ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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その人は紳士だった。
腰は低く、いつも微笑んでいてマナーも良く、ルールは決して破らず、アンフェアなことはしない人だった。

数年前のオープンコンペで会ったMさんは、年は60年配、誰もが好感を持てるようなゴルファーだった。
腕はアベレージくらいかなあ...ボギーペースでラウンドするくらいの腕かな、と感じた。
まあ、ボギーペースで回るって事は、一ホールで1−2回はミスをするって事なんだけど。

はじめに気が付いたのは、2番ホールのグリーンで。
1メートルほどのパーパットを外したときに、その人はボールを拾い上げた後、表情はにこやかなまま、無言で自分の靴のソールの横のところを「バンッ」と叩いた。
次のホールでも短いパットを外してダボにしたとき、やはり表情は変えずにさっきより強めに、自分の右足の靴をパターで叩いた。
気がついてしまったものだから、なんだか気になって、つい彼の打った後の仕草に目がいってしまう。
どうもミスショットをすると、自分に腹が立って靴の底の皮の部分をクラブで叩くのがクセらしい。
パットのミスならパター、アイアンのミスならアイアンで。

それで、つい興味が湧いて、ドラーバーでミスをしたらどうするのかこっそりと見ていた。
するとドライバーでミスをしたら、誰も見ていないのを確認して、クラブを逆さにしてグリップのところで、帽子を被った自分の頭をびしっと叩いていた。
自分でもやってみたけど、靴の横のソールのところとか、帽子を被った頭をグリップで叩くなんてのはそんなに痛くはなかった。

その日のラウンド...Mさんはかなり調子が悪かったらしい...ダボが続いて、相変わらず表情はにこやかだったけど、靴を叩く音は段々大きくなっていった...

最初の事件は、午後の14番ホールで起きた。
短いパットを「お先に」といって打ったが、それが外れた。
残ったボールをタップインしてカップから拾い上げた後、他の人のパットの邪魔にならないようにグリーンから出て、ポールを持ちにいくときに...こっそりと、しかしかなり強めに自分の靴を叩くのを見た...が、いつもの低い「バシッ」という音が聞こえなかった。
俺も自分のパットの順番の前だったので「?」と思ってそっと振り返った...そこに、全く動かずに固まってしまったMさんを見つけた...横顔だったけど、口を開いたまま目をつぶっている。

...次のホールに向かうとき、Mさんは一番後ろを微かに片足を引きずりながら歩いていた。

次のホールのティーショットの時には、Mさんはいつものにこやかな表情をしていたけど。

そして17番。
見た目ははじめと全く変わらない雰囲気のMさんだったけど、かなり頭には来ていたんだろうと思う。
ティーショットは大きくスライスして右の林。
2打目を打とうとして、クラブが木に引っかかって空振り。
3打目が出すだけ、4打目が大ダフリ...
そこで他の人が第2打目を打っているとき、Mさんが自分の頭をクラブでひっぱたくのを見てしまった。
「あっ、でも、それは!」
俺は自分のボールを打つのも忘れて、声を出してしまった。

5打目でグリーンに乗せて、パターを取りに来たMさんの帽子の下から、血が一筋流れていた。
「あの、血がでてますけど...」
「ああ、これ...さっき林の中で木の枝に引っかかってしまって..」
と穏やかに話すMさん。

でも、俺、見てしまった。
よっぽど腹が立ったのか、いつものようにクラブを持ち替えてグリップで頭を叩くんじゃなくて、そのままヘッドの方で頭を叩いたのを。

...痛いゴルフだった...見ていた俺も痛かった。

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どんなゴルフのレッスン書にも、プリショットルーティーンの重要性は書いてある。
レッスンプロも皆この事の重要性は教えてくれる。
プリショット・ルーティーンがきちんと出来るようになれば「どんなにプレッシャーがかかったときでも、いつもと同じようなスイングをすることが出来る」なんて事は、今やゴルフスイングの常識だろう。

で、オープンコンペで出会った、Fさん。
栃木のコースのメンバーで、オフィシャルハンデは8だそうだ。
いい人だ...50年配で腰が低いし、よく気が付くし、キャディーに威張るようなこともない。
髪の毛は短く、身体はガッチリしていて、体力勝負ガテン系の印象で、よく飛ばす。
かなり変則的なスイングで、バックスイングを始めてから、腰の辺りにグリップが来ると行ったん止まってしまい、そこから一拍置いていきなり担ぎ上げてスイングする。
ドライバーからアイアン迄全て同じ。
不思議なのは、素振りでは二段スイングになっていない事...普通に上げて下ろしている。

かなりゴルフは熱心にやっているようで、スイングも、その前のプリショットルーティーンも、ドライバーからパターまで一定している。
かなり再現性の高いスイングだ。

が、キャディーが「いや〜だ〜」、われわれも「おい、おい」って...

