ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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何年か前の夏、T県のPカントリークラブのオープンコンペでで会った男。

普通の人間とはちょっと違う、いかにも遊び慣れた風な雰囲気を漂わせてパットの練習をしていた。
年の頃は60は過ぎているだろう顔つき、しかし長い真っ白な髪の毛を頭の後ろで一つに結び、なんだか飄々とした素浪人の風情さえある。

顔だけ見ていると明らかに老人に近い年齢だと感じるんだけれど、体つきが顔と合っていない。
一件細身だけど、半袖や短パンから見える手足は筋肉がくっきり分かれて見えて、何かの運動をずっと続けているだろう事が想像出来る。

...そして、その男がベルトをゆるめてシャツの乱れを直したとき、その男の腹が6つにキッチリと割れているのが見えてしまった。
「なんだ! あの腹筋は!」
思わず自分の腹の肉を掴んでみると...そこには、腹筋なんか見えやしない、電話帳の厚さの贅肉が(泣)。

偶然同じ組となったその男に、年を聞いてみると、なんと66才!
「な、何でその年でそんなに腹筋が...」と思わず聞いてしまう。

「いやあ、毎日泳いでいるんですよ」「マスターズ水泳に出ているもので」
...一日に何キロも泳いで、マスターズ水泳の競技で日本や世界の大会に出ている人だった...
なんでも、その世界では何時も上位入賞する有名な人らしい。
そのためか、後で風呂でも見たけど、全身余分な贅肉全く無し!
彼が風呂場で歩いていくと、若い人達も思わず全身見てから後ろに下がる。
...俺だって、30代までは裸になると腹筋さわりに来る奴がいたんだけどねえ...いまじゃ悲しいビール腹。
70近くまでその腹筋って、どうよ!
ひょっとして、ゴルフのためにもあの方が良いのか...?

「私は、まだまだゴルフを楽しむつもりですよ」「この前、全部測って、あと10年使えるクラブを注文したばかりですから」
「身体の若さには自信ありますから、もっと上手くなりますよ」
うん、気持ちも青年だ...身体も柔らかいみたいで、肩も身体も良く回る。
フィニッシュまできちんと回るし、遠くから見たら30-40代にしか見えないだろう。
...飛距離は、俺の方が50ヤード以上飛んだけど...どうするんだ? 俺。

腹筋復活しても、もてるようになるとも思えないし(いや、もててドーするんだ、今更)、腹筋維持するためにまた節制重ねて頑張る根性(旨い酒も飲まずにか?)あるわけないし...腹に触るとちょっと腹が立つけど、それが俺の人生ってことだ(あーー、でも、こんな結論でいーのか? 俺)。


ああ、頭の中で「俗物には俗物の楽しみがあるんだから...」なんて、言い訳してる声がでかくなる。

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その茨城県のゴルフ場のオープンコンペでは、40代の夫婦と30代の若い男の4人で一組となった。

その夫婦は、なかなか魅力的な奥さんが100前後、スポーツをやっていそうな身体の旦那さんが90を切るくらいの腕前だった。
もう一人同伴の若い男は、30になったばかりで独身、ゴルフを初めて3年目ということでゴルフ熱中時代...80台の前半で回りたいと言っていた。

スタートして順調にホールをこなしていくと、それぞれのゴルフが見えて来る。
若い男は、飛ばすが力が入ると左へのミスが多くなる。
夫婦のうち夫の方は、回数はかなりやっているらしく回り慣れている印象だけど、身体の割に飛ばない...スライスのミスが多い。
妻の方は、ゴルフスクールにでも通っているようで、いいスイングなんだけど傾斜や景色でミスが多くなる。
そんな妻のゴルフを夫の方は常に気にしていて、前の組との空き具合や後ろの組が来ているか、同伴の我々二人に迷惑をかけていないか、に注意を払ってともかくプレーを急がせる(特に遅い訳じゃないんだが)。

事件は7番ホールで起こった。
妻の方が左へのミスが重なって、残り100ヤードくらいがまるまる池越えになってしまった。
この奥さんはこうした「池越え」という状況が苦手らしく、打つ前から「どうしよう」「池なんか越えそうにないわ」と不安そうな声を漏らす。
その苦手意識が彼女のスイングを萎縮させて、無理矢理すくいあげようとしてダフりトップのミスの連続となる。
一球目を池にいれ、ポケットからボールを取り出してドロップ、それもダフってまた池に...
夫が後ろを気にして「おい! 遅れてるぞ!」
妻は慌てて、もう一球ポケットから取り出してドロップ。
それも池に入れてしまった。

「すみません!ボールがないんでとってきます」と妻がクラブを置いてカートの方に駆け出す。
「おい! みんなを待たせて何やってんだ! ボールは予備を持ってろっていつも言っているだろ!」
「ボール持ってたんだけど,みんななくなっちゃったの!」
「お前みたいな遅いプレーがみんなに迷惑をかけるんだ!」
「あたしだって一生懸命は速くやろうとしてるわよ!」

...夫婦喧嘩が始まってしまった。
夫は我々や後ろの組を気にして謝りながら、妻を怒る。
妻は涙を流しながら、自分だって速くプレーしようと思っているんだ、と言い返す。
勿論口だけの喧嘩だけれど、本気の夫婦喧嘩は迫力も半端じゃない...


