ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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朝晩、老犬と散歩する。
もう何時死んでもおかしくない歳になった老犬だから、歩くのもゆっくりだし、長い距離も歩けない。
でも、朝晩の散歩に家を出るときは、嬉しそうに尻尾を勢いよく振る。
散歩に尻尾を振って喜んでいる間は、ずっと付き合って上げようと決めている。

夫とは、子育てが一段落したときに離婚を話し合った事があったけど、そのために費やすエネルギーや子供関係なんかの細かい事柄が面倒になってしまって、そのままずっと来ている。
恋愛結婚だったけど、夫が今誰と会ってるかなんかは知る気にもならない。
最低限の生活費は入れてくれるけど、それだけでは生活に余裕がない。
それで、子供の手が離れたときから介護士の仕事を始めて、へそくりを貯めてきた。
そのへそくりで5年ほど前からゴルフを始めて、今はそれが生活の中で一番楽しい時間になっている。
一昨年は40ラウンド、昨年は36ラウンドもした。
もっとも殆どは、近いところにある手引きカートの9ホールのコースだけれど。
介護士の仕事のへそくりは70万以上あったから、遣り繰りして仕事も休まなければ月に一ー二回は高いコースに行っても十分だった。

...でも、昨年の秋、犬が病気になった。
年が年だけに、病院に連れて行くと「難しい手術をするか安楽死をさせるか」という選択を迫られた。
...手術には多額のお金がかかる。
子供の頃から犬を飼っていて、犬と暮らすことが自然な自分と違って、夫は犬嫌いではないが好きでもないというスタンスだった。
当然、犬の手術に必要なお金は出してはくれず、自分のへそくりをはたいて手術することにした。
自分にとっては、この老犬は「家族の一員」という感覚なんだから、「安楽死」なんて考えもしなかった。

...手術は成功したけれど、手術代は47万円ちょっと。
それだけじゃなくて、通院や治療代が10万以上かかって、へそくりはほとんど無くなった。

ゴルフは去年の秋から、行っていない。
今年、まだ一度もゴルフに行けない。
毎日クラブには触っているんだけれど、何時また犬の治療でお金がかかるか判らないので、へそくりをゴルフに使えない。
...近所のゴルフに行っていたときの知り合いと、ちょっとお茶を飲みながらゴルフの話をするのがささやかな楽しみ。

ゴルフに行っていたときの仲間のサークルには「休会届け」を出している...みんなは、また参加することが出来る日を待っていてくれている。
夕方の散歩で、夕日の良く見える川の土手に来ると、何時も思い切りドライバーを振り回したときの感覚が蘇ってくる。
大丈夫、仕事でお金を貯めて、犬も元気になって、青空の下でボールを思い切り打つことが出来る日がきっと来る。

そう思って犬を見たら、笑って尻尾を振っているように見えた。


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Tさんは、ゴルフが好きだ。
30年くらい前にゴルフに出会ってから、その飛んで行くボールの浮遊感に感動してから、ずっと熱は冷めていない。
身体はそんなに大きくないが、若い頃運動をやっていた関係で、自分より大きな男に飛距離で勝つのが無上の快感となってしまったからだ。

だからゴルフの「飛ばし」に関する情報には、いつも注目している。
ゴルフ雑誌を毎週買って、新しい「飛ぶドライバー」の情報を見逃さないように気をつけている。

思えば最初はスチールシャフトのパーシモンのドライバーだった。
それが、友人の薦めで200年物のパーシモンを使っているという、「高級」なドライバーに替えたら、飛距離が伸びた。
これに味を占めて、少し経ってから貯めた金でクラシックの名器「トミーアーマー945」を買った。
凄く高かったけれど、やっぱりクラシックの名器、弾道も飛距離も期待通りだった。
...そのうちに、メタルヘッドのドライバーが発売されて、「飛ぶ」というのでプロが使い始めた。
半信半疑で手に入れてみて、使ってみたら...本当にパーシモンより飛んだ!
そこでパーシモンからメタルヘッドに替えて飛ばしているうちに、値段は高いがチタンヘッドの方が飛ぶと言う噂が聞こえてきた。
...そこで、巷で評判になっていた230チタンを手に入れて使ってみると...これは飛ぶ!
これこそ最高、と思っていたら、今度はヘッド体積300ccのミズノ300Sと言うのがプロが使って飛ぶ、と評判になった。
...それで300Sを手に入れてみると、本当に飛ぶ!
「これこそ最高!」と気に入って使っていると、間もなく「高反発フェース」とかが評判になり、フェースも大きくなってきた。
... 半信半疑でそれを使ってみると、やっぱり飛ぶ!
...ところが、間もなく高反発フェースとやらがルール違反だというので、使えなくなった。
でも、今度は「高反発より飛ぶ」と言われるドライバーの広告が沢山出て来たので、試しにそっちにしてみると...やっぱり飛ぶ!
...そうしたら、週刊誌なんかのギア情報では「リシャフト」するともっと飛ぶ、というのでやってみた。
...シャフトだけでも結構高かったけれど、確かに元のシャフトの時よりも飛ぶようになった。

...でも最新の情報では、自分のスイングを診断してもらって、自分にあったクラブを組み上げるともっと飛ぶ、と言うので早速ショップに行って測ってもらって、作ってもらった。

...やはり作って良かった。
飛ぶし、曲がらない!

