ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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Sさんは、荷物カゴにクラブケースをまっすぐ立てて、自転車で細い道を疾走する。
自転車はいわゆるババチャリ(ママチャリともいう)で、前後に荷台をつけてかなり年季の入ったもの。
その自転車でゴルフ練習場までの、約5キロを疾走する。

以前は歩いても行けるくらい近くに練習場があった。
子育てが一段落したSさんは、夫の勧めもあってそこの練習場のゴルフ教室に入った。
興味はあっても一生ゴルフなんてものとは縁がないと思っていたSさんだが、始めてみると...実に面白かった!
運動なんて高校のクラブ活動以来だったけれど、結構当たるしよく飛んだ。
同じ教室の同年代の女性達とも親しくなり、月に一度くらい安い河川敷に行くのが楽しみになった。
3年程続けた後,その人達とサークルを作り,年に4回程コンペもやるようになった。
自分のスコアも100を切ってたまに90も切れるくらいに上達した。
もう、ゴルフは自分の人生の生き甲斐と呼べるくらいのものになった。

...そこで、事件が起こった。
その自宅近くの練習場が閉鎖したのだ。
元々住宅地の中の練習場で狭かったために、5キロ程離れたところに出来た広い敷地の練習場に客を取られた結果だった。
やむを得ず、サークルのみんなはそっちの練習場に居場所を移した。
サークルごと練習場を移ったと言っても良いくらい...サークルのコンペの話し合いも連絡もそのコースを中心に動くようになった。
...でも、Sさんは車の免許を持っていなかったために、しばらく迷っていた。
コースに行く時にはサークルの誰かに頼んでいたんだけれど,練習日ごとに頼むのは気が引けたから。
それでも、しばらくゴルフをやらないでいると、日々の生活が我慢出来ない程ストレスがたまって来た。
「よし!」
「5キロくらい自転車で行く!」と決めた。
大きなキャディーバッグはもちろん自転車で持っていけないから、練習用の小さなバッグを買って自転車の荷台に載せて...

練習場に行って週一回の練習と、サークル仲間のオバサン達との楽しいゴルフ談義をしてみると、家に居た切りの時よりずっと生活が充実して来ると感じる。
でも、週一回自転車でバッグを積んで5キロの道を疾走するのは、それはそれで結構大変だった。
はじめは普通に前の荷台に斜めに積んでいたので、道ばたの電信柱にバッグがぶつかって転倒したのが一回,横に積んで走っていてバッグが車に接触して「あわや!」になったのが一回...
背中にバッグを斜めにかけても運転してみたけど、これはこれでなんでもない時に転びそうになってやめ。
子供用の椅子をハンドル手前に取り付けても見たが、これにバッグを乗せるとハンドルが切れなくなって怖い思いをしたのでやめ。
さすがに積み方をいろいろと考えて、自転車屋のおじさんに前のかごとハンドルでまっすぐにバッグを立てて固定出来るようにしてもらった。
これで大丈夫。
見た目はとても変だし、ちょっと人目につき過ぎるかもしれないけど、上に飛び出た枝にでもぶつからなければ運転には問題は無い。
むしろ、車からは目立って安全かもしれない。

オバサンは、ゴルフを楽しむために週一回、5キロの裏道を疾走する。

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オープンコンペに一人で参加していると、本当にいろいろな人に会える。
中には「え? そんな仕事をしているんですか?」なんて人も少なからずいて、これがオープンコンペ参加の大きな理由の一つになっているほど面白い。

ちょっと前のT県のPカントリークラブのオープンコンペ。
一緒になった人の中に、年は40前くらいで一目見ただけで体つきが普通の男とは違う「典型的アスリート体型」の男がいた。
半袖から出る腕はそこそこ太く、ボディービルダーとは違う「実戦で鍛え上げられた筋肉」というイメージの逞しい腕をしている。
特に半袖シャツの上からも広背筋が非常に発達しているのが判る...腹回りに至っては、俺の半分くらいしかない。
それなのに足の筋肉はズボンを破りそうなくらい発達している。

ゴルフには非常に誠実に取り組んでいるようで、一球一球のプレーに真剣さが溢れ出る。
...がしかし、ゴルフの腕はアベレージの上クラス、といったところ。
鍛えられた筋肉を生かしきれていない、というか...ゴルフの動きになっていない。
なまじ筋力があるせいか、テークバックでほとんど肩を回さず、腕だけで左手を90度曲げて担ぐだけ。
それでも、瞬発力があるために普通の人より飛ぶんだけれど、とんでもなく曲がる球も出る。

...曲がったボールのところに行くスピードは速く、動きは俊敏で軽い。

その常人ならざる動きと身体に、他の同伴競技者と「あの人は何のスポーツやってるんでしょうねえ?」
「ボクシングかレスリングみたいな格闘技じゃないですか」「いや、身が軽いからサッカーとかバドミントンとか..」「ボディビルってことはないから、ダンスとか俳優とか...」
なんて、職業予想が始まってしまった。

昼食の時に、ゆっくり自己紹介し合ったところ、なんと彼の職業は「消防官」。
それも、とあるレスキュー隊の隊長さんであることが判った。
(後日、ある事故のニュースの映像で、活躍する彼の姿を見ることが出来た)

