ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

img_0-79


問題は山ほどあった。
迷っていた。

Hさんは、所謂「アラフォー」ならぬ「アラフィフティー」の女性...もう50に近いのか、なったのか。
先日、初めてオープンコンペに一人で参加した。
...それは、彼女にとって大変な決心だった。

山ほどある問題は、例えば...お金がない、車が無い、ラウンドは一年振り、練習にも月一度行ってるかどうか、人見知りするのに一人で参加、オープンコンペなんて出た事が無い...等々。
以前、といっても3年くらい前までは練習は週に一回、ラウンドは月に2度くらい行っていた。
ゴルフは初めて10年くらい、趣味と言うか、遊びの中では一番気に入っていた。

しかし、最近身の回りの「山ほどあるゴルフを続けるのが困難な問題」に対して、自分はどう対処すればいいのか。

そこで、自分が本当にゴルフをどのくらい好きなのか、ゴルフをどう思っているのか、オープンコンペというものに出て試してみようと思いついた。
勿論、いいスコアが出るなんてあり得ないし、賞品なんてとんでもない...でも、ここで嫌な思いをしたり、ゴルフを嫌いになるような出来事が起これば、それでキッパリとゴルフをやめられる...本心はそんな所。
探したのはHさんの住んでる私鉄の沿線で、電車賃とプレーフィーなど全部入れても1万円以下で、知り合いのいない初めて行くコース。
...気持ちは、なんだか無謀な大冒険に出る気分。

一緒になったのは、それぞれ一人で来ている五十代から六十代の男性3人。
「ご迷惑をおかけします。」と一応挨拶して言っておいたけど...

3人のうち六十代の一人は上手かった。
あとの五十代の二人は、一応アベレージゴルファーという所だろうか。
自分は一人レディースティーからだけど、緊張と練習不足からチョロや当たり損ねを繰り返し、自己嫌悪と申し訳ない気持ちで落ち込むばかり...ところが、「もうゴルフはやめよう」という気にならない。
...3人の男性が、チョロをそれぞれに励まして慰めてくれる、当たり損ねのボールを一生懸命探してくれる、バンカーで出なくても辛抱強く応援してくれる、パットのラインを自分のラインそっちのけで見てくれる...
六十代の男性は、ゴルフのこぼれ話をおもしろおかしく話してくれる。
自分のプライベートな事には立ち入らずに、なんとか落ち込む自分を楽しくさせようと気を使ってくれるのが感じられる。
五十代の男性達も、自分のミスを大笑いで笑い飛ばし、「ゴルフはスコアよりも楽しいのが一番です」なんて声をかけてくれる。

...スコアは、三桁を軽く越える散々なものだったけれど、「もうゴルフはこれでやめよう」なんて気持ちにはならなかった。
半分自爆するようなつもりで飛び込んだオープンコンペは、思わずほろりとするような暖かさで自分を迎えてくれた。
勿論、いい人達と一緒になった「運」もあったろうけれど、かえってゴルフの素晴らしさ...自分はやっぱりゴルフが好きなんだ、という事を自覚させてくれるものだった。

...おまけにパーティーでは、なんと「飛び賞」の55位で「ケーキ」のお土産まで貰ってしまったし...他の3人は微妙に入賞から外れてしまったのに。

帰りの電車の中では、バッグとケーキを膝に乗せて曝睡してしまった。
多分、アラフィフティーのオバサンのみっともない姿だっただろうなあ、と思う。


...でも、ゴルフのいい夢見ていたんだから...いいんだ。

img_0-78

オープンコンペで出会うゴルファー達は、ほとんどが少ない収入と時間をやりくりして好きなゴルフを続けようとする「愛すべきゴルファー達」なんだけど...
時には場違いな人に出会う事もあるから、オープンコンペは面白い。

これはオープンコンペに参加するようになった初期の頃に出会った、「あるゴルファー」のお話。

朝、自分のバッグが積まれたカートの前に行って、同じカートにバッグを積まれた人と最初に挨拶するのは、その日のゴルフが面白くなるかどうかが決まる緊張の一瞬。
普通はお互いに帽子をとって挨拶し、「よろしく」となり、「最近はあまりゴルフをやってないもので」とか「久しぶりのゴルフなので」と言い訳を言い、「このコースは初めてなので」とか会話が続く。

その男は30代そこそこか...まるで映画の登場人物のように、背が高くハンサムで、歯並びの良い真っ白な歯を見せて笑う好青年だった。
使っているクラブも最新のクラブで、ウェアもなんだかメーカー品のものだとわかる高そうなもの。

