ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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「あら...」
物置を整理していたとき、亡くなった義父の残したキャディバッグにカビがついているのを見つけた。
ゴルフ好きだった義父が、最後に使っていたセットを入れたまま物置の片隅にずっと置いてあるものだ。

忙しくてあまりゴルフを出来ない夫は「古いものだし処分しようか」と言うけれど、優しくしてくれた義父が一番の趣味としていたゴルフで、亡くなる直前まで使っていたクラブセットをそう簡単に捨てられる気持ちにはならなかった...もう15年以上になるけれど。

自分もシングルだった生前の義父に、グリップやらスイングやらの基本は練習場に連れて行ってもらって教えてもらったことはあった。
でも、その頃は子育てに忙しくて、ゴルフをやるなんてつもりは全くなかった。
それが、子育ての一段落した3年程前から、スポーツ教室の一つとして始めたゴルフが面白くてしょうがなくなってきて、義父のキャディーバッグに生えたカビが気になったのだ。
...「可哀想に」と思って、バッグを奇麗に拭いて中のクラブがどうなっているか覗いてみた。
ウッドはパーシモンが2本と、小さなメタルウッドが1本、古いリンクスのアイアンセットと、古いピンのパター。
毛糸のヘッドカバーを被せてあったウッドを見ると、ドライバーだけが新品のように奇麗なものだった。
つい引っ張り出して手に取ってみると、意外に軽くシャフトも柔らかく感じる。
パーシモンのドライバーなんて最近見たことないからよくわからないが、なんだかヘッドが普通のよりもっと小さい気が...
でも木目の奇麗な、傷のないドライバー。
...それで思い出した。
亡くなる直前に、入院していた義父を世話していた時に「ゴルフは本当に面白いからやって見なさい」「私のドライバーを使っていいから...」なんて言われたことを思い出した。
「子供の手が離れたらやってみたいですけど、私に男物のドライバーなんて使えませんよー」なんて言って、その話はそれで終わった。

15年以上たって、その小さなパーシモンのドライバーを持ったとき、不思議な気持ちがしたので夫に聞いてみた。
「あのドライバー、お義父さんが使ってみろって言っていたけど、私に使えるのかしら?」
「ドライバー?...そういえば、入院する前に病気で体力が落ちているので、ドライバーを特注で作ってもらったって言っていたなあ...」
「それを使っては2ラウンドしか出来なかったけど..」

夫にそのドライバーを見せると
「ああ、やっぱり!」
「これ、ドライバーを小さく薄く削ってロフトをつけて、シャフトもレディースだよ...それで、本当は3Wか2Wみたいなもんなんだけど、かっこが悪いからって1番のソールをつけているんだ」
...確かにヘッドは小さくて、Green Pro って書いてあるのに、ソールにはHONNMA EXTRA 90 の1というのがついている。
おまけにフェースの反対側にはバックウェイトと言うんだろうか、大きなものがはめ込んである。
シャフトは赤紫の柔らかいもので、何の表示もついていないし、グリップも細い。
「そうだ、おやじの奴...結構高くなったけど、自分が使わなくなってもお前が使えるように特注で作ったんだって言っていたっけ..」

そうか...だから病室であんなこと言ったんだ..

練習場で打ってみると、飛ばないし、難しいし、使える自信は全くないけれど、当たった時に本当に優しい感触が残る。
私のキャディーバッグには、どうせ12本しかクラブが入っていないんだから、これからはこれも入れて行こうと思っている。
ラウンド中に1回でもこれを使って打てば、ゴルフにも自分にも周りにも優しくなれるような気がするから。

...今頃気がついた、お義父さんの最後のプレゼント...どうもありがとう。


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まだ揃えたばかりで、何ラウンドも使わないうちにゴルフ休止を宣言せざるをえなかった一級建築士のTさんは、以前の仕事部屋の片隅にまだキャディーバッグを置いていた。

バブルの頃には仕事は次々とやって来て、寝る間もない程忙しかった。
その頃から始めたばかりのゴルフに熱中して、仕事が一段落すると殆ど寝ずにゴルフに行くなんて事がよくあった。
稼ぎも良かったので、すぐに手の届くコース(ちょっと遠かったが)の会員権を2枚手に入れ、間もなくシングルハンデと言う所迄腕を上げていた。
当然道具にもこだわり、当時最先端の「飛ぶ」と言われた230チタンに、プロ好みの顔と言われたダンロップのDPー201アイアンを揃えた所で「風が変わった」。

バブル崩壊と共に個人事務所への設計以来の仕事は激減し、食うのに困る程になってしまったので、ゴルフは一時休止として大手設計事務所の契約社員となった。
幸い、一級建築士の資格は仕事内容に拘らなければ仕事口は十分にあった。