...そりゃあ、体が違う訳だ...彼は人命救助のためにトレーニングを続け、自分の体を毎日いじめ抜いて鍛え上げているのだから。
壁を登り、地を這い、人を担いで足場の悪いところを走り抜いたり、自分の命を賭けて火炎の中に飛び込んだり...彼から出ている強烈なエネルギーみたいなものの正体を、それでやっと理解することが出来た。

そうした彼にとって、不規則にしか取れない休日にするゴルフは、本当にリラックスして熱中できる趣味なんだと言う。
でも不規則な休みのために普通に4人で予約してのラウンド予定は出来ず、空いていれば前日に申し込んで独りでも参加できる、こうしたオープンコンペに出るのが唯一の楽しみなんだと言う。
あまり練習する時間もないので自己流なんだけど、「ゴルフは大好きです!」と。

結局彼は90くらい叩いたけれど、実に楽しげにプレーを続け、そのきびきびとした態度は終日変わらなかった。

「僕は今の仕事が好きで生き甲斐なんですけれど、上からそろそろ現場を離れて役職に就いてくれ、ってうるさく言われているんです」
「年齢が高くなっても、現場の仕事を続けたいんですが...」
ぽつりぽつりと、彼が言っていた。

後日、彼にメールでスイングのことを聞かれた時に、「左腕を曲げるだけのバックスイングだから、左腕をのばして肩をもう少し回す意識を持つだけで40ヤードは飛ぶようになりますよ。」と伝えた。

「今はまだ飛ぶ方向が安定しませんが、飛距離は凄く出るようになりました。」
少し経ってそういう返事が来た。

あれからしばらくの時間が過ぎて思っている...彼は相変わらず体を鍛え続けて、現場を走り回っているんだろうか?
それともデスクワークをしながら、窓から空を見上げているんだろうか?
...そして、オープンコンペにはまだ参加しているんだろうか?

爽やかな好漢は、ゴルフの腕を上げただろうか?

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タイガー・ウッズって嫌いだった。
特にあの、これ見よがしの大げさなガッツポーズが大嫌いだった。
上手く行ったからってあの大騒ぎはゴルフじゃない、って思ってた。

夫に誘われて始めたゴルフも、もう20年位になる。
夫は二つのコースのシングルハンデで、ゴルフのマナーに厳しくてコースの競技委員なんてものもやっていた。
子育てが一段落した頃に私がゴルフに誘われたのも、いつも休日にはいない罪滅ぼしのためだと思うけれど、やってみたら私は私で熱中してしまったんだから結果として感謝している。
この数年は夫も競技には出なくなり、私と二人で回った事のないコースに遊びに行く事が多くなっていた。

その夫が定年まで後一年という時に、ガンになりあっという間に逝ってしまった。

生活は何とかなったけど、ゴルフは2年近くする気にならなかった。
でも、ゴルフ練習場で知り合った友達に何度も誘われているうちに、またゴルフを再開してみようか、という気になって来た。
それでまず誘われた練習場のコンペに出てみたんだけれど、夫婦で参加している人が多いので何となく居心地が悪かった。
気を使うのも使われるのも煩わしかったし。

それで、一人で参加出来るオープンコンペに出るようになった。
女性だけの組に入る事もあったし、男性3人と一緒になる事もあったけど、煩わしさも気を使う必要もないのでゴルフを純粋に気楽に楽しめた。
賞品は貰ったり貰えなかったりだったけど、運次第だったのでそれはそれで面白かった。

そして、この前の冬のコンペ。
ラッキーが続いた。
林に打ったボールは、木に当たって帰ってくる。
ミスショットが転がってグリーンに乗る。
長いパットが入る。

気がつくといつもは100前後のスコアが、最終ホールをパーなら90を切るところまで来ていた。
今までのベストスコアは、夫と一緒にやっていた5年くらい前の90。
80台は一度も出した事がなかった。

最終ロングホール...ドライバーはフェアウェイ...セカンド4W...三打目も距離が残ってまた4W...グリーンをオーバーして、奥からの下りのアプローチが残った。
それをパターを使って、ビビってのショート...残りは、下り1メートルのパーパット。
この時には他の3人の同伴競技者は私の真剣な様子に気がついたみたいで、一緒にラインを読んでくれたり応援してくれたり...パットを打つ瞬間には皆が息を止めて見守っていてくれているのを感じた...「入ってえ〜」って心の中で叫んだ。

止まりそうになったボールが、ゆっくりとカップに入って行くのが見えたとき、自分でも知らず知らずに右手を伸ばしてガッツポーズをしてしまった。
「なんで先に死んだんだ」
「子供達が巣立って行って寂しいのに」
「でも、あたし一人でもベストスコアが出せたんだ」
「まだ、良い事が沢山あるのかもしれない」
「まだ、こんなゴルフを続けたい」
...なんて思いが一編に頭の中に浮かんで来た。

「ベストスコアが出せました。」っていったら、みんな「おめでとう」と喜んでくれた。
でも、ベストスコアが出せたくらいで泣いてるなんて思われたのがちょっと恥ずかしい。



...はじめてのガッツポーズ、格好悪かったかもしれない。

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