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(何年かおきに書いて来た、古い親友との話を続けた形で発表します)


高校時代に甲子園を目指す高校野球で、俊足・強肩のキャッチャーとしてならして地元の新聞には何時も名前が載った、言わば地元のヒーローだった男であった。甲子園には届かなかったが、プロでも通用する実力と見られていた...地元出身のプロ野球の有名選手からスカウトされたなんて話も聞いた。
が、高校3年の時に身体を壊してプロへの道を諦めた。

しかし野球への情熱は消えることはなく、仕事をやりながらも高校野球の監督になりたい、なんてことが生き甲斐だと熱く語る男だった。
「結婚したら、男の子を9人作って野球のチームを作る!」なんて事を真顔で語るような奴だった。
...そんなこと、嫁さんに拒否されてかなうはずのないことだったけど...おまけに最初の二人の子供は娘だったし。

一時期には事業に成功して華々しい時代もあったが、やがて世の中の流れの変化に乗り損ねて、仕事も家庭も失う事になった。
そんな山あり谷ありの人生が過ぎて、一人地元に帰った彼はそこでまた草野球チームに入り野球を続けていた。
何度か「そろそろゴルフでも始めてみろよ」なんて言ってみたけれど、「野球が出来なくなったらな」なんて返事ばっかりだった。

...それが10年ちょっと前、「今度同窓会のコンペがあるんで、ゴルフ始めたいから、お前の使ってないクラブくれないか?」なんて電話があった。
「やっと始める気になったか」と、その当時手元にあったクラブの中から「易しいけれど上手くなっても使える」クラブを選んで送ることにした。
賞品でもらったキャディーバッグに、ドライバーはファウンダースのメタルヘッド「ザ・ジャッジ」の1・3番ーSシャフト、アイアンは「ピンアイ2プラス」の2−Sまで(青ドット)、パターはピン「アンサー」。
ついでに、ボールやティーやマーカーまで入れたフル・セットだ。
あとはシューズだけ買えばいい。
元々身体もあり、運動能力も高いから、この辺で練習すれば間違いなく短期間に上手くなる...と思っていたのだが...

「クラブ、サンキューな。あれ見た奴が売ってくれってうるさくてなあ。あれそんなにいいモノなんか?」なんて、電話は来たが
「それで、ゴルフはどうだった?」
「ああ、俺が打つと飛ぶんだけどよう曲がるわ」
「動いてない球なのに、上手く打てないモンだわなあ」
「俺、やっぱ野球の方がむいとるわ」

どうやら、何回かはコースに出たようだったけど、そのまま野球の熱は冷めずに、ゴルフには踏み切らなかった。
多分、野球でならして地元で有名だった男にとって、ゴルフの上手くない初心者としての格好悪さは、どうにも我慢できなかったらしい。

同い年の一番古い親友との「そのうちに一緒にゴルフに行こう」という約束は、「野球が出来なくなったら、ゴルフに打ち込むから」なんて言葉で、結局フルセットのクラブを送ってから10年以上そのままになっていた。



...一昨日、彼が脳梗塞で入院した、という連絡があった
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