ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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Sさんは、20年くらい前からゴルフを始めた。
なんだかチャラチャラしているように見えたし、金もかかりそうだったし、周りにもあまりやっている人の話を聞かなかったから、30半ばを過ぎるまでゴルフには縁がないと思ていた。

それが、勤め先の会社の人事異動に伴って、仕事でゴルフをすることが必要になってしまった。
今まで縁がなかった「接待ゴルフ」っていう奴だ。
...仕事に関係しているんだから、無様な姿をさらすわけにもいかない...あわてて近くの練習場のプロのレッスンを受けて、必死に練習した。
ところが、ゴルフって奴は簡単に上達するもんじゃなかった。
それに、レッスンプロの感覚的な言い回しが今ひとつ理解出来なかったし、体の動きも納得出来ない事が多かった。

元々が理数系の出身のSさんは、ゴルフスイングを科学的・合理的な理屈から理解しようと、本屋に行ってレッスン書やゴルフ雑誌...週刊誌、月刊誌、季刊誌、を買い集めて勉強を始めた。
練習場に行かない時には、夜遅くまでそんな本を読みあさった。

その結果、一年もせずに100を切るところまでは上達できた。
...が、そこからが難しかった。
上手く行けば90を切るかどうか、失敗すると100を越えるか、という状態が10年以上続いた。
その間も、ゴルフ雑誌のレッスン記事は欠かさず読んで勉強し、練習し、実戦した。
それでもやっぱり、うまくいったり、いかなかったり...
でも、仕事と言う面では努力が報われて、接待ゴルフはほとんど失敗なくやり通すことが出来た。
90から100くらいのスコアが、どんな相手に接待してもされても無難なところだったらしい。

Sさんは、ゴルフ雑誌のレッスン記事が役に立ったと思っている。
バンカーも、アプローチも、パットも、みんな上手くいかない時に読んだレッスン記事に助けられた。
(ただ、一つ上手くいくと一つ違う問題が出て来て、読み重ねたレッスン記事が自分の力の蓄積になっていないのが不思議だ)
だから、どの本にも自分を助けてくれた「ゴルフの真理」が載っているような気がして、雑誌を捨てられない。

はじめは部屋や廊下に積んでいたが、奥さんに「邪魔だから捨てる」とさんざん文句を言われた。
それで、狭い庭に一寸大きな物置を買って、そこに読んだ雑誌を置いてある。
ほぼ20年分、一冊も欠けてはいないはずだ。
だが心配なのは、もうそろそろこの物置が一杯になりそうなこと。
他にもう一つ物置を建てるような場所はないし、そうなったらどうしよう...

古い本から処分するしかないんだろうか...それとも...

今では年に数回しかゴルフに行けないけれど、これからの時間古い雑誌を読み返して楽しむのも「自分のゴルフライフ」だと、Sさんは思っているんだけど。

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Sさんは、荷物カゴにクラブケースをまっすぐ立てて、自転車で細い道を疾走する。
自転車はいわゆるババチャリ(ママチャリともいう)で、前後に荷台をつけてかなり年季の入ったもの。
その自転車でゴルフ練習場までの、約5キロを疾走する。

以前は歩いても行けるくらい近くに練習場があった。
子育てが一段落したSさんは、夫の勧めもあってそこの練習場のゴルフ教室に入った。
興味はあっても一生ゴルフなんてものとは縁がないと思っていたSさんだが、始めてみると...実に面白かった!
運動なんて高校のクラブ活動以来だったけれど、結構当たるしよく飛んだ。
同じ教室の同年代の女性達とも親しくなり、月に一度くらい安い河川敷に行くのが楽しみになった。
3年程続けた後,その人達とサークルを作り,年に4回程コンペもやるようになった。
自分のスコアも100を切ってたまに90も切れるくらいに上達した。
もう、ゴルフは自分の人生の生き甲斐と呼べるくらいのものになった。

...そこで、事件が起こった。
その自宅近くの練習場が閉鎖したのだ。
元々住宅地の中の練習場で狭かったために、5キロ程離れたところに出来た広い敷地の練習場に客を取られた結果だった。
やむを得ず、サークルのみんなはそっちの練習場に居場所を移した。
サークルごと練習場を移ったと言っても良いくらい...サークルのコンペの話し合いも連絡もそのコースを中心に動くようになった。
...でも、Sさんは車の免許を持っていなかったために、しばらく迷っていた。
コースに行く時にはサークルの誰かに頼んでいたんだけれど,練習日ごとに頼むのは気が引けたから。
それでも、しばらくゴルフをやらないでいると、日々の生活が我慢出来ない程ストレスがたまって来た。
「よし!」
「5キロくらい自転車で行く!」と決めた。
大きなキャディーバッグはもちろん自転車で持っていけないから、練習用の小さなバッグを買って自転車の荷台に載せて...

