ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

img_0-76

Hさんのバッグには1本の古いクラブが、使わないのに入っている。
古いと言っても、パーシモンなんかではなく一頃流行ったメタルのフェアウェイウッドなんだけど。

それをバッグに入れた理由は一人のイギリスのプロのため。
とは言っても、Hさんはそのプロのファンなんかでは無く、むしろそのプロが大嫌いだった。

プロの名はニック・ファルド...キャディーバッグに入っているのはアダムスのタイト・ライズ。
ニック・ファルドが強かった頃使っていて、宣伝にも出たりして世界的にヒットしたクラブだった。

...Hさんは、元々人付き合いが苦手なタイプで、ゴルフに熱中していても特に仲のいいゴルフ友達がいる訳でもなかった。
それに、他人に誘われる事も少なかったので、近くの安いクラブのメンバーとしてゴルフを続けていた。
そのクラブでも、他人のなあなあのゴルフが嫌いで、つい曖昧なプレーには文句を言ってしまうので煙たがられる存在なのは判っていた。
本心ではもっとみんなと仲良くやりたいんだけれど、どうしてもそれができない。
やっぱり気持ちとは裏腹な行動をしてしまって、また嫌われてしまう。

そこにニック・ファルド。
強かった...本当に見せ場の無いつまんないゴルフなのに強かった...相手がいくつバーディーをとろうと、派手なプレーをしようと、淡々とスコアカード通りのプレーをして勝ってしまう。
そして、ファルドに負けるのは派手なプレーで人気のあるゴルファーが多かったために、いつもファルドは「敵役」の立場の嫌われ者だった(ように感じていた)。
Hさん自身も、最初はファルドっていうプロはどうにも好きななれない存在だった...が、それでも勝ち続けるファルドの強さに、いつしか「尊敬」の念を持つようになった。
嫌われ者だって(本当はどうか知らないが、Hさんはそう感じていた)あんな風に強くなれるんだ...
...自分もファルドのようになりたい。
人に嫌われようと、何時もいいゴルフができるようになりたい。

それで、ファルドの宣伝していたタイト・ライズを手に入れた。
使ってみるとフェースが薄いためにテンプラが多発して、自分にはあまり武器にはならなかったけど。
でも、これがキャディーバッグの中にあると、「ファルドのように嫌われ者でも強く!」という気持ちが湧き上がるのでずっと入れている。

それなのに。
最近あいつはどうしたんだ。
もう何年もあいつの噂も聞こえやしない。
あんたは嫌われ者でも強いんだろ?
シニアに行ったって、あんたのゴルフは絶対通用するはずだよ。
なんで、テレビに映って来ないんだよ。

憎まれっ子世にはばかる、だよ...俺はあんたが強くなければ困るんだよ。

最近のHさんは、元気が無い日が続いている。


img_0-75


今年76になるKさんは、まだゴルフ歴は10年。
始めたのは65歳、やらざるを得なくなって始めたものだった。

それを仕掛けたのは、幼なじみの古い親友だったTさん。
Kさんの趣味は釣りで、Tさんとは川でも海でも腕を競ったライバルだった。
年を取ってからは川や沼がメインだったが、腕も道具も釣果も自慢しながら酒を飲む付き合いだった。

そんなTさんは、10年前にガンで亡くなった。
落ち込んでいたKさんにTさんの奥さんから電話があり、TさんがKさんにと残したものがある、という。
それを聞いたKさんは、てっきりTさん自慢の名竿を親友の自分に残してくれたのか、と内心...

しかし、車で来たTさんの長男が持って来た物は、靴からクラブからボールまで全部揃ったゴルフ道具一式だった。
おまけに、何冊かの本まで一緒に持って来た。
「親父が入院している時に、『俺と靴のサイズもみんな一緒だから、全部あいつに譲ってやってくれ。それに教本やゴルフの勉強の本も一緒に用意するから』と言われてました。釣りの道具は僕が全部譲り受けました。」
...そういえば、生前何度もゴルフをやらないかと誘われていたけど、「俺はあんなものやらん、釣り一筋だ」と何時も言い返していたっけ...

