ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

img_0-45


オープンコンペに参加する楽しみは、コースとの出会いとか、豪華な賞品とか色々あるけれど、一番のものは「人との出会い」なんじゃないかと思う。
オープンコンペに一人で申し込むと、多くの場合は一人で申し込んだ人同士でパーティーになる。
たいていの場合一人で申し込む人は、なによりゴルフに熱中していて、自分のコースがなくても、時間が自由にならなくても、お金が沢山使えなくても、何とかゴルフをして上手くなりたい、楽しみたいという気持ちを持った人だ。
最近は女性でもそういう人が増えて、懸命にプレーしている姿が微笑ましい。

だが、ごく希に、とんでもない人と同じ組になることもある。
前に描いた「怒れる男」もそうだったけど、このT県のKカントリークラブのオープンコンペで一緒になった男もそんな一人。
年は60前後か...朝の挨拶をしたときに、ろくな返事をしなかった時に「あれ? この男...」と思った。
前の「怒れる男」もそう、こういう類の男は挨拶の返事がきちんとしていないか、生返事なことが多い...そして、自分の名前もはっきり言わない。

ティーショットを打った後、他の人はすぐにカートに乗って待っていたが、この男アイアンをつかんで「歩くから..」と言って、一人で歩き出す。
自分でクラブを持って歩き出すくらいだから、プレーに慣れている人とは思うが、以後会話は一切なし。
飛ばない、あまり上手くない(良くてハンデ10くらいか)...しかし、自分の飛距離を把握しているためか、一番飛んでない自分のボールの所に行くと、パー4でもすぐに打ってしまう。
グリーン側に打ち込むこともしばしば(もちろんオンはしないが)。

そこまではまあ良いのだが、自分のボールを打つとサッサとグリーンに向かって歩いていく。
グリーンが空いてこちらが打とうとしても、その男がフェアウェイの端を歩いているので、何度も「打ちますよーー!」と声を掛ける。
当然、腕に自信のない人はその男のいるところと反対側のラフに打ち込むことが多くなる。
俺が打つときには、グリーンのすぐ横で待っているので、ついその反対側に外すことが多くなる。

コンペなので、ショートホールなどで待ち時間が出来ると、その男はカートに載っている我々から離れて、やたらに携帯電話を掛ける。
ゴルフに来て、何でそんなに沢山ケータイで話すことがあるんだと思うくらいに、電話しっぱなし。
やっと側に来たかと思うと、「遅い!」「何でこんなに詰まって居るんだ!」と怒った後、またケータイ。
他の3人は黙って顔を見合わせるばかり。
とうとう彼とは会話らしいモノは全くなく、ハーフ終了...彼のスコアはボギーペースといったところ。
...ハウスにつくと、その男いきなり「プレーが遅いのでハーフでやめる。」

残った3人、食事をとりながら「何なんでしょうあの人」「初めてですね、ああいう人と一緒になったの」「こんないい天気なのに...それなら来なければ良かったのにね」

ハーフにかかった時間2時間20分...コンペならこんなものだと思うけど。

オープンコンペ...殆どの人はいい人だけど、運悪くこういう人と一緒になることもある...そんな時はナイスショットがディポット跡に入ったみたいなもんだと思って、諦めましょ。

img_0-44
プロになっても試合に出られない者や、プロを目指す者、腕試しをしたい者などが参加するミニツアーは、日本でもあちこちで開催されている。
基本はプロないしはプロ宣言した者は5万円前後の参加料を払って、アマの参加者は1−2万円を払って払って参加して、集まった金が賞金となりそれを「プロ参加者」が取り合うという仕組みだ。
大体優勝すれば100万円くらいが手に入る。
賞金を貰えるのは3位くらいまでで、本当に生活と夢を賭けた一日勝負だ。

かなり前にある新聞社の企画で、何回かこんな試合に体験参加したときの話。

ある試合で一緒になったのは、若い二人(二十代のプロもしくは研修生)と、30代の男性一人。
若い二人は、もしアマだったらスクラッチからプラスハンデになるくらいの腕前...しかし、プロとしてはレギュラーツアーに出場出来ないレベルというところ。
もう一人の30代の男性は、真剣さと気迫は十分に感じるのだけど腕は自分と同じくらいで、プロレベルとはまだとても言えない。
しかし、一打一打に対する真剣さは、常識外れとも言える程の迫力を感じた。