しかし、Tさんは最近一杯飲みながら月を見上げて思うことがある。
クラブを替えるたびに、確かに前より飛ぶようになった...それは実感しているし事実だ。
でも、何時も前に使っていたクラブより飛ぶようになったんだから、単純に前のクラブより飛ぶようになった分を足していけば、今頃は400ヤードぐらい飛んでるはずなんだよな。
...それなのに、パーシモンの頃に回っていたときと、そんなに第2打地点は変わらないんだよな。
不思議だなあ...どうしちゃったんだろう、飛ぶようになった分は。


俺、ゴルフ場にいる狐か狸に化かされているんだろか。それとも、ゴルフの女神さんに からかわれているのかなあ。


あ、そういえばさっき見た本に「最新科学の飛ぶドライバー」とかが...

 

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彼の世話を唯一している彼の姉から「もう判らなくなっているみたいです」と聞いていた。
「何を話してもあまり反応が無く、惚けてしまって自分が何をしているのか判らなくなっている」、と。
おむつをして、食事も介護の人任せだと...


その日の朝、彼のお姉さんを途中で乗せて、借りていたレンタカーで病院に向かった。
どんな状態の彼と会えるのかは、想像するだけで気が重く暗い気持ちになっていた。
かって、颯爽と100メートルを11秒で走り、高校野球のスターであり、ハンサムでデザイン学校の教師や会社を経営していた男...それが何も判らなくなった惚け老人となっている姿は、正直見たくはなかった。
もし会っても判らなくなっていれば、会いに来るのはこれが最後と決めていた。

面会室に入ると、看護士に支えられて...痩せて小さく乾涸びたような姿になって、彼が椅子に座っていた。
姉さんが彼の横に座り、私達夫婦は正面に座った。
顔を変に歪ませてあらぬ方向を見ていた彼に「お友達がまた面会に来てくれたわよ」と姉さんが言う。
「T!  オレが判るか?」
こちらを向いた...途端に顔をくしゃくしゃに歪ませて、声を上げずに泣き出した。
「わかるのか?」
ただ何度も何度も頷く...
何故だか声は一言も出さずに、ただ表情が笑い顔だか泣き顔だか判らない形に変わる...あげくの果てに引きつった様な形で片目だけ開けて止まってしまった。
「Tさん、その顔じゃおかしいよ」とうちの奥さんが言う。
慌てて普通の顔に戻そうとするが、すぐにシワだらけの顔でくしゃくしゃになってしまう。

彼の方から会話を切り出す事は無かった。
しかし、こちらの言う事は全て判っているようだった。
うちの奥さんが昔の笑い話のような出来事を話しだすと、ヤツも思い出して声もたてずに涙を流して笑っていた。

「3年前に来た時、帰り際にお前は「リハビリして今度はオレが東京に行く」と言ってたのを覚えているか?」
そう聞くとはっきりと頷いた。
「ちゃんとリハビリしているのか?」
そう問いかけた時に、やっと小さくゆっくりだが言葉を話した。
「指、全部、動かせるように、なった...」
(今回彼が声を出して話したのはこれだけだった。)

椅子に座っている事がかなり体力を消耗するらしく、長い時間の面会は出来なかったが...思ったよりは遥かに状態はマシだった。
惚けてはいない...ただ介護施設ではなくて病院に入院と言う形なので、なるべく危険や面倒から遠ざける事が第一になってしまい、日々の刺激が少なくなり過ぎた結果、反応が少なくなっていたんだと思う。
近いうちに介護施設への入所が決まったと言う事で、これからはもう少し色々な事が出来る様になるんじゃないか、と言う話を聞いた。
30分程で「疲れ切ってしまった」、と言う状態になったので彼は看護士に抱えられて、部屋を出て行った。
...最後に少し振り向いて、表情を歪ませた。


ゴルフをする様になる事は、正直絶対無理だろう。
「あなたに送ってもらった道具は、まだ奇麗なまま押し入れに置いてあるのに」と姉さんが言う。
そして、彼の子どもや知人が見舞いに来ないのは、彼の金銭問題にあると言う事を初めて聞いた。
大阪で会社をやって潰した時に、莫大な金額の連帯保証人になっていたとか。
私に金を貸してくれと言った事は無かったが(うちに金が無い事を知っていたからかも)、色々な知り合いから金を借りていた、と言う事も初めて聞いた。


....お前は本当に問題のある男だったんだなあ。
オレにお前を助ける事は出来ないが、いつか一緒にフェアウェイを悪態をつきながら、笑いながらラウンドする事は「やがてジジーになった人生」の楽しみだったんだぞ。

奇跡は、お前が起こせ...オレはそれを待っている。

少しでも状態が良くなれば、必ず俺はまた行くから。 

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