「竿じゃなかったのか...」
どうにも納得出来ない気持ちで、持って来た本を手に取ると...「ダウン・ザ・フェアウェイ」?「非力のゴルフ」?「ゴルフ名言集」?「200ヤード飛べばシングルになれる」?...ルールブックとかまである。
その「ダウン・ザ・フェアウェイ」なんてのを手にとっても、何が書いてあるのかさっぱり判らない。
一ヶ月ほどTさんの残した道具を前にして悩んだ末に、近所の練習場に行ってプロに教わって始める事にした。
もちろん始めはろくに当たりもしなかったが、何回かちゃんと当たるとそれなりに面白いような気がして来た。

それから10年、ドライバーだけは新しく大きなヘッドのものに買い替えたが、他はそのまま使っている。
初めて持った時に、シャフトに書いてあるメーカーの名前が釣り竿メーカーと同じだったのに驚いた...なんとなくしなる感じも釣り竿に似ていなくもないな、なんて思いはした。
10年、今は釣りよりゴルフの方が行く回数ははるかに多いが、正直よくわからないと言う気持ちがまだ残っている。
本の内容も、まだ良く理解出来ないし。
他人から見たらベテランゴルファーに見えるようで、よく頼りにされるんだけど...「まだ初めて間もない新米なもので」と応えるのが癖になってしまった。
まあ、面白くないか?と聞かれれば、...勿論「面白い」とこたえるんだけど。

そういえば、あいつの残した道具や本の他に一通の手紙があったっけ。

「暇つぶしにやってみろ、後悔しないぞ。」
としか書いてなかったが。

img_0-74

「もうすぐ40代になるんだなあ...」
Mさんは、そんな事を最近度々考えるようになった。
20代の終わりに結婚し、子供が二人、義理の親と同居して10年。

子供が学校に行くようになり、まだ元気な義理の親達の世話の間に、ぽっと空いた時間があるようになった。
10年は、それはそれなりに充実していたけれど、どこかに「このままじゃあ...」という焦りのような気持ちがあり、それがだんだん大きくなって来ているのがわかる。

ゴルフ。
最近よくテレビの中継を見る。
自分には縁のない世界だと思っていたのに、いつの間にか熱心に見るようになった。
奇麗な広い庭園のような場所で、思いっきり白いボールを飛ばしている光景...あんな遊びを自分も出来たら...なんて。
学生の時にも運動は特に熱中してやった事が無いし、運動神経があるかどうかはわからない。
そう言う能力は子供の頃から「人並み」だったので、特に才能はないだろう。
でも、「あれをやってみたい」という思いは強くなるばかり...

ただ、それを現実のものとするには沢山の問題がある。
夫がゴルフをやらないので、自分がゴルフをやりたいとは言い出しづらい。
義理の両親も、ゴルフは「贅沢な遊び」としか思ってないようだし。
...道具が無いから、まずそこからお金がかかるだろう。
ゴルフの事を知らな過ぎるから、ルールの勉強も必要だろう。
ボールの打ち方なんて、練習場に行って先生に教わらなければ出来っこ無いだろう。
一人じゃ出来ないから仲間も必要だし、ウェアも靴も...
何からどこから手をつければいいのか、考えれば途方に暮れる。
もちろん、家族の世話も手を抜くわけにはいかないだろうし。

でも、きっと私はゴルフを始めるだろうと思う。
始めるまでの道が果てしなく遠い気はするけれど、今のままでは「このままじゃあ...」という気持ちが絶対に消えないだろうから。

とりあえず今出来るのは「ゴルフ入門」なんて類いの本を読む事くらい。
あまり面白くないし、自分でやってみないとわからない事ばかりなんだけど、とにかく一歩目を踏み出したい。
自分の気持ちは、夫にも近いうちに話してみるつもり。

もうすぐ40代。
今日もMさんは、家事の合間のティータイムにテレビのゴルフ中継を見ている。
そして考える
「このままじゃあ...」


そして考える
「緑のフェアウェイを、現実の私が胸を張って歩いているのは、一体何年後なんだろう...」


↑このページのトップヘ