ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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夫が言いやがった。
あたしに惚れて結婚して、あたしに頭が上がらなかったあの夫が、思いっきり思い詰めた顔をしてあたしに言いやがった。

「もう...短いスカートやキュロットは穿かない方が...」

足には自信があったんだ。
スタイルだって日本人にしては足が長いし、バランスも良いって。
だから30過ぎて夫の誘いでゴルフを始めたときも、短いスカートやキュロットで足を見せるのは楽しみでもあったんだ。
夫だって一緒に回るときは、他の殿方達にすごく自慢げにしていたのに...

確かにあれからずいぶん経った。
時間が流れた分だけ年もとった。

気にはしていたんだ。
あたしの自慢の足の曲線が微妙に変化してきたことを。
あれほど完璧に思えた曲線にわずかなブレがあちこち出ている。
部屋の中では分からないのに、太陽の下に出るとそれがよくわかってしまう。
..セルライトと言うらしい...よけいな乱れた線が浮かび上がる。
それに、白さが自慢だった足に、静脈も存在を主張して浮かび上がっている。

美というものは移ろうから美しい...そんなことは分かっている。
自分がそこから逃れられないのも分かっている。
でも、夫があんなに思い詰めた顔で言わなくたっていいじゃない!
...わかっているんだから。

美しかった自慢の女房が、色あせていくのが耐えられないんでしょう。
年を取ったのが分かるのがつらいんでしょ。
...あんたがあたしを今でも愛しているのも分かっているし。

ゴルフコースは晴れ舞台、スポットライトの下の主役の座から退場するときが来たのね。
いいわ、あなたと一緒に肌も露なドレスを来た役は降りてやる。
短いスカートも短いキュロットももう穿かないわ。
美しくなくなった足は見せられないから。

...でも、あたしは舞台からは降りないわ。
今は熟女のブームだって言うじゃない?
胸だって自慢だし、足だってぴったりした7分丈のパンツでもあたしの魅力は出せるわよ。
身体のラインは若い頃よりダイナミックでしょ?
セルライトになんか負けるもんですか!
静脈になんか負けるもんですか!

ゴルフの腕だって、今すごく上手くなってるのが自分でも分かるんだから。
もうすぐあなたを越えるんだから。


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何年か前の夏、T県のPカントリークラブのオープンコンペでで会った男。

普通の人間とはちょっと違う、いかにも遊び慣れた風な雰囲気を漂わせてパットの練習をしていた。
年の頃は60は過ぎているだろう顔つき、しかし長い真っ白な髪の毛を頭の後ろで一つに結び、なんだか飄々とした素浪人の風情さえある。

顔だけ見ていると明らかに老人に近い年齢だと感じるんだけれど、体つきが顔と合っていない。
一件細身だけど、半袖や短パンから見える手足は筋肉がくっきり分かれて見えて、何かの運動をずっと続けているだろう事が想像出来る。

...そして、その男がベルトをゆるめてシャツの乱れを直したとき、その男の腹が6つにキッチリと割れているのが見えてしまった。
「なんだ! あの腹筋は!」
思わず自分の腹の肉を掴んでみると...そこには、腹筋なんか見えやしない、電話帳の厚さの贅肉が(泣)。

偶然同じ組となったその男に、年を聞いてみると、なんと66才!
「な、何でその年でそんなに腹筋が...」と思わず聞いてしまう。

「いやあ、毎日泳いでいるんですよ」「マスターズ水泳に出ているもので」
...一日に何キロも泳いで、マスターズ水泳の競技で日本や世界の大会に出ている人だった...
なんでも、その世界では何時も上位入賞する有名な人らしい。
そのためか、後で風呂でも見たけど、全身余分な贅肉全く無し!
彼が風呂場で歩いていくと、若い人達も思わず全身見てから後ろに下がる。
...俺だって、30代までは裸になると腹筋さわりに来る奴がいたんだけどねえ...いまじゃ悲しいビール腹。
70近くまでその腹筋って、どうよ!
ひょっとして、ゴルフのためにもあの方が良いのか...?

