ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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毎月ではなく、何ヶ月に一回と言うくらいで頻度で月例に参加していた頃の話。

その時は、気持ちの良い季節だったので久しぶりの月例に参加しようとしていた...が、仕事の都合で直前迄出られるかどうか判らない状態だった。
やっと仕事の都合がついたのが金曜日。
日曜日の月例に、キャンセル待ちでも良いから、と申し込みの電話をした。
「Aクラスなんですけど、空きありますか?」
「9時丁度でしたら空いています。」
「え? そんなに良い時間が空いてるの? じゃ、それでお願いします...キャンセルが出たんですか?」
「いえ、そういう訳じゃ...」

...?、何か変だな、とは感じながら、月例へ。

コースに行くと、いい季節だったのでやはり参加者は多く、練習場も一杯。
スタート時間、同伴競技者に挨拶すると、中年の50代の男と若い30代の男と私の3B。
中年の男は見かけたことはある顔だけど、一緒に回るのは初めて。
若い男は新入メンバーだという。

顔見知りのキャディーさんがついたので挨拶すると、「今日はよろしく。今日は大変だねー」...え??。

....スタートホールで、判った。

この中年男、アドレスに入った後、クラブを持ち上げて顔の前にかざし、何やらクラブにぶつぶつと話しかける(言い聞かせてるのか?)。
その姿は、まるで神社で神主が持っているあのヒラヒラがついた棒...「御幣」とか「大麻(オオヌさ)」とか「祓え串」とか言うらしい...を顔の前に掲げて何やら唱えている姿にそっくりだ。
そして、おもむろに腕を下ろしアドレスに入る。
見ている人間は息を止めて、スイングを始めるのを待つ...待つ...待つ...

...と、また腕を上げてなにやらクラブにぶつぶつと。
また下ろす...また上げてぶつぶつ...また下ろす...

それが、さすがに3度目、4度目になると、「今日は来なけりゃ良かった」と深い後悔がじんわりと湧いて来る。
後ろの組の人達は、誰も彼のスイングを見ていない。
てんでに勝手な方向を向いて、目をそらしている。

そうか、そういうことだったのか...みんなこの男の事を知っているんだ。
9時が空いていたのも、キャディーが同情したのも...この男、だ。

莫大な時間を使って、延々と儀式を繰り返した後、ボールはフェアウェイセンターへ。
お辞儀をして、にっこり笑って、引きつった顔の我々を気にもしないでクラブをバッグに戻す。
マナーは良いらしい、腕もそこそこらしい、人柄も悪くはないようだ...毎ショットごとに発狂するほど同伴競技者をイライラさせる以外は。

...自分のゴルフ人生で、一緒に回っている人を後ろから蹴り倒したくなったのはこの男だけだった。

そしてこの男、毎月例の度に、真っ先に9時丁度のスタートに自分の名前を書き入れるので、みんなはその時間を避けているって事が判った。
そのクセは月例参加者の間では有名で、あだ名が「神主」とか「お辞儀屋」とか言われていることも判った。

当然その日の俺ともう一人のスコアは滅茶苦茶となった。
さんざんイライラさせられているのに、彼が遅れる分を我々二人が必死に急いでプレーしなければならなかったので。
もう、「9時丁度のスタートだけは絶対に取らない」...頭の中でそう言う言葉をずっと繰り返していた。



...しばらく時間が経って、その男がクラブを退会したと噂で聞いた。

月例参加のメンバーが、皆「彼と同じスタート時間だけはやめてくれ」と名指しをして申し入れるようになり、遂には一緒にプレーをする人がいなくなってしまったらしい。

彼のそのクセが最後迄治ることはなかった、とも。

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Sさんは、11月で長く続けてきた女性同士のゴルフサークルを休会することにした。
夫に勧められて始めたゴルフには相変わらず熱中していて、月に一度か二度のラウンドが「生き甲斐」になっていたんだけれど。

今迄は、生活にあまり余裕がなくなっても、いろんな事を我慢してゴルフを続けてきた。
...まあ、ゴルフが出来るんだったら、そんなことは「我慢」とは自分で感じてなかったけれど。

ゴルフウェアもクラブも最近は新しく買っていない。
ボールや小物は、仲間内のコンペで入賞して手に入れていたし、ゴルフをやめた友達が、わりと新しいウェアをくれたりしたから。
クラブはもう十年以上前に夫がボーナスで買ってくれたものだけど、別に不満は無かったし。

でも、さすがに最近はゴルフを続けることが心苦しくなってきた。
...仲の良かった仲間の何人かが、会をやめて行った。
ある人は、介護士の勉強をするために。
ある人は家計を助けるために、ゴルフをやめてパートで働き始めた。

