ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

img_0-77


H子さんのキャディーバッグには、13本のクラブが入っている。
1W、4W、7W、4−P・A・Sのアイアン、それにパターだ。

しかし、実際に使うクラブは1W・7W・7−Sまでのアイアンにパターの9本。
「使わない4本分、重いなあ...」なんていつも思っていた。
そもそも、ゴルフ教室の友達の最新のアイアンはみんな5番からしかない。
自分のアイアンは夫が中古クラブ屋で探して来てくれたものなので、友達のアイアンの同じ番手よりずっと飛ばないし、ヘッドも小さくて難しそうに見える。
とはいえ、月に一度のゴルフでは100なんか絶対に切れない腕前だし、高い新品のアイアンを買う余裕も無いから、特に不満は無かった。

ただ、週に3日パートに出て自分のプレー代を稼いでゴルフを続けていたけど...最近はなんとなくゴルフというものにそんなにのめり込めない自分もいて、やがてゴルフをやめるかもしれないと感じてもいた。
収入の問題と、いつまでたっても100を切れずに上手くなれない自分の腕と、もう一つ熱中出来ないラウンドの積み重ねと...

使いもしないクラブを何時も持って行くようなゴルフに、飽きていたのかもしれない。
この前のラウンドまでは。

この日は朝から風が強く、それがホールを回るほど強くなって来て、みんな強風に翻弄されてスコアは二桁が何回も並ぶ有様。
そして、あるショートホール。
140ヤードを切る距離なのに、強烈な向かい風。
H子さんより先に打った3人は、いずれもウッドだったけど、みんな風に流され、叩き落とされ、グリーンには乗らない。
H子さんも最初は4Wを持ったけど、ふと何かの本に『向かい風には大きめのロングアイアン』なんて書いてあった事を思い出して、一度もラウンドでは使った事の無い4番アイアンを手にした。
どっちみち4Wで乗る自信が全くなかったので、やけっぱちの選択ではあったんだけど。
...打った。
なんとなくぎこちないスイングだったし、変なフィニッシュだったけど、ボールに上手く当たった感触は残った。
そして...見たのは何とも言えない不思議な眺め。
自分の打ったボールが、強い向かい風の中を、ゆっくりとゆっくりと真っすぐ進んで行く。
他の人が打ったボールのように流されもせず、曲がりもせず、吹き上がりも叩き落とされずもせずに、空中に浮いて飛んで行く。
まるでスローモーションの映像のように...風の中を行くボールは、本当に不思議なほど時間をかけて140ヤード先のグリーンの上に落ちた...

奇麗な光景だった。
ボールがグリーンに止まった後、「きっとこのショットは一生忘れない」と思った。
...そして
「ああ、今私はゴルフの神様に招待されたのかもしれない。」なんて考えが、突然頭に浮かんで来た。

なぜか、頭の中のゴルフの神様は「執事」の格好をしていたけれど...

img_0-76

Hさんのバッグには1本の古いクラブが、使わないのに入っている。
古いと言っても、パーシモンなんかではなく一頃流行ったメタルのフェアウェイウッドなんだけど。

それをバッグに入れた理由は一人のイギリスのプロのため。
とは言っても、Hさんはそのプロのファンなんかでは無く、むしろそのプロが大嫌いだった。

プロの名はニック・ファルド...キャディーバッグに入っているのはアダムスのタイト・ライズ。
ニック・ファルドが強かった頃使っていて、宣伝にも出たりして世界的にヒットしたクラブだった。

...Hさんは、元々人付き合いが苦手なタイプで、ゴルフに熱中していても特に仲のいいゴルフ友達がいる訳でもなかった。
それに、他人に誘われる事も少なかったので、近くの安いクラブのメンバーとしてゴルフを続けていた。
そのクラブでも、他人のなあなあのゴルフが嫌いで、つい曖昧なプレーには文句を言ってしまうので煙たがられる存在なのは判っていた。
本心ではもっとみんなと仲良くやりたいんだけれど、どうしてもそれができない。
やっぱり気持ちとは裏腹な行動をしてしまって、また嫌われてしまう。

