので、状態があまり良くはない物を手に入れた。
それでも名器は十分に美しく、Kさんにとってはヘッドについている傷でさえそのクラブを使ってきた人のゴルフの歴史が感じられて、全く不満はない。
その他にも、純粋に「工芸品」として「美しい」と感じるクラブを集めるようになって、Kさんの狭い部屋はクラブでいっぱいになっている。
幸いな事に奥さんや家族は、困り顔をしながらもKさんのそんな趣味を大目に見てくれているそうだ。

ラウンドはもう10年以上していないそうだが、時間を見つけてはクラブを磨いたり、壊れたり割れたりしたクラブヘッドで置物を作ったりして、Kさんの幸せなゴルフライフは続いている。



いい天気だなあ...ゴルフ日和だ。
今日はトニー・ペナのドライバーを磨いてやろうかな...

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ゴルフ談義に花が咲いている。
平日だけど、二人ともジャケットの下はゴルフウェアのようだ。
聞こえて来る話では、やっと100を切るくらいの腕でいい時には90を切る、なんて腕らしい。

「ねえ! モツの煮込みとイカ刺し追加ね。」
「あ、俺生もう一杯ね」

「店長、生一つとイカ刺し、煮込みはいります。」
慣れたものだと思う...彼らには立派な飲み屋のおばさんにしか見えないだろう。
週に3日夕方6時から閉店まで、この居酒屋で働き始めてからもう4年になる。
昼間の5時までは、毎日普通の会社で働いている。

夫と事情があって離婚してから5年、まだ学生の娘を育てるためには昼間の仕事だけでは収入が足りず、やっとこの店のパートを捜して働き始めた。
運が良いことに店長がいい人だったので時間を調整してもらって、慣れないこの仕事を続けることができた。
身体はしんどいが、なんとか生活が出来るレベルになった。

「ねえ、おばちゃん、あ、おねえちゃんか...悪い悪い」
「ゴルフ、わかる? 今日はね、こいつが88の自分のベストスコア出したお祝いなの。」
「おまけにね、こいつ、バーディーなんかとっちゃったの!」
「わかる、ゴルフ? 300メートル先のちっちゃな穴にね、こいつ3回で入れちゃったの!」
「凄いでしょ〜!..あ、ゴルフってね面白いからさ、やってみるといいよ〜」

気持ちよく出来上がったお客さんから、そんなことを言われる。
「あ、おねえさん、よく見ると奇麗だねえ〜、今度教えてあげるからさ、ゴルフやろうよ、ゴルフ!」
そんな風に誘われることも何回もある。
幸いこの店では悪酔いするようなお客さんはいないので、別に問題はないのだけれど...

ゴルフはよく知っている。
離婚する前はプロについてレッスンを受けていたし、今だってゴルフに興味はあるし、出来ることならプレーもしたい。
熱中していた頃は、良ければ80そこそこで回れていた...

今でもクラブは奇麗にしてあるし、古くなったかもしれないけれどウェアもとってある。
でも、余裕がない。
週に5日働いて、そのうち3日は夜遅くまで働いて、それでやっと子供との生活を送るので精一杯。
時間もお金も足りない。

誘ってくれるお客さんも数人いるけれど、その世話になって面倒なことには絶対になりたくない。
...4年の間ラウンドしていない、練習もしていない。
でも、ゴルフをやめたつもりはない...いつかきっとゴルフをまた始めるだろう、ということを信じている。
娘が大人になってからだろうか、どこかのいい男が私の生活を変えてくれてからだろうか、気まぐれに買っている宝くじが当たることがあってからだろうか...見当がつかないけれど。
日々を生きるのが精一杯の今、ゴルフへの情熱の火は決して消えなくても、それを表に出すことはない。

なんだかゴルフというものからは、遥か遠くに離れてしまったような気はしている。

でも、遠い時間の先であっても、必ずゴルフをまた始めるつもりでいる。
...そして、どこかのコースの1番ホールのティーグランドに再び立つことが出来た時、より深くゴルフを理解し、楽しんでいる自分がいることを信じている。

そして...そのティーショットを打ったとき、自分は笑っているんだろうか、泣いているんだろうか...
いつか、それを知りたい。

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