ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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もうどんなコースでも、スパイクのゴルフシューズは使用禁止になっている。
コースで出会う人達の履いているシューズは、殆ど全部最近作られたゴルフシューズばかりだ。
完全防水、軽量、スパイクレス、材質は皮や合成皮革その他いろいろ。

昨年のオープンコンペで、珍しく古いフットジョイの革靴を履いているゴルファーに出会った。
年は50代半ば、クラブはドライバーもアイアンもわりと最近のクラブなのに、靴だけは古い(よく言えば貫禄のある)シューズを履いているのが気になった。

昼の食事の時に話す機会があったので、それを尋ねてみると...

その男がゴルフを始めたのは29歳の時、仕事の都合で始めたんだけれど、始めたらやっぱり「ハマった」。
しかし、安月給のサラリーマンで、おまけに結婚したばかり、とてもしょっちゅうゴルフにいけるような身分じゃなかった。
クラブやキャディバッグやボールは、近所のディスカウントショップで揃えた。
靴もビニールを貼り合わせて作ったような、安物の靴を何千円かで買った。

...そうして月に一回行けるどうか、というゴルフを楽しみにして1−2年経った時に、その当時尊敬していたゴルフの上手い上司に言われたそうだ。
「君は上手くなりそうだから言っておくが、やがてはアイアンはベン・ホーガン、靴はフットジョイを履くようなゴルファーになりなさい。」
...その言葉が印象深くて、「その後ずっと頭から離れないんですよ」と言う。

やがて、ベン・ホーガンのアイアンはその頃できはじめた中古ショップで手に入れたり、新品も安くなってきたので買うこともできた。
...だが、フットジョイの革靴は高かった...クラブならローンで10万前後のものも買えたけれど、靴の3万から5万は出せなかった。

悩んでいたときに助けてくれたのが奥さん、楽な生活じゃなかったのに自分のへそくりからお金を出してくれて、その当時5万円くらいした皮のフットジョイを買うことが出来たんだそうだ。
「それから、底皮の張り替えもして、今でも時々履くんです。」
「ええ、女房が買ってくれたみたいなこのフットジョイ、私の大事な宝物です。」
「絶対に捨てたりなんかできませんよ。」
「勿論、スパイクはプラスチックに替えてあります」

...格好いい。

...実は、俺の家の下駄箱の奥深くにも、ビニールの袋に包まれて4足の革靴が置いてある。
フットジョイが3足、エトニックが一足。
「ちゃんとした本革製の高いシューズは、重さもゴルフにあってるし、底皮の張り替えをすれば殆ど一生ものだ、」と言われて増えてしまったものだ。
いろいろなことがあった人生で、何かが上手く行って「自分へのご褒美」と買ったものばかり。

憧れのフットジョイを、それこそ「清水の舞台から飛び降りる」覚悟で買って興奮したあの時代の思いが、履く機会がなくなってもこの靴を簡単に捨てさせない理由だと思う。

今履いているのは、安くて軽くて完全防水のデジソール。
どんな天気でも平気だし、アフターケアも必要ないし、セルフのカートゴルフでは不自由する事は何も無い。




...でも、オレもスパイクを替えて、またあの頃の気持ちでゴルフに向かい合ってみようかな。

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その男にあったのは、茨城県のHカントリークラブのオープンコンペ。
一人ずつの参加した4人が組み合わされて、一緒の組になったうちの一人。
最初に顔を合わせたときに、帽子をとり名前を言って挨拶したんだけど、じろっと見てちょっと頭を下げただけで名前をはっきり言わなかった。
(変な奴だな..)

年は60歳前後、俺の数倍真っ黒に日焼けしていて、服装から態度からいかにも「オレはゴルフが上手いんだぞ」と言う雰囲気をまき散らしている。
練習グリーンでパットの練習をしていると、知り合いらしい数人がやって来て、その男に色々と教えてもらっていた。

他の同伴競技者は、埼玉から来た40代の陽気な男性Kさんと、横浜から来た大人しそうな40代の男性Oさん。
こちら二人は明るくて、すぐに話が弾んで盛り上がる。
...が、どうも先程の男は我々を見下しているようで、中に入らない。

スタートすると、その男はやはりそれなりの腕とコースを熟知している様が見て取れる。
埼玉のKさんも上手そうだし、俺もなんだか調子が良い。
スタートホールで、俺とKさんがパー、その男は短いパーパットが蹴られてボギー。
あれ?こんなはずじゃ...とその男は首をかしげて不愉快そうな顔をしている。

Kさんはたまにボギーを打ちながらも、堅実にプレーしているし、俺は相変わらずのお祭りゴルフで、隣のホールに打ち込んでそこからバーディーを獲ったり、バーディーチャンスで3パットボギーを打ったり...でも、結果としてスコアが上手くまとまっている。

気が付くと、アウトの最終ホールまで、Kさんと俺が交代でオナーを努めて、その男は一度もオナーを獲れていなかった。
そして、そのハーフ、俺が2バーディー2ボギーの36(出来過ぎ)、Kさんが38,その男が40...

