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家族にも親戚にも、ゴルフをやっている人はいなかった。

東京に出てきて仕事に就いてから、ゴルフに興味を持った。
学生時代はテニスを少しやってたくらいだったが、運動が苦手ではなかった。
机に向かってパソコンをずっと打ち続けるのが仕事だから、余計にテレビで見る広い野原で思い切りボールを打つ姿に憧れたのかも知れない。

住んでいるアパート近くの練習場の、ゴルフ教室に通い始めたのが3年前。
ラウンドはその教室の主催する二ヶ月に一度のコンペが中心だ。
速く上手くなりたいけれど、忙しくて一週間に一回練習場に行くだけで精一杯だから、ゴルフの週刊誌や月刊誌は欠かさず買って独学で勉強している。
特にレッスンページは項目別にスクラップしていて、どんなときにどうするかはレッスンしているプロの名前と一緒に何ページ目にあったかも覚えているくらいだ。

始めて一年ちょっと経った頃には、会社の上司や仲間に誘われて何回かコースに行ったけど、ゴルフそのものよりその後の付き合いが面倒で、あまり楽しめなかった。
そこで一年くらい前からゴルフ週刊誌の情報を見て、練習場のコンペの無い月にオープンコンペに出るようになった。

オープンコンペは土日出勤の代休の平日に、一人で参加する。
女だからっていう面倒な付き合いの心配が無いし、一人参加はゴルフ好きの人ばかりと一緒になって気楽だし、「試合」のスリルも緊張感もあってすっかり気に入ってしまった。
特に、この日のオープンコンペは賞品が「肉」と言うことで、結構気合いが入っていた。
...この前のコンペではせっかく入賞したのに、もらったのはなんと「目土袋」だったし。

午前中は、まあまあ自分なりに上手くやって行けた。
...でも、午後の12番ホールでトラブルになった。
あごの深いガードバンカーに入ったボールが...出ない。
2回までは冷静だったけど、3回、4回と出なかったときには、頭の中が真っ白になって、涙が出てきた。
グリーンの上では先に乗せたオヤジが2人、心配そうな顔で待っている。
後ろでは変な帽子を被ったオヤジが先にバンカーから出して、レーキを持って待っている。
5回目も出なかったときに、後ろにいた変な帽子を被ったオヤジが、そっぽを向いて独り言のように呟いた...「ハンドファーストに構えちゃダメなんだよなあ...」
「あ!」思い出した。
「一ヶ月くらい前の、週刊GのレッスンでTプロが書いていた!」
思い出した通りに、手よりヘッドを前にするくらいに構えて、コックを効かせて...「出たっ!」。

「あ、あとはやっとくから」と言ってレーキを持ってすれ違ったオヤジに、小さな声で「ありがとうございます」って言ったら、ニヤッと笑って知らん顔してた。
大叩きしたけど、また一つ覚えた。

ゴルフは面白い。
腕が上がっていくのが判るのが、たまらなく嬉しい。
この日の賞品は、飛び賞の「ハムの詰め合わせ」だった。

教えてくれたオヤジは優勝した。
もちろんそれだけの話で、後はなんにもない。