ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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何年か前のI県でのオープンコンペで一緒になった男は、身長190センチ近い大きな男だった。
野球をやっていたという身体は、年は40前後でまだ中年太りには早く、尻の筋肉も若い頃の運動の遺産として十分に活躍していそうな体型だった。
いっしょに並ぶと(体重では勝っているみたいだったけど)182センチの身長の自分が、一回り小さく感じる程。

この男が殆どのティーショットを1番アイアンで打つ。
それが飛ぶ!
自分のドライバーの当たりが悪いと、負ける。
もう一人の同伴競技者は完全に30ヤード近く置いていかれる。
その打球は中弾道で約270ヤード前後飛び、フェアウェイをほぼ捉える。
オープンコンペの白ティーからだとほとんどのホールでセカンドはウェッジだった。
しかし、彼のキャディーバッグを見ると最新のドライバーがちゃんと入っている。
「ドライバーは使わないんですか?」
「ええ、僕はウッドが苦手なんですよ。」
「一応、ドライバーはボーナスでカスタムで組んで作ってもらったばっかりなんですけど...」

それでも一度だけ、午前中だけのドラコンホールで彼はドライバーを手にした。
...が、そのボールは酷いプッシュアウトで林の真ん中に飛んで行った(飛距離は出ていた)。
アウトは、そんな事があって37。
インに入ると、490ヤード程のロングホールで1番アイアンと4番アイアンで2オンしてイーグル。
もう一つのロングも2オンしてバーディー。
しかし、飛び過ぎの池ポチャなどがあって、インは38。
とうとう午後は一度もドライバーを手にしなかった。
コンペではグロスでは2位だったが、新ペリアではハンデホールでバーディーやらイ−グルやらで、大はずれとなり賞品はつかなかった。

「なんで1番アイアンが得意なんですか?」
「ええ...僕は前に野球やってまして...」
「25からゴルフ始めたんですけど、アイアンは棒切れの先に打つ場所が付いているだけの様な気がして、野球のバットと似た感じで振り切れるんです。」
「でも、ウッドは全然違う場所で打つような気がするのと、なんだかねじれるような気がして...全然まっすぐ飛ぶ気がしないんです。」

...判ったような判んないような...
でもヘッドスピードも十分ある彼だからこそ、1番アイアンで250ヤード以上平気で飛ばしてるんだろうなあ。
その1番アイアンを打つコツを聞いたら、「外角低めを右中間にホームラン」、そんなイメージだって言ってたっけ...


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口惜しかった。
自分の中の深いところから口惜しさがこみ上げて来て、どうにもならなかった。
...自分にそんな感情が強くあるなんて、生まれて初めて知った。

去年、付き合っていた彼から誘われて、一緒にパブリック選手権の予選に申し込んだ。
4年ほど前に、彼に無理矢理連れて行かれた練習場でゴルフを始めてから、初めて体験する「ちゃんとした試合」だった。

...3年前から週一回練習場のプロの教室に入って練習を続け、その頃は月3回くらいラウンドするようになっていた。
練習場仲間のコンペでは上手い方になり、平均して90は切るようになっていた。
彼とのツーサムのラウンドでは、レディースティーからだったけど彼といい勝負をするようになっていて、ベストスコアは81を出していた。
運動は好きだけどあまり熱くなれない性格は、「競技」というものには向いてないと思っていたので、ゴルフも楽しければいいとしか思っていなかった。

そんな時に彼が「パブ戦に出ようかと思ってるんだけど、君もどう?」と言って来た。
「そういうものに興味がないから」と断ったのに、強引に一緒に申し込みをされてしまった。

試合の前の日も別に「どうせ予選落ちなんだから、気楽にやればいい」くらいにしか思っていなかった。
そして当日。
スタート前に名前を呼ばれ、マーカーが決められた時に「あれ?」と思った。
足が震えている。
それからスタートして3ホールくらいのことを殆ど覚えていない。
スコアカードには3ホールで10オーバーのスコアが書かれている。

