ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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気温はいったい何度くらいなんだろう。

下界では36度くらいと言っていたけれど、この低い山の中のゴルフ場はいったい何度になるんだろう。
しくじった。
日傘を忘れてしまった。

朝から2度も日焼け止めを塗り、UVカットの下着やシャツを着て、両手にグローブをつけて、つばの広い帽子をかぶり、サングラスをして...完璧だと思ったのに...日傘を忘れた。
せっかくネットで見つけて取り寄せた、軽くてUVカット、紫外線遮断率99パーセントなんてやつだったのに。

ゴルフをするたびに目に見えてシミが増えるのに気がついて、もう若くはない自分を認めざるを得なくなった。
つい最近まで自分の味方だと思っていた夏の太陽が、自分を老化させようとしている敵だって事にやっと気がついた。
つい最近まで、夏に半袖にならないオバサン達を笑っていた。
つい最近まで、夏にスカートをはかないオバサン達を馬鹿にしていた。

悪かったと思っている...若さは馬鹿さだったって。
紫外線の恐怖を自分の肌で知ってから、自分はオバサンだと開き直って、真夏でも長袖、パンツのオバサンルックを徹底しようと決めた。
馬鹿にされても、真っ白になるくらい日焼け止めを塗って、暑くったって肌は見せない。

本当は夏のゴルフなんてやらなければいいのに、生き甲斐がゴルフなんだからそれは論外。
で、こうして炎天下でもゴルフをしに来てる訳。
...ああ、日傘を忘れてしまった。

カートは遠い。

日向にあるボールは、眩しく白く光っていて、目に痛い。
たどり着いた木陰は砂漠のオアシス。
この木蔭から出てボールを打つことは、一大決心がいる大冒険。

打ったらすぐに逃げなくちゃ。
あの日の光の下から逃げなくちゃ。

カートが迎えに来てくれたら、急いで走ってすぐに逃げ込まなくちゃ...

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「なんでこんなにゴルフで辛い思いをしなければならないんだ。」
Yさんは、ここの所ずっと楽しくゴルフをすることが出来ない。

YさんとWさんは、20年ほど前にほぼ同時にゴルフを始めた。
仕事は違うけれど年は一つWさんが上で、住んでいる地域の草野球のチームで知り合った。
チームの中で若く運動神経も良かった二人は、Yさんがピッチャー、Wさんがキャッチャーでコンビを組み、チームを地区の4部から1部まで引き上げた。
そんな草野球もだんだん参加者が減ってきて活動が出来なくなり、その頃一般的になって来たゴルフに転向する人が多くなった。
YさんとWさんも、そんな人に誘われて同時にゴルフを始めた。

始めるとすぐに二人とも熱中し、運動神経の良さもあって同じように上達していった。
そして二人で平均して100を切るかというくらいになった時に「永久スクラッチ」でニギることを約束した。
「半年に一回勝負して、負ければプレーフィの全額と1万円払う」という条件。
勿論永久スクラッチでニギるくらいだから、勝負は拮抗していつも1打か2打差で決着し、勝敗も勝ったり負けたりのほぼ互角の勝負だった。
その半年に一度の勝負のために、練習し、クラブを換え、健康に気をつけ...それぞれが入会したクラブの競技より真剣になったほどだった...そして、帰ってからの居酒屋での一杯は(飲み代は勝った方が、せしめた1万円で払う)「本当にゴルフを始めて良かった」と思わせてくれるものだった。

...それが数年前から、変わってしまった。
大手の会社に勤めていたWさんが、リストラされたらしいと風の噂に聞いた。
(草野球をやっていた頃の近所付き合いの出来た借家から、それぞれ家を買って離れた場所に引っ越してしまった二人は、半年に一度会う以外の付き合いはなくなっていた。 なので、Wさんの個人的な事情は全く判らなかった...会った時はゴルフの話ばかりだったし。)
...そして別の噂では、離婚したとも、再就職に苦労しているとも...