自分の夫の仕事も、不景気の影響で収入が激減した。
夫はもう2年以上ゴルフに行っていない。
とても月に一度とはいえ、自分だけがゴルフに行けるような状況ではなくなってきた。
一日遊んで全部で約1万円...安いゴルフ場で遊ぶにはそれで済む...そんなに贅沢な遊びではないと思うんだけど、何日かは買い物して生活出来る金額。

しばらくの間、パートの仕事をやることにした。
稼いだお金の半分は生活費に、半分はゴルフ用に貯金する...そう考えてSさんは、ゴルフのサークルに休会届けを出した。

...ゴルフをやめる訳じゃない。
未だ100を切ったことはたった一度しかないけど、また100を切れるゴルフをする時が、きっと来るだろうと信じている。
クラブも服も大事に取っておく。
時が流れて服やクラブが時代遅れになっても、そんな事は気にならない。

今度再びゴルフをやれる時が来たら、きっと一打一打が凄く愛おしいショットになるだろうな...
そんな風に今は感じている。


...だから、しばらくの間...

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近所にある打ちっ放しの練習場。
平日一時間1300円、2時間1800円なんて値段で、何時も半分以上の席が埋まっている。
普通は時々1時間の打ちっ放しに行くくらいだが、そこで珍しく2時間打ちっ放しをやっていた時の出来事。

1階の打席で30分ほど打っていた時に、二つ前の打席に4人連れの親子がやってきた。
小学校高学年くらいの男の子と、中学生くらいの女の子と40年配の夫婦。
最初は「最近多い、ゴルフの英才教育の親子か...」なんて思って、あまり注目していなかった。

それから30分くらい、男の子と女の子が交互にドライバーを打ったり、アイアンを打ったり楽しそうに練習をしている...父親は打席後ろのイスに座ったまま、時々右手で指さして何か注意しているようだ。
母親は後ろで立ったまま、黙ってそれを見ている。

...そのうちに、「あれ?」と気がついた。
父親がイスから立って打席の所に歩いていくときに、左足を引きずっている...よく見ると左手は全く動かずに、右手だけで色々教えている。

「そうか...まだ若いのに」

...それから更に30分くらい経って、子供達も一通りの練習が終わったという頃、急に父親が娘からアイアンを一本受け取った。
娘を後ろに下がらせて、自分が打席に入る。
やはり左手と左足が効かないらしく、右足に体重を乗せて立ち、右手一本でクラブを短く持っている。
振り上げて...見事に空振りした。
力の入らない左足に体重が乗りかけて前に倒れそうになったのを、右手に持ったクラブで支えてどうにかこらえた。

打席の後ろでは、奥さんが手で顔を覆っている。
子供が「お父さん、がんばれ!」と声を掛ける。
もう一度ボールを置いて、構える...今度はダフった。
それでもかろうじてボールの頭をかすめたようで、ボールは打席をころころと転がって下に落ちた。
彼は真剣な顔でまたボールをセットする。
女の子も男の子も、声を掛けて応援している。
今度は、ヘッドの先に触れてシャンクしたように右に転がっていった。

その頃になると俺以外にも、前の人や向こう側の人、通路を歩く人も彼のことに気がついていて、自分の練習をしているようなフリをしたまま彼の動きを気にするようになっていた。
彼が打つ瞬間には、周りで誰もボールを打たなくなった。
4球、5球と彼は下を向いたまま、必死の顔で右手一本でボールを打とうとする。
ろくにヘッドに当たらないショットが続いても、彼は諦めない。
子供達も諦めない。

そして、7球目だったか8球目だったか...
やっとフェースにきちんと当たったボールは、30ヤードほどの距離をまっすぐ飛んで転がっていった。
...彼ははじめて顔を上げて子供達の方を見た。
奥さんは顔を手で覆ったまま、後ろを向いた。
俺は思わず「よし!」と、声が出てしまった。
前の打席の若い男は、こちらを向いて小さくガッツポーズをした。
ちらちらとこちらを振り向いて気にしていた、向こう側の打席の男はホッとした顔をして、タバコに火をつけた。
通り過ぎようとして、つい立ち止まって見ていた人達も、ふっと笑顔を作りながら、まるで止まっていた時間がやっと動き出したようにまた歩き出した。

周囲のボールを打つ音が戻って来て、子供達もまたクラブを持って打ち出した。

...彼は足を引きずりながら、後ろを向いたままの奥さんの所に行って、右手で肩を抱いた。

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