「やがて景気が回復すれば個人事務所を再開し、またゴルフを始めたい」「また始める時にはまだ新品同様の230チタンが、きっと喜びの雄叫びを上げてくれるはず」「DP−201はきっと得意のドローボールでピンを攻めて行けるはず」...そう思って、じっと我慢の時を過ごしていた。

しかし、長い時間と共に何回か事務所を変わって、だんだん身体にきつい仕事が多くなった。
個人の設計の仕事が多くなる事は無く、雇われでしか稼ぎを得る事は出来ない状況はずっと変わらなかった。

あれから、本当に、随分の時間が過ぎてしまった。

数ヶ月前に、現場でやってしまった。
不安定な足場でチェックをしていた時に、不意にバランスを崩して....落ちた。
命に危険のあるような場所ではなかったが、落ちた時に右足に激痛が来た。
足首に激痛があり、軽い怪我では済まない事が脂汗と共に感じられた。

足首の複雑骨折。
折れた骨は外には出ていなかったが、単純な骨折ではなかった。
3ヶ月は動けなかった。
この年だから、折れた骨が完全に治るのには一年以上はかかるだろう。
足首を固定して、杖を突きながらなんとか歩けるようになったのが、つい一週間前。
仕事に行かなければ収入も無いので、とにかく早くリハビリをして現場に出られるようにならないといけない。
これから毎日少しずつでも歩くようにする。

...しかし、これでゴルフはもう二度と出来ないだろう。
最後に残っていた僅かなゴルフに対する気力も、これで尽きてしまったような気がする。
医者にも、ゴルフはもう無理だろうと言われた。


ああ、230チタンよ。
DPー201アイアンよ。
悪いなあ...
お前達は買ってから何ラウンドも使っていないよな。
...俺はいつかまた、お前達と一緒に緑のフェアウェイを歩けると思っていたのになあ...

もう売っても二束三文にしかならないし、捨てるのも忍びない。

なあ、230チタンよ...
これからはこの部屋の片隅で、「叶わなかった夢」の話を肴に、俺と一緒に酒を飲もうか...愚痴ろうか。

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Tさんは一級建築士、建築設計のプロだ。

20年以上前、バブルの始まる頃に師匠である有名建築家のもとから独立して、自分の建築設計事務所を立ち上げた。
その頃はマンションの設計を受けると、設計料は数百万円の金が入った。
そういう仕事が途切れることなく入って来て、設計事務所は順風満帆、早くから(ウィンドウズになる前から)パソコンのソフトを使用した設計技術も信頼されていた。
ゴルフは師匠のところにいる頃から始めて、自分の設計事務所を持つ頃には二つのコースのメンバーだった。
ただし、その頃は会員権の値段も急騰して、買えたのは栃木や群馬のちょっと遠いコースだったけど。
時間が空いた時には、近くの空き地にボールを4−50個持って行ってアプローチ練習するなど、かなり熱中してゴルフをやっていた。

しかし、しばらくして流れが変わった。
バブルの崩壊とともに、大きな仕事が来なくなった。
仕事は小さな改装や立て直しなんてものの設計や修正が多くなり、入ってくる金額も一桁以上少なくなった。
その後も流れは変わらず、家のローンの支払いにも事欠くようになって、ゴルフの会員権は2枚とも手放した。
そして今では自分の設計事務所は畳んで、大きな設計事務所に契約社員で通っている。
奥さんもずっとパートで働いている。

...仕事では使わなくなった自宅の事務所の片隅に、今でもキャディーバッグが一つ置いてある。
最後に使ったのはもう15年以上前になるだろうか...大学の同窓会のコンペだった。

この何年かは、キャディーバッグに触れてもいないけれど、中に入っているクラブは、いつか再びゴルフを再開するときのためにと、最後にそろえたこだわりのクラブだ。
アイアンはダンロップのDP−201が2番から、パターはピンのスコッツデール、フェアウェイウッドはテーラーメイド...そしてドライバーはブリジストンの230チタン。
(230チタンは当時最新のドライバーで、これを初めて使った時にはその飛びに感動したものだった...)

これらのクラブは、シングルハンデを目指して熱中していた当時に、自分が考えた最強のクラブセットだった。
数年前に、カビの生えてしまったグローブや、黄色く変色したボールは捨てたけれど、このクラブセットは捨てるのに忍びなくて部屋の片隅に置いたまま...
時間の流れを感じるのは、当時最大容積のドライバーということで230を名に付けたドライバーが、今主流のドライバーの半分の容積しかない、という事実。

そんな、買ってから何ラウンドも使わなかった230チタンだが、自分がゴルフを再開するときが来たら、また自分の期待に応えてフェアウェイで吠えてくれるんだろうか。

...ずっとキャディーバッグの中で待っている230チタンは、どんな夢を見ているんだろうか...

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