練習場に行って週一回の練習と、サークル仲間のオバサン達との楽しいゴルフ談義をしてみると、家に居た切りの時よりずっと生活が充実して来ると感じる。
でも、週一回自転車でバッグを積んで5キロの道を疾走するのは、それはそれで結構大変だった。
はじめは普通に前の荷台に斜めに積んでいたので、道ばたの電信柱にバッグがぶつかって転倒したのが一回,横に積んで走っていてバッグが車に接触して「あわや!」になったのが一回...
背中にバッグを斜めにかけても運転してみたけど、これはこれでなんでもない時に転びそうになってやめ。
子供用の椅子をハンドル手前に取り付けても見たが、これにバッグを乗せるとハンドルが切れなくなって怖い思いをしたのでやめ。
さすがに積み方をいろいろと考えて、自転車屋のおじさんに前のかごとハンドルでまっすぐにバッグを立てて固定出来るようにしてもらった。
これで大丈夫。
見た目はとても変だし、ちょっと人目につき過ぎるかもしれないけど、上に飛び出た枝にでもぶつからなければ運転には問題は無い。
むしろ、車からは目立って安全かもしれない。

オバサンは、ゴルフを楽しむために週一回、5キロの裏道を疾走する。

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オープンコンペに一人で参加していると、本当にいろいろな人に会える。
中には「え? そんな仕事をしているんですか?」なんて人も少なからずいて、これがオープンコンペ参加の大きな理由の一つになっているほど面白い。

ちょっと前のT県のPカントリークラブのオープンコンペ。
一緒になった人の中に、年は40前くらいで一目見ただけで体つきが普通の男とは違う「典型的アスリート体型」の男がいた。
半袖から出る腕はそこそこ太く、ボディービルダーとは違う「実戦で鍛え上げられた筋肉」というイメージの逞しい腕をしている。
特に半袖シャツの上からも広背筋が非常に発達しているのが判る...腹回りに至っては、俺の半分くらいしかない。
それなのに足の筋肉はズボンを破りそうなくらい発達している。

ゴルフには非常に誠実に取り組んでいるようで、一球一球のプレーに真剣さが溢れ出る。
...がしかし、ゴルフの腕はアベレージの上クラス、といったところ。
鍛えられた筋肉を生かしきれていない、というか...ゴルフの動きになっていない。
なまじ筋力があるせいか、テークバックでほとんど肩を回さず、腕だけで左手を90度曲げて担ぐだけ。
それでも、瞬発力があるために普通の人より飛ぶんだけれど、とんでもなく曲がる球も出る。

...曲がったボールのところに行くスピードは速く、動きは俊敏で軽い。

その常人ならざる動きと身体に、他の同伴競技者と「あの人は何のスポーツやってるんでしょうねえ?」
「ボクシングかレスリングみたいな格闘技じゃないですか」「いや、身が軽いからサッカーとかバドミントンとか..」「ボディビルってことはないから、ダンスとか俳優とか...」
なんて、職業予想が始まってしまった。

昼食の時に、ゆっくり自己紹介し合ったところ、なんと彼の職業は「消防官」。
それも、とあるレスキュー隊の隊長さんであることが判った。
(後日、ある事故のニュースの映像で、活躍する彼の姿を見ることが出来た)

...そりゃあ、体が違う訳だ...彼は人命救助のためにトレーニングを続け、自分の体を毎日いじめ抜いて鍛え上げているのだから。
壁を登り、地を這い、人を担いで足場の悪いところを走り抜いたり、自分の命を賭けて火炎の中に飛び込んだり...彼から出ている強烈なエネルギーみたいなものの正体を、それでやっと理解することが出来た。

そうした彼にとって、不規則にしか取れない休日にするゴルフは、本当にリラックスして熱中できる趣味なんだと言う。
でも不規則な休みのために普通に4人で予約してのラウンド予定は出来ず、空いていれば前日に申し込んで独りでも参加できる、こうしたオープンコンペに出るのが唯一の楽しみなんだと言う。
あまり練習する時間もないので自己流なんだけど、「ゴルフは大好きです!」と。

結局彼は90くらい叩いたけれど、実に楽しげにプレーを続け、そのきびきびとした態度は終日変わらなかった。

「僕は今の仕事が好きで生き甲斐なんですけれど、上からそろそろ現場を離れて役職に就いてくれ、ってうるさく言われているんです」
「年齢が高くなっても、現場の仕事を続けたいんですが...」
ぽつりぽつりと、彼が言っていた。

後日、彼にメールでスイングのことを聞かれた時に、「左腕を曲げるだけのバックスイングだから、左腕をのばして肩をもう少し回す意識を持つだけで40ヤードは飛ぶようになりますよ。」と伝えた。

「今はまだ飛ぶ方向が安定しませんが、飛距離は凄く出るようになりました。」
少し経ってそういう返事が来た。

あれからしばらくの時間が過ぎて思っている...彼は相変わらず体を鍛え続けて、現場を走り回っているんだろうか?
それともデスクワークをしながら、窓から空を見上げているんだろうか?
...そして、オープンコンペにはまだ参加しているんだろうか?

爽やかな好漢は、ゴルフの腕を上げただろうか?

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