彼のプリショット・ルーティーンは、ボールから一歩下がって素振りをする。
それからおもむろにクラブから手を離して...「ペッペッペッ!」。
勿論左手は手袋をしたまま...それからグリップして、スタンスとって、目標を確認して...
ドライバーからパターまで全く同じだ。

キャディーさん、途中からグリップを触らないようにして、手渡す。
なんか、我々も握手はしたくないよなあ、って顔見合わせて。

昼の休憩時に話をすると、訛りはきついもののとても「いい人」だってのはよくわかる。
で、「ちょっとあのクセは、やめた方がいいんじゃ?」
「え? 俺、そんなことやってっかい?」
全く自分のやってる事に気がついてない!

午後のスタートホール、それを意識してのFさんのティーショット。
素振りを一回..いつもの様にクラブを離しそうになって、「ハッ」としたように、止まる。
ちょっとそのままで、もう一回素振り...
そのまま止まる。
首をひねって、もう一回素振り...何度やっても、その先に行けない。
なんだかかわいそうになって「Fさん、いつもどおり行きましょっ!」って声をかけてしまった。

気を取り直して、いつもどおり「ペッペッペッ!」とやって、Fさんやっと先に進めた。
「俺さあ、あんな事やってたんだぁ..全然意識してなかったけどお」
「気にしてやめようと思ったら、身体がどう動いていいんだか判らねえようになっちまうんだ」

それが彼の長年やって来たプリショット・ルーティーン...直すことでスイングのリズムが壊れてしまうんだとしたら、あの二段スイングを変えることよりやっかいかも...

あれからしばらく経ったけど、今でもどこかでFさん、「ペッペッペッ」ってやっているんだろうか?

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気は優しくて力持ち...Sさんは、豪快な男だった。
いつも朝から日本酒を飲んで、鼻の頭を赤くしてスタートホールにやってきた。

その頃よく行っていたホームコースの月例で、初めて一緒にラウンドした頃のSさんは50代だった。
Sさんは背はそれほど高くなかったが、もの凄く太い腕をぶん回して、ボールが潰れる程引っ叩くので有名なゴルファーだった。

その一緒のラウンドで彼も俺が気に入ったらしく、その後は月例では必ず一緒に回るようになった。
何よりも飛ばしが自慢で、二人で毎ホールドラコンをやったりして楽しく回った...当然10歳以上若かった俺の方が飛んだのだけれど。
「オレだって若い頃は、このホール突き抜けてあの林に打ち込んだんだぞ!」
「こんなロング、昔は5番アイアンでツーオンしたさ!」
なんて猛烈な負けず嫌いで、少しでもボールが先に行ってたりしたら、「どーだ!」「今だってちょっと当たりゃあ、こんなもんさ!」と、子供のように喜んでいた。

...太い腕だった、本当に太い腕をしていた。
二の腕は、細い女性のウェストくらいはあったろうか...その風体を最初に見た時、俺は「まるで牛の様な男だ」と感じた。
...飛ばしっこではなく、腕相撲だったら多分全然かなわなかったろう。
だからよく「Sさんの腕は、腕じゃなくて前足だからなあ」「だめだよ、前足で打っちゃあ!」なんて言って、彼をからかった。


仕事はそれほど大きくはない建設会社の経営者とかで、「今だって若いモンの二人分くらいの鉄骨担いでるよ!」なんて事を自慢していた。
その頃は景気が良かったので、彼はコースのプロや研修生の相談事に乗ったりして、クラブの中の「顔」のような存在だった。
プロが試合に行くと言えば、交通費や宿泊代としてかなりの金を出してやったり、研修生が腹を減らしているなんて聞くと腹一杯旨いものを食べさせてやったり、コースの従業員にも慕われていた。
景気が傾いてきても、「俺は信用第一にやっているから、景気が悪くなったって絶対大丈夫さ!」なんて、陽気なゴルフは変わらなかった。

その後暫くして、俺は怪我や仕事の都合と気持ちの問題で、月例などの競技ゴルフを殆どやらなくなった。
月例に参加しなくなる事で、Sさんと会う事も無くなってしまった。

何年くらいSさんとは会っていなかったか...数年前に思うところあって、そのホームコースの月例に久しぶりに参加した所、Sさんを知っているメンバーと一緒になってその後の消息を知った。
やはり、建設業の景気は最悪で、ずいぶん頑張っていたSさんの会社も数年前に倒産したという。

だから、Sさんも最近は全く姿を見せていないという。
本当はその月例参加も、久しぶりにSさんに会って話をする事も目的の一つだった。
(その月例の久しぶりの練習グリーンでは、Sさんはもちろん知った顔が殆どいなかった事が寂しかった。)

...陽気な酔っぱらいゴルファー、攻めっ放しの飛ばし自慢、前足のような太い腕。
あの太い腕は、今でもどこかのコースでクラブを握って、ぶんぶん振り回しているんだろうか?
あの太い腕は、彼のなにかの役に立っているんだろうか。

俺は一人で酒を飲みながら、あの太い腕が今でもどこかで白球をぶっ飛ばしている様を、想像している。
そうしていて欲しいと、願っている。 

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