ゴルフが勝負にならなくなった...
今は8のハンデを持つYさんに対し、以前はいい勝負をしていたWさんは100以上を叩いてしまう。
クラブもずっと変わらないし、練習もラウンドもしていないのが判るような初歩的なミスを繰り返す...
スクラッチで勝負していると、3ホールで差がついて最終的には15打以上の差が当たり前になる。

「ハンデやろうか?」
「いや、一度永久スクラッチと言ったんだから、永久にスクラッチだ。」
「でも、勝つに決まった勝負なんかつまらねえよ」
「ハンデ改正は、負けたもんが言い出したら考えろよ。負けてる俺がスクラッチだと言ってるんだからスクラッチだ。」

そういう男だった。
しかし、半年に一回といっても年に2回、負ければプレーフィで二人分の4万に宴会代の1万を百パーセント勝てる相手に払わせ続けるのは苦痛でしょうがなかった。
苦労しているであろうWさんにとってこの対戦が唯一の楽しみであるにしたって、せめて勝ち負けが判らない程度のハンデをつければYさんだってこんなに苦しい思いをせずに楽しめるのに...
もうYさんには、Wさんとの半年に一度の勝負がちっとも楽しくはなく、苦痛だった。
4年間、8回続けて楽勝してしまったYさんは、Wさんに
「今日の差の8割をハンデにしなければ、Yさんとのこの勝負はやめる」
と宣言した。

「お前は男が一度約束した事を、一方的に破るのか!」
「俺はお前と5分の勝負がしたいんだ、勝つと判った勝負はちっとも楽しくない!」
 「お前は俺を馬鹿にするのか!」

喧嘩になってしまった。
今年の勝負の約束は流れた。
Yさんは自分が男の約束を裏切ったことを自覚している。

でも、他にどうしろと言うんだ...
こんな辛いゴルフを、まだずっと続けろというのか?

以前のように、「全力を出して一打を競い合うゴルフを、Wさんとしたい」と、本当に願っているのに。

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Tさんは、ボールをマークしてラインを見る。
「この瞬間が、なんとも言えず好きなんだなあ...」と思う。

Tさんは関西出身の女性。
大学を出てから公務員試験に通り、東京で公務員になった。
その勤務先で大学のゴルフ同好会にいたという女性と同僚になり、付き合いにも必要とわかってなんとなくゴルフを始めることになった。
...そして、間もなくゴルフの魅力に取り憑かれ、熱中した。


(毎日書類とにらめっこの仕事には、土・日と休める時間のゴルフが絶対に必要と感じた。
幸い週2日は必ず休める公務員生活、「遠いけど面白い」と言う評判のコースに入会し、もう10年以上土・日の2日間コースに通っている。
土曜日の朝、2時間かけてコースに行ってプレーをして、その夜はコースのロッジに泊まり、日曜日に月例なりプライベートなりのラウンドをして帰る。
ハンデは11まで行ったけど、そこで止まっている。
...自分で、こんなもので十分なんて思っているから、これ以上のハンデの更新はないだろう。

5日間の公務員としての生活と、土・日のコースでの日々は充実していて何の不満もない。
コースに行けば、必ず10人以上の仲の良い常連の人達がいて楽しいラウンドが出来るし、月例なんかでは同じクラスに知らない人はいない。
レストランで座る席も大体決まっているし、コースの支配人やプロや研修生、レストランの従業員までまるで家族のような付き合いだし...

今までに好きな人がいない訳でもなかったけれど、ゴルフをやめてまで付き合う気もなかったから、大したドラマにもならなかった。
唯一、コースの常連の一人に熱烈にプロポーズされた時には、困った。
あからさまな好意の表現はコースのメンバー達の評判になってしまったし、いつも同じ組になろうと言うのを無理に断ることも出来なかったので、1年ほど「何時二人は結婚するのか」と賭けの対照にされたりもした。
こちらには公務員を辞めてまで結婚するつもりは全くなかったので、あくまで断り通した結果...彼のコースからの退会でその話題は自然消滅した。

...今では私には、「クールな女」と言う評判が定着している。
確かに、毎週土・日の2日間コースに必ず来て、ショットの結果に関わらずゴルフを楽しもうとしている私は、普通の女性ゴルファーのように喜怒哀楽を大袈裟に表に出してはいない。
でも、本当はどのホールだって、ボールをティーアップする時とボールをマークしてラインを読もうとする時、心の底から熱いものがこみ上げて来て、「飛ばしてやる!」「絶対に入れてやる!」と本気で真剣で情熱的な目つきをしていると思うんだけど。
そうして、その時の熱い自分が本当に正直な自分の姿だと思っているんだけど。


それがわかってくれて、仕事をやめないで済む...そういう男性となら結婚してもいいとTさんは思っている。
ずっと独身でいる、なんて決めた訳じゃ決して無い。

でも、もう40を過ぎてしまったTさんだけど、今の生活を変えるつもりは全くない。

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