「私は、まだまだゴルフを楽しむつもりですよ」「この前、全部測って、あと10年使えるクラブを注文したばかりですから」
「身体の若さには自信ありますから、もっと上手くなりますよ」
うん、気持ちも青年だ...身体も柔らかいみたいで、肩も身体も良く回る。
フィニッシュまできちんと回るし、遠くから見たら30-40代にしか見えないだろう。
...飛距離は、俺の方が50ヤード以上飛んだけど...どうするんだ? 俺。

腹筋復活しても、もてるようになるとも思えないし(いや、もててドーするんだ、今更)、腹筋維持するためにまた節制重ねて頑張る根性(旨い酒も飲まずにか?)あるわけないし...腹に触るとちょっと腹が立つけど、それが俺の人生ってことだ(あーー、でも、こんな結論でいーのか? 俺)。


ああ、頭の中で「俗物には俗物の楽しみがあるんだから...」なんて、言い訳してる声がでかくなる。

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その茨城県のゴルフ場のオープンコンペでは、40代の夫婦と30代の若い男の4人で一組となった。

その夫婦は、なかなか魅力的な奥さんが100前後、スポーツをやっていそうな身体の旦那さんが90を切るくらいの腕前だった。
もう一人同伴の若い男は、30になったばかりで独身、ゴルフを初めて3年目ということでゴルフ熱中時代...80台の前半で回りたいと言っていた。

スタートして順調にホールをこなしていくと、それぞれのゴルフが見えて来る。
若い男は、飛ばすが力が入ると左へのミスが多くなる。
夫婦のうち夫の方は、回数はかなりやっているらしく回り慣れている印象だけど、身体の割に飛ばない...スライスのミスが多い。
妻の方は、ゴルフスクールにでも通っているようで、いいスイングなんだけど傾斜や景色でミスが多くなる。
そんな妻のゴルフを夫の方は常に気にしていて、前の組との空き具合や後ろの組が来ているか、同伴の我々二人に迷惑をかけていないか、に注意を払ってともかくプレーを急がせる(特に遅い訳じゃないんだが)。

事件は7番ホールで起こった。
妻の方が左へのミスが重なって、残り100ヤードくらいがまるまる池越えになってしまった。
この奥さんはこうした「池越え」という状況が苦手らしく、打つ前から「どうしよう」「池なんか越えそうにないわ」と不安そうな声を漏らす。
その苦手意識が彼女のスイングを萎縮させて、無理矢理すくいあげようとしてダフりトップのミスの連続となる。
一球目を池にいれ、ポケットからボールを取り出してドロップ、それもダフってまた池に...
夫が後ろを気にして「おい! 遅れてるぞ!」
妻は慌てて、もう一球ポケットから取り出してドロップ。
それも池に入れてしまった。

「すみません!ボールがないんでとってきます」と妻がクラブを置いてカートの方に駆け出す。
「おい! みんなを待たせて何やってんだ! ボールは予備を持ってろっていつも言っているだろ!」
「ボール持ってたんだけど,みんななくなっちゃったの!」
「お前みたいな遅いプレーがみんなに迷惑をかけるんだ!」
「あたしだって一生懸命は速くやろうとしてるわよ!」

...夫婦喧嘩が始まってしまった。
夫は我々や後ろの組を気にして謝りながら、妻を怒る。
妻は涙を流しながら、自分だって速くプレーしようと思っているんだ、と言い返す。
勿論口だけの喧嘩だけれど、本気の夫婦喧嘩は迫力も半端じゃない...


「あの、夫婦って大変なんですねえ...」
「僕も結婚するの考えちゃいます...二人すごく仲のいい夫婦に見えたのに..」
若い男が本気で怯えた声で話しかける。
「ああ、でも大丈夫だよ。 夫婦でゴルフってのもいいもんですよ」
「でも、あの二人あんなに派手な喧嘩しちゃって..なんだか怖いです...」

その後はカートに乗っても冷たい空気が漂ったまま、ハーフ終了。
4人の会話がなくなってしまった。

...昼はバイキング形式だった。
俺とその若者はさっさと、焼きそばやカレーにソーセージやら卵焼きやらを持ってきて、食べ始めた。
遅れてそれぞれに皿を両手に持って夫婦がテーブルにやってきた。
同じテーブルに並んで座り、皿を置く。
少しして、目の前に置いた皿を夫がそっと妻の方に押した。
「...これ、お前の好きなサラダとフルーツ..」
妻が目を合わせないまま、皿の一つを夫の方に押した。
「...これ、あなたのハムとソーセージ...」
「...」



若い男が下を向いたまま、となりの席の俺に呟いた。
「...なんだぁ...」

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