ミニツアーの試合は自分が出した金を取るか取られるかの緊張感があるために、やたらとプレーが遅い..,この日の試合は前半で3時間を軽く超えていた。
そのために待ち時間に色々と話す機会があり、彼の話を聞くことが出来た。

...それは、まるで安っぽい虚構の小説のような話だった。
彼は大学を出てから就職がなかなか上手くいかずに、結局就職できたのはある有名な消費者金融会社だったという...いわゆるサラ金だ。
とても好きな仕事ではなかったけれど、給料は良かったので真面目に働いていたという。
やがて仕事に慣れて来ると責任を持たされる仕事をやらされることになり、支払いの遅れている人の取り立てがメインとなった。
その受け持ち地区の中に、支払いが遅れがちな、彼の祖母くらいのおばあさんがいた。
でも、その支払いもいまのサラ金法ができる前の話で、たった10万借りたのに、もう20万以上返していたんだとか...しかし、一度に元金全部を支払えないので利息だけを支払っている結果となり、いつまで経っても10万の元金が残ったままだった。
彼はあまり暴力的な取り立ては出来なかったので上司には怒られていたけれど、おばあさんはお茶を出してくれたり、彼には親切にしてくれたそうだ。

...そしてある日、彼が取り立てに行ったときに、そのおばあさんは首を吊っていた...

彼はその日でその会社を辞めた...おばあさんの姿を忘れられなくて、しばらくは彼は何も出来ないでいた。
...やがて彼は、(経過は判らないが)自分が少し前に趣味で始めたゴルフでプロになろうと決心する...練習場で雑用のバイトをしながら、この日まで懸命にゴルフを続けてきたんだという。
「まだまだ上手くないのは判っている。自分に才能があるかどうかも判らない。でも、これに人生賭けるって決めたんです。」

彼はまだその時点では、70台が出れば上等なくらいの腕だった。
(この試合でも若い二人は70代前半で回っていたが、私と彼はいずれも80を越えてしまった。)

...あれからずいぶんの時が経ったけど、彼はプロになれたんだろうか。
まだゴルフツアーの世界で彼の名前を聞く事は無いけど、彼は自分の決めた道をひたすら歩き続けているんだろうか。


彼の、笑わない思い詰めたような顔が、後ろ姿が、今でも目に浮かぶのだけれど...

img_0-33

夫が言いやがった。
あたしに惚れて結婚して、あたしに頭が上がらなかったあの夫が、思いっきり思い詰めた顔をしてあたしに言いやがった。

「もう...短いスカートやキュロットは穿かない方が...」

足には自信があったんだ。
スタイルだって日本人にしては足が長いし、バランスも良いって。
だから30過ぎて夫の誘いでゴルフを始めたときも、短いスカートやキュロットで足を見せるのは楽しみでもあったんだ。
夫だって一緒に回るときは、他の殿方達にすごく自慢げにしていたのに...

確かにあれからずいぶん経った。
時間が流れた分だけ年もとった。

気にはしていたんだ。
あたしの自慢の足の曲線が微妙に変化してきたことを。
あれほど完璧に思えた曲線にわずかなブレがあちこち出ている。
部屋の中では分からないのに、太陽の下に出るとそれがよくわかってしまう。
..セルライトと言うらしい...よけいな乱れた線が浮かび上がる。
それに、白さが自慢だった足に、静脈も存在を主張して浮かび上がっている。

美というものは移ろうから美しい...そんなことは分かっている。
自分がそこから逃れられないのも分かっている。
でも、夫があんなに思い詰めた顔で言わなくたっていいじゃない!
...わかっているんだから。

美しかった自慢の女房が、色あせていくのが耐えられないんでしょう。
年を取ったのが分かるのがつらいんでしょ。
...あんたがあたしを今でも愛しているのも分かっているし。

ゴルフコースは晴れ舞台、スポットライトの下の主役の座から退場するときが来たのね。
いいわ、あなたと一緒に肌も露なドレスを来た役は降りてやる。
短いスカートも短いキュロットももう穿かないわ。
美しくなくなった足は見せられないから。

...でも、あたしは舞台からは降りないわ。
今は熟女のブームだって言うじゃない?
胸だって自慢だし、足だってぴったりした7分丈のパンツでもあたしの魅力は出せるわよ。
身体のラインは若い頃よりダイナミックでしょ?
セルライトになんか負けるもんですか!
静脈になんか負けるもんですか!

ゴルフの腕だって、今すごく上手くなってるのが自分でも分かるんだから。
もうすぐあなたを越えるんだから。


↑このページのトップヘ