ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

img_0-57


いい天気だ。
ゴルフ日和といっていいだろう。

Kさんは空を見上げて、思う。
今日は一番大事なトミー・アーマーのドライバーを磨いてやろう。

ああ、なんて美しい...流れるような流線型のフォルム...絶妙な木目の流れ...時間が作り上げた渋い色合い...嵌め込まれたペーパーファイバーのインサートの美しさ...

ゴルフを始めた頃、一番気に入ったのがパーシモンのドライバーで糸巻きボールを打った時の、「バシュッ」というような音と、フェースにいったんくっついてから離れて行くようなあの感触だった。
あの頃はよく夢の中でも、「バシュッ」という音と、ドローの軌道で遥か遠くまで飛んでゆく白球の夢を見たものだった。
まあ、現実の世界では右に曲がる球しか打てなかったんだけど。

その当時、トミー・アーマーの693と、ターニーのM85は「幻の名器」とかいわれていて、パーシモンドライバーの最高峰だった。
飛距離の性能もさることながら、その道具としてより芸術品とまでいわれた形状と仕上げの美しさも見事な物だった。
おそらく当時のゴルファー全てが、やがてはあれを使ってみたいと憧れていたと思う。
自分でも使いたいという気持ちはあったけど、Kさんにとって月給より高いクラシックドライバー(状態のいいものはセットで100万円を越えていた)は、とてもじゃないが高嶺の花で現実味は全くなかった。
ラウンドは月に1度か2度、100を切るかどうかの腕だったけど、それなりにゴルフを楽しんでいた。

変わったのは、メタルヘッドのドライバーが普及してから。
あっという間にほとんど全てのゴルファーがメタルヘッドのドライバーを使うようになった。
メタルからカーボン、チタンとヘッドの素材は変わって行って、パーシモンの時代はあっさりと終わってしまった。
Kさんもメタルや、カーボンやチタンのドライバーを打ってみた...が、何の感動も湧かなかった。
ただボールが金属音を残して前よりも遠くに飛ぶようになっただけ。
パーシモンで糸巻きのボールを打った時の、あの胸が痛くなるような感動が全く無い。
周りの仲間は以前は「0Xはフェースのラウンドが...」とか「この二百年もののパーシモンの方が感触が..」とか「ここはヒールで打ってスライスを...」とか言っていたのに、みんな「XXヤード飛んだ!」とか「前より00ヤード飛ぶ!」とかの話ばかりになって、会話がつまらなくなった。
Kさんは、だんだんゴルフをプレーする情熱が無くなって行くのを感じていた。

ただ、Kさんにとって幸運だったのか不運だったのか...パーシモンの需要がなくなると同時に、あのクラシックの名器たちの値段も急速に下がっていった。
ゴルフへ行く情熱を殆ど無くしたKさんだったけど、不思議なことにパーシモンのドライバーへの興味は全然なくなっていなかったという。
ゴルフへ行かない分だけお金に余裕ができるし、名器の値段が下がってくる..,それからKさんは、お金を貯めてはクラシックのパーシモンヘッドのウッドを集めるようになった。

さすがに「トミー・アーマー693」や「ターニーM85」は状態のいい物はまだ高いので、状態があまり良くはない物を手に入れた。
それでも名器は十分に美しく、Kさんにとってはヘッドについている傷でさえそのクラブを使ってきた人のゴルフの歴史が感じられて、全く不満はない。
その他にも、純粋に「工芸品」として「美しい」と感じるクラブを集めるようになって、Kさんの狭い部屋はクラブでいっぱいになっている。
幸いな事に奥さんや家族は、困り顔をしながらもKさんのそんな趣味を大目に見てくれているそうだ。

ラウンドはもう10年以上していないそうだが、時間を見つけてはクラブを磨いたり、壊れたり割れたりしたクラブヘッドで置物を作ったりして、Kさんの幸せなゴルフライフは続いている。



いい天気だなあ...ゴルフ日和だ。
今日はトニー・ペナのドライバーを磨いてやろうかな...

img_0-56

ゴルフ談義に花が咲いている。
平日だけど、二人ともジャケットの下はゴルフウェアのようだ。
聞こえて来る話では、やっと100を切るくらいの腕でいい時には90を切る、なんて腕らしい。

「ねえ! モツの煮込みとイカ刺し追加ね。」
「あ、俺生もう一杯ね」

「店長、生一つとイカ刺し、煮込みはいります。」
慣れたものだと思う...彼らには立派な飲み屋のおばさんにしか見えないだろう。
週に3日夕方6時から閉店まで、この居酒屋で働き始めてからもう4年になる。
昼間の5時までは、毎日普通の会社で働いている。

夫と事情があって離婚してから5年、まだ学生の娘を育てるためには昼間の仕事だけでは収入が足りず、やっとこの店のパートを捜して働き始めた。
運が良いことに店長がいい人だったので時間を調整してもらって、慣れないこの仕事を続けることができた。
身体はしんどいが、なんとか生活が出来るレベルになった。

「ねえ、おばちゃん、あ、おねえちゃんか...悪い悪い」
「ゴルフ、わかる? 今日はね、こいつが88の自分のベストスコア出したお祝いなの。」
「おまけにね、こいつ、バーディーなんかとっちゃったの!」
「わかる、ゴルフ? 300メートル先のちっちゃな穴にね、こいつ3回で入れちゃったの!」
「凄いでしょ〜!..あ、ゴルフってね面白いからさ、やってみるといいよ〜」

気持ちよく出来上がったお客さんから、そんなことを言われる。
「あ、おねえさん、よく見ると奇麗だねえ〜、今度教えてあげるからさ、ゴルフやろうよ、ゴルフ!」
そんな風に誘われることも何回もある。
幸いこの店では悪酔いするようなお客さんはいないので、別に問題はないのだけれど...