そこにニック・ファルド。
強かった...本当に見せ場の無いつまんないゴルフなのに強かった...相手がいくつバーディーをとろうと、派手なプレーをしようと、淡々とスコアカード通りのプレーをして勝ってしまう。
そして、ファルドに負けるのは派手なプレーで人気のあるゴルファーが多かったために、いつもファルドは「敵役」の立場の嫌われ者だった(ように感じていた)。
Hさん自身も、最初はファルドっていうプロはどうにも好きななれない存在だった...が、それでも勝ち続けるファルドの強さに、いつしか「尊敬」の念を持つようになった。
嫌われ者だって(本当はどうか知らないが、Hさんはそう感じていた)あんな風に強くなれるんだ...
...自分もファルドのようになりたい。
人に嫌われようと、何時もいいゴルフができるようになりたい。

それで、ファルドの宣伝していたタイト・ライズを手に入れた。
使ってみるとフェースが薄いためにテンプラが多発して、自分にはあまり武器にはならなかったけど。
でも、これがキャディーバッグの中にあると、「ファルドのように嫌われ者でも強く!」という気持ちが湧き上がるのでずっと入れている。

それなのに。
最近あいつはどうしたんだ。
もう何年もあいつの噂も聞こえやしない。
あんたは嫌われ者でも強いんだろ?
シニアに行ったって、あんたのゴルフは絶対通用するはずだよ。
なんで、テレビに映って来ないんだよ。

憎まれっ子世にはばかる、だよ...俺はあんたが強くなければ困るんだよ。

最近のHさんは、元気が無い日が続いている。


img_0-75


今年76になるKさんは、まだゴルフ歴は10年。
始めたのは65歳、やらざるを得なくなって始めたものだった。

それを仕掛けたのは、幼なじみの古い親友だったTさん。
Kさんの趣味は釣りで、Tさんとは川でも海でも腕を競ったライバルだった。
年を取ってからは川や沼がメインだったが、腕も道具も釣果も自慢しながら酒を飲む付き合いだった。

そんなTさんは、10年前にガンで亡くなった。
落ち込んでいたKさんにTさんの奥さんから電話があり、TさんがKさんにと残したものがある、という。
それを聞いたKさんは、てっきりTさん自慢の名竿を親友の自分に残してくれたのか、と内心...

しかし、車で来たTさんの長男が持って来た物は、靴からクラブからボールまで全部揃ったゴルフ道具一式だった。
おまけに、何冊かの本まで一緒に持って来た。
「親父が入院している時に、『俺と靴のサイズもみんな一緒だから、全部あいつに譲ってやってくれ。それに教本やゴルフの勉強の本も一緒に用意するから』と言われてました。釣りの道具は僕が全部譲り受けました。」
...そういえば、生前何度もゴルフをやらないかと誘われていたけど、「俺はあんなものやらん、釣り一筋だ」と何時も言い返していたっけ...

「竿じゃなかったのか...」
どうにも納得出来ない気持ちで、持って来た本を手に取ると...「ダウン・ザ・フェアウェイ」?「非力のゴルフ」?「ゴルフ名言集」?「200ヤード飛べばシングルになれる」?...ルールブックとかまである。
その「ダウン・ザ・フェアウェイ」なんてのを手にとっても、何が書いてあるのかさっぱり判らない。
一ヶ月ほどTさんの残した道具を前にして悩んだ末に、近所の練習場に行ってプロに教わって始める事にした。
もちろん始めはろくに当たりもしなかったが、何回かちゃんと当たるとそれなりに面白いような気がして来た。

それから10年、ドライバーだけは新しく大きなヘッドのものに買い替えたが、他はそのまま使っている。
初めて持った時に、シャフトに書いてあるメーカーの名前が釣り竿メーカーと同じだったのに驚いた...なんとなくしなる感じも釣り竿に似ていなくもないな、なんて思いはした。
10年、今は釣りよりゴルフの方が行く回数ははるかに多いが、正直よくわからないと言う気持ちがまだ残っている。
本の内容も、まだ良く理解出来ないし。
他人から見たらベテランゴルファーに見えるようで、よく頼りにされるんだけど...「まだ初めて間もない新米なもので」と応えるのが癖になってしまった。
まあ、面白くないか?と聞かれれば、...勿論「面白い」とこたえるんだけど。

そういえば、あいつの残した道具や本の他に一通の手紙があったっけ。

「暇つぶしにやってみろ、後悔しないぞ。」
としか書いてなかったが。

↑このページのトップヘ