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もうずいぶん前の話になる。
ヒッコリーシャフトの「オーティークリスマン」という名の変なパターを使っていた。
クラシックの名器とも言われる使い込まれた年代物で、気まぐれで使ってみたら意外に入るのに驚いたパターだった。
そのパターヘッドは非常に柔らかく傷つきやすいので、丁度大きさがピッタリだった、下の娘が1歳くらいの時に履いていた赤い小さな靴下をヘッドカバー代わりにしていた。
見た目が何ともかわいらしく、おまけになんだかそれを見ていると気持ちが落ち着いて、長いパットが結構入ったものだった。

その頃に出た試合で、一緒になった同じ年くらいの男がその靴下に目を留めて、「お嬢さんの靴下ですか?」と聞いてきた。
「ええ、小さい頃の靴下が大きさがピッタリだったもので」
「可愛い盛りの時のものですね」
「お子さんがいらっしゃるんですか?」
「ええ、男の子と女の子ですが...」
「うちは娘二人です」

そんな会話をしながらのラウンドになった。
面白い物で、競技に出るようになるほどゴルフに熱中しているゴルファーは、何かしら「ラッキーアイテム」だとか「幸運の00」なんて代物や、「御守り」の類をキャディーバッグや身につけている人が多い。
どんなに良いショットをしても、運悪く酷いライに行ってしまったり、とんでもないミスショットが運良く助かったり、なんて「ゴルフにつきものの運・不運」を色々と経験してくると、何となく「人の力を越えたもの」に頼りたくなる気持ちはよく判る。

プロでさえ(プロだからか?)、変な首輪をしたり、腕輪をしたりしているのをよく見かける。

自分にとってもこの娘の小さな赤い靴下は、緊張した場面でパットを打つときに心沈める効果が確かにあった。
そして、話しかけてきた男は、それがマーカーだった。
ちょっと大きめな厚みのあるコイン状の物は、中に写真が貼れるペンダントみたいな物だった。
ふたを開けて見せてくれたその中には、3才くらいの男の子の笑顔の写真が貼ってあった。
「これを使うと、なんだかどんなラインでも入るような気がするし、外れても良いパットが出来るんですよ」
確かに男はショットは「普通」と言うレベルだったけど、パットが安定して上手い男で、3パットをしそうな雰囲気は全くなかった。

この試合では、私はOBがたたって予選落ち。
男は、しぶとく粘って予選を通った。



「娘さん、もう大きいんですか?」
「ええ、もう高校生と大学生です」
「おたくは?」
「子供二人はもう大学生です」
「女の子の小さいときの写真は使ってあげないんですか?」


「いえ、二人の写真は使ってないんです。」
「...この子はずっと3才のままなので...」