その男のイライラ感は、傍目にもはっきりとわかるようになり、昼食時には一言も我々とは話さずに、さっさと食べ終わって出て行ってしまった。

その後の残された3人の会話
「あの人はきっとこの地元では凄く上手いんだろうねえ」
「うん、よっぽど腕に自信があるんでしょう」
「他の人に色々と教えていたからね」
「それを大叩き男さんと、私のように軽いのが平気で良いスコア出しちゃうから頭に来てるんでしょうねえ」

午後になるとその男は益々荒れてきた...ミスしてクラブをたたきつける、地面を蹴っ飛ばす...
俺は後半はそんなに良い調子が続くはずもなく、パーとボギーの繰り返しになったけど、かわりにKさんが絶好調で、相変わらずその男はオナーをとれない...

そして終わり近くのあるホールのグリーンで...
その男が2メートルほどのバーディーパット。
丁度スタンスの部分に、Oさんのマーカーがあった。
かなりいらついていた男に、Oさんが「邪魔になるでしたら動かしましょうか? 踏んでもかまいませんよ」と言ったら...
「じゃ、踏みます!」
ためらいも見せずにその男はOさんのマーカーを踏みつけた。
...それも勢いをつけてドン、ドンと2回踏み、グリグリとねじってスタンスをとった!

思わず俺とKさんは顔を見合わす...Oさんも驚いたような顔で我々の方を見た。

...その男のバーディーパットは、カップをかすりもしなかった。



その男はパーティーの時も、組ごとに席は決まっていたのに同じテーブルにはやってこなかった。

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A子さんは、ゴルフの前日にまともに眠ったことがない。
と、言うより殆ど眠れない。

ゴルフを始めたのは5年ほど前、子育ても一段落して友人や旦那に勧められて、近所のゴルフ練習場のゴルフスクールに入ったのがきっかけ。
そこで仲間が出来て、そこのゴルフサークルに入り、サークルのコンペにも出るようになった。
それ以来、週一度の練習場の教室には必ず参加し、3ヶ月に一度のコンペに出て、その他に月に一回仲間とのゴルフに行く。

...だけど、初めてコースに行って以来、前日にぐっすり寝たということは一度もない。
まるで遠足の前の日の子供のように、緊張して眠れなくなってしまう。
前のラウンドで上手く行かなかった事が、頭の中をぐるぐる回る。
練習場で覚えた事が、ボールを前にしたらすっかり頭から消えてしまう様な気がして、心配でしょうがない。
そんな事が次から次へと頭に浮かぶ。
月に一度のラウンドは、ずっと前から楽しみにしていたはずなのに....

「眠ろう」「寝なくちゃ」...と思うたびに頭は益々冴えてくる。
旦那に言われて、飲めない酒を飲んだ事もあった...かえって、心臓がドキドキしてきてダメだった。
おまけに次の日の午前中気持ち悪かった。
昼間に、色々と忙しく動き回り、プールに行ったりして身体を疲れさせてみた。
余計に疲れが残っただけだった。

寝ようとして目をつぶると、今まで回って印象の深かったコースの風景が浮かんでくる。
ティーグラウンドの興奮が蘇ってくる。
パットを外した時の、失望を思い出す。
池にボールを入れたときの脱力感が、OBを打ったときの後悔が、競い合っている仲間にスコアで負けたときの悔しさが、いくつもいくつも頭の中に湧き上がって来て...気が付くと外が明るくなっている。
ゴルフの日にはその繰り返しが続いている。

だから、いつもラウンドの日は目が充血している。
日焼け止めをいっぱい塗るからいいんだけれど、化粧ののりも良くないし、朝に食欲も湧いてこない。
お腹の調子も良くないし、午前中は身体が重い。
...そのかわり家に帰ってきたら、ばたんと倒れて朝まで爆睡する。
次の日は体中が筋肉痛で痛い。

だけど、ゴルフが大好きなのだ。
平凡な自分の「多分」幸せだけども変化の乏しい日々の暮らしの中で、ゴルフは大きなアクセントになっていて、ひと月の出来事はゴルフの日を中心に動いている様な気さえしている。
...そんなに良い暮らしが出来なくても、贅沢を我慢しても、ずっと同じ古いクラブを使っていても、仲間のように最新のゴルフファッションとは縁のないウェアしかなくても、不満はない。
日常生活とは違う世界をラウンドする事は本当に楽しいのだ。
 
...だから、月に一度の「眠れない夜」は、自分には絶対必要だと思っている。

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