ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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堅い雑誌の編集をしている男だった。
周りでゴルフがブームになり、いわゆる「硬派」でゴルフとは無縁と思われたような男達ほど、ゴルフを始めてみると、ゴルフに熱中するようになっていった時代だった。

嵌れば一番凝りそうなタイプと見ていた。
...多分、本人も何時足を踏み入れようかタイミングを見ていたんだと思う。
こっそりとゴルフ関連の本を見てもいた。

やがて社内で大きなコンペが開かれるのが決まった。
「よし!」と決心した男は、それまでに調べ上げた事と、先に始めていた同僚の協力の下に一通りの道具を揃えて、そのコンペでゴルフデビューすることにした。
かなり良いものを揃えたようだった。
こだわる男だったから、当然練習場にも行き、コンペの日までに相当練習をしていたとも聞いた。

コンペ当日、天気予報は雨。
...そして、このコンペに参加しなかった俺は、彼の当日の様子を彼と一緒に回った親しい編集者から後で聞くことになった。


...朝から強い雨だった。
それも、「大雨警報」が出るような雨だった。
それでも、この日がゴルフデビューとなる彼は、やる気満々でスタートしていったという。
ところが、ドライバーで打ったボールは、水しぶきを上げてフェアウェイに落ち、下手すると地面にめり込む。
当然ランは全くないし、雨具を着込んだ身体では思うようにクラブを振れずに、飛距離は出ない。
アイアンで打つと、顔に泥や水飛沫がかかり、それでなくても初心者の彼はボールに当たらずに、泥の穴を掘りまくるだけで、前に進まない。

ずっと使うつもりでこだわって買った高い皮製のゴルフシューズは、2ホールで靴下までグショグショに濡れてしまった。
革製のグローブは雨で滑り、ボールよりもクラブの方が飛んで行く始末。
下着迄ビショビショになって、やっとたどり着いたグリーンでは川の様に水が流れていて、打っても打っても水しぶきがあがるだけで、ボールが転がらない。


普通だったら主催者も、この豪雨ではラウンド中止にしたかったらしい。
でも、多人数のコンペでバブルの頃の話...日程を延期しようにも、簡単にはそんな大きなコンペの予約は取れなかったので、やむを得ず強行したんだという。

コンペ前には、やる気満々の気持ちを語ってくれた男。
コースデビューを心待ちにしていた男。

なぜ、「世界一不幸なゴルファー」かというと、彼はこれ以降2度とゴルフをやらなかったから。
色々と遊ぶ事にこだわりを持ち、蘊蓄好きで、もし続けていれば一番ゴルフに燃えそうだった男は、ゴルフをたった一度しかしないでやめてしまった。


ずいぶん時間がたってから、彼にそのことを聞いたことがあったけど、彼が話したのは
「やっとカップに入ると、ポチャンっていうんだぜ。」
「気持ちいい事なんて、な〜んにも無かったんだ。」 


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毎月ではなく、何ヶ月に一回と言うくらいで頻度で月例に参加していた頃の話。

その時は、気持ちの良い季節だったので久しぶりの月例に参加しようとしていた...が、仕事の都合で直前迄出られるかどうか判らない状態だった。
やっと仕事の都合がついたのが金曜日。
日曜日の月例に、キャンセル待ちでも良いから、と申し込みの電話をした。
「Aクラスなんですけど、空きありますか?」
「9時丁度でしたら空いています。」
「え? そんなに良い時間が空いてるの? じゃ、それでお願いします...キャンセルが出たんですか?」
「いえ、そういう訳じゃ...」

...?、何か変だな、とは感じながら、月例へ。

コースに行くと、いい季節だったのでやはり参加者は多く、練習場も一杯。
スタート時間、同伴競技者に挨拶すると、中年の50代の男と若い30代の男と私の3B。
中年の男は見かけたことはある顔だけど、一緒に回るのは初めて。
若い男は新入メンバーだという。

顔見知りのキャディーさんがついたので挨拶すると、「今日はよろしく。今日は大変だねー」...え??。

....スタートホールで、判った。

この中年男、アドレスに入った後、クラブを持ち上げて顔の前にかざし、何やらクラブにぶつぶつと話しかける(言い聞かせてるのか?)。
その姿は、まるで神社で神主が持っているあのヒラヒラがついた棒...「御幣」とか「大麻(オオヌさ)」とか「祓え串」とか言うらしい...を顔の前に掲げて何やら唱えている姿にそっくりだ。
そして、おもむろに腕を下ろしアドレスに入る。
見ている人間は息を止めて、スイングを始めるのを待つ...待つ...待つ...