一緒に回った3人は、二人が年上のベテランゴルファー、一人は高校生くらいの若い娘。
試合慣れしているのか、淡々と回って行く...いつものコンペのように「キャー!」とか「わあー!」なんて嬌声を上げることはない。
やっと最後の二ホールくらいになって、自分らしいゴルフが出来たように思う。
スコアは100をオーバー...一緒に回った一番年上の女性が、優しい声で「ちょっと早かったわね」と声をかけてくれた。
...そのとき、信じられないくらいに熱く「口惜しい!」という思いがこみ上げて来たのだ。
「口惜しい」という言葉が頭の中にぐるぐると回って消えて行かない。



それから、ゴルフに真剣になった。
「もっと上手くなる事」
「もっと強くなる事」
それしか頭に無くなった。
彼があきれて去って行った。
給料のほとんどをゴルフに回した。

でも、腕はもどかしいくらいに上がらない。

そしてまた春。
2度目のパブ戦挑戦....この一年でかえって自信が無くなったような気さえするけど、去年よりは少しでもいいスコアを出してやるつもり。
自分がこんなに一つの事に拘り続けるなんて、生まれて初めての経験だ。

でも、自分にこんな一面があったんだ、ということを密かに楽しんでいる自分がいる。
こんな「熱いもの」を感じて、初めて生きている気がしている自分がいる。

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始めた当初はこの数字じゃあなかったんだそうだ。

かなり前に、あるオープンコンペで一緒になったSさんは75歳。
未だクラブハンデは13を維持しているんだそうだ。
一番やっていた時でも「やっとシングル程度でした。」

昼食をとっている時に、スコアカードの表紙のところに「657」という数字を書いているのに気がついた。
その数字の意味を訪ねた時にSさんが言ったのが「あと二つなんですよ。」
「あとふたつ」の意味が分かったのは、風呂場でその会話の続きをしたとき。
「関東地方のゴルフ場の数です。」
「ここが657番目で、あと回ってないのは2コースだけになりました。」

...60歳で退職をした時に,好きなゴルフをするにも何か目標が欲しいと考えたんだそうだ。
「競技でいい成績というのも私には無理と判ってたし...」
「ただ目的も無くゴルフをするのも非常にもったいないし...」
「それで,関東地方のゴルフコースを全部回ってみようと思い立ったんです。」

...15年で657コース。
恵まれた健康と財力がなければ、普通の人にはまず不可能な数字。
それに、たとえ財力と健康に自信があったとしても、ずっと気持ちが切れずに続くだろうか?
「全コース」と言うからには、ショートコースを除いた18ホール未満のコースだって含まれる...9ホールのコースや、12ホールのコースも回るということ。

普通の人がこれをやろうとすると、まずぶつかる壁が「名門コースのプレー」。
名門とか超名門と言われるコースを回るためには、紹介あるいは同伴してくれるメンバーがいなくてはダメだし、誰か一緒にプレーしてくれる人だって必要になる。
Sさんは、多分そうした人脈には恵まれた立場の人だったんだろう。

それに、評判の良いコースや近いコースならまだいい。
そういう名門コースを回る間に、荒れた河川敷のコースや荒れた倒産間近のコースを回ったり、とんでもなく遠いコースや、アップダウンが半端じゃないコースも回る訳だ。
冬の寒さや夏の暑さだって関係なく回らなければそれだけの数をこなせないし、体調が悪い時だってあるだろう...それを平均して週1は最低回る生活を15年続けて来た結果が(途中で新設コースが増えて数字も多くなったんだって)657コース制覇。

今頃はとっくに659コース全部回り終えているんだろうけれど、まだまだ元気そうだったから新しく「本州全コース制覇」なんて目標でも作って元気にラウンドしているんだろうと思う。

ただ、最近は倒産してしまうコースも多くなって来ているので、これ迄とは違う「時間との戦い」も加わって、目標達成はより難しくなって行くだろうなあ...
 


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