他の二人は私と近い年齢のおじさん達だったが、この明るい若者はすぐに馴染んで会話も弾む楽しいラウンドとなった。
話題も豊富で、ゴルフの歴史などにも詳しく、ニクラスやパーマーの時代のゴルフの話も出てくる。
「いえ、私が見てたんじゃなくて、親父や祖父がゴルフをやっていたもので、聞かされていたんですよ」

昼食中などの会話でわかって来たのは、彼は代々続く医者の家系で、今は大きな病院勤務だけどやがては親の個人病院の後を継ぐ事になる...医師だという事。
ゴルフは子供の頃から親と一緒にやっていたんだけれど、自分にはあまり才能が無い...でもプレーするのは好きなので、夜勤明けなんかで急にやりたくなるとこうしてオープンコンペに飛び入りするんだと。

ゴルフの腕は、それほど執着しないゴルフのプレー振りからして、ハンデは10前後か。
いいショットを打つけれど、なぜか運悪くへんなライに行く事が多く、「あちゃー、またこんなところだ」なんて頭を掻きながら笑う。

小さい頃から「当然」医者になるのが当たり前という環境で育ち、別に「それほど」特別な苦労も無くストレートで医大に入り、病院勤務の間に「こんなところで」と結婚して、将来は「予定通り」親の後を継ぐつもり...彼が言うには「普通に」そうして生きて来たのだという。
「つまんない人生ですよ」
趣味はゴルフと車(しか)ないんだそうで..おじさん達は、何も言えずに苦笑いするだけ。

明るいプレーを続ける彼に対して、ラウンドが進むに連れて他の3人は言葉も少なくなり、淡々とプレーしていくようになった。
...何度目かの、酷くアンラッキーなライにボールが止まった時に、彼が言った。
「こんなアンラッキーがあるから、ゴルフは面白いんですよねえ」

おじさん3人は顔を合わせて、思わず同じ事を呟いた。
「彼にはゴルフしかアンラッキーな事は無かったんだろうねえ...」

img_0-77


H子さんのキャディーバッグには、13本のクラブが入っている。
1W、4W、7W、4−P・A・Sのアイアン、それにパターだ。

しかし、実際に使うクラブは1W・7W・7−Sまでのアイアンにパターの9本。
「使わない4本分、重いなあ...」なんていつも思っていた。
そもそも、ゴルフ教室の友達の最新のアイアンはみんな5番からしかない。
自分のアイアンは夫が中古クラブ屋で探して来てくれたものなので、友達のアイアンの同じ番手よりずっと飛ばないし、ヘッドも小さくて難しそうに見える。
とはいえ、月に一度のゴルフでは100なんか絶対に切れない腕前だし、高い新品のアイアンを買う余裕も無いから、特に不満は無かった。

ただ、週に3日パートに出て自分のプレー代を稼いでゴルフを続けていたけど...最近はなんとなくゴルフというものにそんなにのめり込めない自分もいて、やがてゴルフをやめるかもしれないと感じてもいた。
収入の問題と、いつまでたっても100を切れずに上手くなれない自分の腕と、もう一つ熱中出来ないラウンドの積み重ねと...

使いもしないクラブを何時も持って行くようなゴルフに、飽きていたのかもしれない。
この前のラウンドまでは。

この日は朝から風が強く、それがホールを回るほど強くなって来て、みんな強風に翻弄されてスコアは二桁が何回も並ぶ有様。
そして、あるショートホール。
140ヤードを切る距離なのに、強烈な向かい風。
H子さんより先に打った3人は、いずれもウッドだったけど、みんな風に流され、叩き落とされ、グリーンには乗らない。
H子さんも最初は4Wを持ったけど、ふと何かの本に『向かい風には大きめのロングアイアン』なんて書いてあった事を思い出して、一度もラウンドでは使った事の無い4番アイアンを手にした。
どっちみち4Wで乗る自信が全くなかったので、やけっぱちの選択ではあったんだけど。
...打った。
なんとなくぎこちないスイングだったし、変なフィニッシュだったけど、ボールに上手く当たった感触は残った。
そして...見たのは何とも言えない不思議な眺め。
自分の打ったボールが、強い向かい風の中を、ゆっくりとゆっくりと真っすぐ進んで行く。
他の人が打ったボールのように流されもせず、曲がりもせず、吹き上がりも叩き落とされずもせずに、空中に浮いて飛んで行く。
まるでスローモーションの映像のように...風の中を行くボールは、本当に不思議なほど時間をかけて140ヤード先のグリーンの上に落ちた...

奇麗な光景だった。
ボールがグリーンに止まった後、「きっとこのショットは一生忘れない」と思った。
...そして
「ああ、今私はゴルフの神様に招待されたのかもしれない。」なんて考えが、突然頭に浮かんで来た。

なぜか、頭の中のゴルフの神様は「執事」の格好をしていたけれど...

↑このページのトップヘ