ゴルフはよく知っている。
離婚する前はプロについてレッスンを受けていたし、今だってゴルフに興味はあるし、出来ることならプレーもしたい。
熱中していた頃は、良ければ80そこそこで回れていた...

今でもクラブは奇麗にしてあるし、古くなったかもしれないけれどウェアもとってある。
でも、余裕がない。
週に5日働いて、そのうち3日は夜遅くまで働いて、それでやっと子供との生活を送るので精一杯。
時間もお金も足りない。

誘ってくれるお客さんも数人いるけれど、その世話になって面倒なことには絶対になりたくない。
...4年の間ラウンドしていない、練習もしていない。
でも、ゴルフをやめたつもりはない...いつかきっとゴルフをまた始めるだろう、ということを信じている。
娘が大人になってからだろうか、どこかのいい男が私の生活を変えてくれてからだろうか、気まぐれに買っている宝くじが当たることがあってからだろうか...見当がつかないけれど。
日々を生きるのが精一杯の今、ゴルフへの情熱の火は決して消えなくても、それを表に出すことはない。

なんだかゴルフというものからは、遥か遠くに離れてしまったような気はしている。

でも、遠い時間の先であっても、必ずゴルフをまた始めるつもりでいる。
...そして、どこかのコースの1番ホールのティーグランドに再び立つことが出来た時、より深くゴルフを理解し、楽しんでいる自分がいることを信じている。

そして...そのティーショットを打ったとき、自分は笑っているんだろうか、泣いているんだろうか...
いつか、それを知りたい。

img_0-55

Rさんは、「しけたギャンブラー」だって、自分を自嘲気味に笑っている。
別に「賭けゴルフ」をやるギャンブラーなんて意味じゃあ全然ない。

3月から5月くらいまでは週一回はゴルフに行っていた。
でも、7月からはあまり行けなくなって、9月過ぎのゴルフシーズンに入ってもゴルフに行くことができない。
原因は、ギャンブル...といっても、あのパチンコ。

一昨年から給料は全く上がらず、ボーナスも減り、それなのに子供たちや何やかやと支出は増えている。
当然切り詰めなくてはやっていけない...彼の使える金も半分くらいに減った。
熱中していたゴルフも、練習場に行く数を減らし、ラウンドするのもなるべく安いコースを探し、早朝や夕暮れのゴルフを探し...それでも昨年は月に4回は行けなくなった。

そんなときだった...昨年の暮れに同僚とフラッと入ったパチンコで大当たりをとった。
「バトルもの」というらしく、一回勝つと次から次へと勝ち続け、負けるまでやって3時間...換金すると10万近くの金を手にしていた。
「ああ、これでゴルフができる!」..飛び上がりたい思いでその金を懐に入れ、その月はあまりプレーフィーの安くないコースも含め、5回もコースに行けた。
「やっぱり、金があるといいゴルフ場でできるなあ..」としみじみ思ったそうだ。

この時「そうだ!少ない小遣いもこうやってパチンコで増やせば、もっといろんなゴルフ場に行ける」と、どこかでそう思ってしまった。
もちろん「ギャンブルで勝ち続けることなんかできない」、くらいは知っていたから週一回以上はやらなかった。
そして、それから3ヶ月あまりは勝ったり負けたりを繰り返しながらも、運良くプラス状態が続いて「俺にはギャンブルの才能があるのかも」なんて気さえしていた。

おかしくなったのは、そのあとから。
それまでは「バトルもの」ってやつで当たると、必ず7回から10回、多いときには20回も連続して当たっていたのが、当たってもすぐに負けるようになった。
次に勝つ確率が80パーセントを超えるという機種なのに、せっかく当たっても1回とか2回で終わってしまう...当然プラスにはならずにマイナスが増えていく。
「おかしい」「こんなはずでは」という気持ちで熱くなってしまい、パチンコをやる回数が増えた。
そのうちに「当たる」ことも少なくなった。
へそくりを取り崩して入れ込んだあげく、ゴルフに行く金なんてどこにもなくなった。

それからは、給料日を待ちこがれて、小遣いが入るとすぐ(前のように、月4回のゴルフがやりたくて)パチンコ屋に直行するけれど、結局やられる日々が続いている。
「パチンコをやめて、その金で安いゴルフ場に月に2度くらいでも行けばいいのに」と頭ではわかっているのにやめられない。
「取り返したい」なんて思っているギャンブルは勝てっこない、ともわかっているのに。
せめて、サラ金から金を借りたりしてのパチンコは絶対しない、とだけは肝に命じているけれど...


「こんな小さな玉よりも、もう少し大きな球に燃えていたのになあ...」なんて、自嘲気味に煙草を吹かしながら、今日もRさんはパチンコ屋に行っている。

もう三ヶ月も前から、一度もゴルフに行けていない。

↑このページのトップヘ