...と、また腕を上げてなにやらクラブにぶつぶつと。
また下ろす...また上げてぶつぶつ...また下ろす...

それが、さすがに3度目、4度目になると、「今日は来なけりゃ良かった」と深い後悔がじんわりと湧いて来る。
後ろの組の人達は、誰も彼のスイングを見ていない。
てんでに勝手な方向を向いて、目をそらしている。

そうか、そういうことだったのか...みんなこの男の事を知っているんだ。
9時が空いていたのも、キャディーが同情したのも...この男、だ。

莫大な時間を使って、延々と儀式を繰り返した後、ボールはフェアウェイセンターへ。
お辞儀をして、にっこり笑って、引きつった顔の我々を気にもしないでクラブをバッグに戻す。
マナーは良いらしい、腕もそこそこらしい、人柄も悪くはないようだ...毎ショットごとに発狂するほど同伴競技者をイライラさせる以外は。

...自分のゴルフ人生で、一緒に回っている人を後ろから蹴り倒したくなったのはこの男だけだった。

そしてこの男、毎月例の度に、真っ先に9時丁度のスタートに自分の名前を書き入れるので、みんなはその時間を避けているって事が判った。
そのクセは月例参加者の間では有名で、あだ名が「神主」とか「お辞儀屋」とか言われていることも判った。

当然その日の俺ともう一人のスコアは滅茶苦茶となった。
さんざんイライラさせられているのに、彼が遅れる分を我々二人が必死に急いでプレーしなければならなかったので。
もう、「9時丁度のスタートだけは絶対に取らない」...頭の中でそう言う言葉をずっと繰り返していた。



...しばらく時間が経って、その男がクラブを退会したと噂で聞いた。

月例参加のメンバーが、皆「彼と同じスタート時間だけはやめてくれ」と名指しをして申し入れるようになり、遂には一緒にプレーをする人がいなくなってしまったらしい。

彼のそのクセが最後迄治ることはなかった、とも。

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Sさんは、11月で長く続けてきた女性同士のゴルフサークルを休会することにした。
夫に勧められて始めたゴルフには相変わらず熱中していて、月に一度か二度のラウンドが「生き甲斐」になっていたんだけれど。

今迄は、生活にあまり余裕がなくなっても、いろんな事を我慢してゴルフを続けてきた。
...まあ、ゴルフが出来るんだったら、そんなことは「我慢」とは自分で感じてなかったけれど。

ゴルフウェアもクラブも最近は新しく買っていない。
ボールや小物は、仲間内のコンペで入賞して手に入れていたし、ゴルフをやめた友達が、わりと新しいウェアをくれたりしたから。
クラブはもう十年以上前に夫がボーナスで買ってくれたものだけど、別に不満は無かったし。

でも、さすがに最近はゴルフを続けることが心苦しくなってきた。
...仲の良かった仲間の何人かが、会をやめて行った。
ある人は、介護士の勉強をするために。
ある人は家計を助けるために、ゴルフをやめてパートで働き始めた。

自分の夫の仕事も、不景気の影響で収入が激減した。
夫はもう2年以上ゴルフに行っていない。
とても月に一度とはいえ、自分だけがゴルフに行けるような状況ではなくなってきた。
一日遊んで全部で約1万円...安いゴルフ場で遊ぶにはそれで済む...そんなに贅沢な遊びではないと思うんだけど、何日かは買い物して生活出来る金額。

しばらくの間、パートの仕事をやることにした。
稼いだお金の半分は生活費に、半分はゴルフ用に貯金する...そう考えてSさんは、ゴルフのサークルに休会届けを出した。

...ゴルフをやめる訳じゃない。
未だ100を切ったことはたった一度しかないけど、また100を切れるゴルフをする時が、きっと来るだろうと信じている。
クラブも服も大事に取っておく。
時が流れて服やクラブが時代遅れになっても、そんな事は気にならない。

今度再びゴルフをやれる時が来たら、きっと一打一打が凄く愛おしいショットになるだろうな...
そんな風に今は感じている。


...だから、しばらくの間...

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