img_0-31

九州に住む、一番古い親友。
高校時代に地元の高校野球のヒーローとなり、プロからもスカウトを受けた男。
100メートルを11秒台で走り、どんな体育祭でもヒーローだった男。

プロ野球の夢は腎臓を壊した事から断念し、デザイナーとしての道を歩み、俺と知り合った。
しかし野球の夢は決して捨てずに、草野球でもマスターズ野球でもずっと野球を続けて来た。

俺がゴルフを始めてから、何度誘ってもゴルフはやらなかった。
その後山あり谷あり波瀾万丈の人生が過ぎて、故郷の九州に戻った時に「俺もそろそろゴルフを始めるかな」なんて電話があった。
「それで、お前の持っている道具で、使ってない奴くれないか」
すぐに、ピンアイ2プラスの1番からロブウェッジまでの全番手と、ピンのオールドタイプのパター、ファウンダースのメタルウッド1番と3番、それを新しいキャディーバッグに入れて送った。
ヤツの運動能力ならば、2〜3年でシングルクラスになるのも夢ではないと思っていた。
しかし、地元の野球のヒーローとして肩で風切って歩いていたヤツには、格好が悪いゴルフビギナーの時間を我慢する事が出来なかった。
「レギュラーにもならんかった奴が、ゴルフじゃ大きな態度してるねん」
「やっぱ、オレは野球をやるわ」


リハビリをしていると言う電話があってから、しばらくすると電話が通じなくなった。
様子を見に行くのには九州鹿児島はちょっと遠過ぎて、心配ながらも時間が過ぎて行くだけだった。


ずいぶん時間が経ってから、また電話があった。
「すまん、今度は脳出血やて」
「脳梗塞の薬で、出血しやすくなっていたとかなんだ」
「今度はまだ立てん...本気でリハビリやらなあかんわ」

前の時より話すのが大変なのが判る...電話では聞き取れない言葉が多い。
ひと月前に脳出血を起こし、やっと話が出来るようになったんだと。


鹿児島に一人戻ってから...朝から芋焼酎をぐいぐい飲み、煙草をやめない男だった。
波瀾万丈の人生に、飲まなくちゃいられない様な状況もあった。
最初の脳梗塞の回復が良かったんで、また無茶をしていたらしかった。

こんどは時間がかかりそうだけど、ヤツは今度も頑張ってリハビリをして、きっと立ち直ってくれるだろう。
根性はあるから、ゴルフを始められるくらいに回復して来ると信じている。

もうあのピンアイ2は使えないかもしれないが、シニア用のクラブならオレが必ず用意して始めさせてやる。
なあ、お前。
お前と鹿児島のコースのフェアウェイを、悪口言いあいながらラウンドするのをオレはずっと楽しみにしているんだぞ。