bu170111
まさか、キャディーをするようなことになるとは思わなかった。
夫は野心的に事業を拡大しているのは知っていたけど、自分は都心のマンションで息子と二人、他人から見れば贅沢な暮らしをしていることに満足していた。
少しは華やかな世界にいたこともあったけど、今まではそんな環境に満足していた。

それが、夫が事業をゴルフ場経営にまで広げたいというので、都心から遠い田舎でキャディーの仕事をするようになってしまった。
夫は、ゴルフ場の現場の様々なことを、キャディーを体験しながら覚えて欲しい、と言う。
ゴルフ場にする土地は確保してあり、完成したらそこの支配人をやって欲しいから、と。

キャディーの仕事は、はじめは運動不足の身体には堪えたけれど、慣れれば結構面白いものだった。
やったことのなかったゴルフも、キャディーの福利厚生の一環とやらで始めて見ると、これも面白いと嵌ってしまったし。
ただ、キャディーとしてついたゴルファーに、口説かれるのだけは面倒だった。
「こんなところにいるような人じゃないよね?」とか「何故こんなところに貴女みたいな人がいるの?」とか「ここじゃなくて、他でお会いしません?」とか...
プロの試合があった時にも、なんだか有名な選手らしい人に試合中ずっと口説かれていて、しつこいったらなかった。
自分のゴルフに集中していてくれればいいのに。

でも、結局ゴルフ場は出来なかった。
バブルがはじけて、本業の方が大変なことになってしまい、ゴルフ場用に買収が終わっていた土地も手放して、私もキャディーを続ける必要が無くなって、都内に戻ることになった。
...結構キャディーの仕事にも慣れて来ると、この辺の暮らしも良いなあ、なんて思うようになっていたのに。
夫とは別に会わなくてもいいし、大学生になった息子もあまり手がかかるようなことはない...むしろ私を避けているみたいだし。

そりゃあ都内の暮らしの方が、慣れているし楽なんだけど。
ゴルフがようやく面白くなってきたところだし、仲の良くなったコースのメンバーも何人か出来たし...都心に帰る事があんなに寂しい気持ちになるとは、来た時には想像もできなかったな。
...上手くはないけど、ゴルフをプレーしている時が一番充実した時間に感じられていたっけ...
結構強気な気性がゴルフに向いていると言われたし、見かけのわりにボールは結構飛ぶ。
ただ、覚えたときからのクセの、フライングエルボーだけが治らない。
レッスンプロに腕を縛られて打たされたりしたこともあったけど、腕が自由になると肘が暴れてしまう。
そのためか、飛ぶんだけれどよく曲がる。


都会に戻って、ゴルフをする回数はずいぶん減ったけど、ずっと続けてはいる。
あれから少しは上手くなったけど、私のフライングエルボーはまだ直っていない。