「あの、夫婦って大変なんですねえ...」
「僕も結婚するの考えちゃいます...二人すごく仲のいい夫婦に見えたのに..」
若い男が本気で怯えた声で話しかける。
「ああ、でも大丈夫だよ。 夫婦でゴルフってのもいいもんですよ」
「でも、あの二人あんなに派手な喧嘩しちゃって..なんだか怖いです...」

その後はカートに乗っても冷たい空気が漂ったまま、ハーフ終了。
4人の会話がなくなってしまった。

...昼はバイキング形式だった。
俺とその若者はさっさと、焼きそばやカレーにソーセージやら卵焼きやらを持ってきて、食べ始めた。
遅れてそれぞれに皿を両手に持って夫婦がテーブルにやってきた。
同じテーブルに並んで座り、皿を置く。
少しして、目の前に置いた皿を夫がそっと妻の方に押した。
「...これ、お前の好きなサラダとフルーツ..」
妻が目を合わせないまま、皿の一つを夫の方に押した。
「...これ、あなたのハムとソーセージ...」
「...」



若い男が下を向いたまま、となりの席の俺に呟いた。
「...なんだぁ...」

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その男は、スコアカードを2枚用意していた。
ラウンド中にみんなのスコアを聞いて普通に書いた後に、もう一枚に綺麗に書き写していた。
「コンペの提出用のカードは、ラウンド終了後に改めて貰えますよ」
「あ、いいんです。 これは私の記録用なので。」

ちょっと覗いてみると、本当に几帳面に綺麗な字で4人のスコアが書いてあった。

歳は50前後か...90ちょっとくらいで回る腕で、特に高い道具を使っているわけでもなく、特にゴルフスタイルにこだわっているわけでもないようだった。
ただ、本当にゴルフは楽しそうにプレーしていて、大叩きしても特に落ち込む風でもなく、他の人に気を遣い、他の人があちこちに打ち込んだボールを一緒になって熱心に探してくれる。

「私はゴルフを始めたのは30才からなんですけど、スコアカードは全部取ってあるんですよ。」
「スクラップブックに、全部で500枚くらいかなあ,,,整理してあります。」
「ええ、それを見るとどんなラウンドだったか、みんな思い出せるんですよ。」

「ええ? そんなラウンド全部覚えて入るんですか?」
「他じゃァ、そんなに記憶が良い訳じゃないんですけど、何故かゴルフに関することはスコアカードを見ると思い出すんですよ。」

不思議なことだと思うけど、ゴルフに熱中している人の中には、信じられない記憶力を持つ人が少なからずいる。
一度回ったコースを、何番ホールがどうだったか全部覚えてしまう人や、自分のショットを場所から何打目だったかまで全部覚えている人、そのコースのレストランの食事の旨さ不味さまで覚えている人、コースまでの道順を(抜け道まで)全て覚えている人...
ひょっとすると、ゴルフってこんな能力を引き出すような「何か」があるのかも知れない、なんて事さえ思う。

ラウンド中は彼の人の良さをみんなが感じるような雰囲気で、スコアはともかく楽しいゴルフの一日となった。

...ラウンドが終わって、パーティーの時の話。
「私は、スコアカードを見ると全部思い出せるんですけど、スコアカードを見なくてはダメなんですよ。」
「?? どういうことですか?」
「子供のこととか、女房のこととか、家族でやったこととか...」
「それだけではあまり覚えていない...というか、曖昧なんですよ、記憶が」
「だけど、何月何日のラウンドの次の日、だとかOXでラウンドした二日前に、というとすぐに思い出せるんです。」
「ゴルフを基準にしないと、家族のこともちゃんと覚えていない..ってことですよね。」

確かに、その時「食べたもの」を基準に、「あー、あれを食べた日にあれがあったんだ。」「あのことがあったのはXXを食べた次の日だった」なんて風に記憶をしている人もいるんだから、記憶がスコアカードを中心に残っていても不思議じゃあない、とは思う。

「ちょっとそんなことで色々ありまして、今は一人なんです。」
「あ、別居してるだけですが...」
「...自分でも、なんでスコアカード中心の記憶になってしまうんだか、よく分からないんです。」
「ゴルフをしているときが一番楽しいからでしょうかねえ...」


誰に聞かせると言う訳でもなく、彼はため息と共に呟いた。
「ゴルフって、何なんでしょうねえ...」


家に帰ったら彼はまた一枚、今日のプレーの記憶と共に一枚のスコアカードをスクラップブックに足していくんだろう。
家族がその時一緒にいなかった記憶も、同じスコアカードに重ねて乗せて 。

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