img_0-40
こんな事、実際に出会わなければ他人に聞いた事だったら、自分じゃ絶対に信用しない笑い話。

T県のKカントリークラブでのオープンコンペで一緒になったのは、30代で元気いっぱい、身体中から「ゴルフが大好き」という雰囲気を発しているSさん。

Sさんは、ゴルフを始めて3年目とかいうことで、「今は何を置いてもゴルフに熱中してます」「有給が取れれば、こうやって一人ででもコンペにも参加してるんです」。
仲間内で一番飛ばす、とかで「飛ばしじゃあ、普通の人には負けませんよ」「飛ばしっこしましょうか」と、何とも明るく屈託がない。
そしてスタート前に顔を赤くして語っていたが「奥さんに頼み込んで、ボーナスを使わせてもらって作ったんです!」というピカピカ新品のドライバー。
週刊誌や何かで良く紹介されている「カスタムフィッティングをしてもらいました!」、「自分専用の自分に一番あっているドライバーなんですよ!」と、嬉しそうに撫でたりさすったり...何とも微笑ましい。

ラウンドをスタートすると、結構体も大きなSさんは確かに良く飛ばす。
しかし、今日が筆おろしだというドライバーは、時折信じられないくらいとんでもない方向に曲がる。
「本当に合ってるの? それ。」なんて感じる程。
それでもSさんは、「まだドライバーになれてないからですよ」とドライバーを疑うことは全くない。
フェアウェイを捉えるのは3回に一回くらいで、右に左にと忙しく駆け回るSさんだが、めげずに陽気なゴルフを続ける。

午前中のハーフが終わって食事をしているときには、Sさんは「自分のスイングのヘッドスピードを測って、スイングのタイプをビデオで分析し、色々なヘッドとシャフトを組み合わせて、凄く時間をかけて自分のスイングにピッタリ合うドライバーを作ってもらった」事を熱く熱く語り続けた。
「だから、曲がったり結果が出ないのは自分が悪いんです」と。
作ってもらった費用も普通の新品のドライバーよりずっと高かったけれど、奥さんも「あなたがそれだけ熱中しているんだから」と許してくれたんだそうだ。

...午後のハーフが始まり、Sさんは相変わらずボールが散らかる...「スイングはそんなに悪くないのになあ」、なんて見ていた俺は「あれ?」と気がついた。
なんだか切り返しの時にシャフト、というよりグリップが曲がっている気がする。
「ねえ、ちょっとドライバー見せてくれる?」「あ、いいですよ」

「なんだ! これ!!」

「え? なにかおかしいですか?」

「あのねえ、これ、グリップが半分しか入ってないよ」
「気がつかなかった?」
「ええ、わかってますよ。」
「でも、僕専用に全部作ってもらったんだから、それも僕に合わせてるんですよ」
「そんなこと絶対にない! これは向こうのミスなんだから、こんなグリップで使っちゃダメだよ」

...信じない。
それが自分専用だと思っている。
「俺の言うこと信じないんなら、他の人にも聞いてみればいいよ」
...丁度詰まっていたホールで、前の組の60年配のスイングの綺麗な上級のベテランゴルファーに見える男に声をかける。
「ちょっとすみません、このドライバーグリップして貰えますか?」
「あ、はい、いいですよ....え?」
「なんじゃ! これは!」
「おかしいですか? 僕用に作ってもらったドライバーなんですが...」
「こんな仕事するなんてふざけてる! どこの店なんだ! すぐに怒鳴り込みなさい!」
...本気になって怒り出した...そこでやっとSさんも、そのグリップが普通じゃないことを信じた。
そのグリップは丁度半分くらいしか入っていなくて、左手はグニャグニャの部分を掴むしかなく、かろうじて右手がシャフトの部分を掴める感じだったけど、Sさんは「自分は腕の力が強いので、わざとそうやってあるものだ」と信じていたんだそうだ。

...後日彼から連絡があり、そのコースの帰りにショップに行って訳を話すと、店長以下全員が平謝りで着け直してくれた、という。
...もし、俺が言わなかったら、彼はあれが「自分用のカスタムフィッティング」と信じて、ずっとあの状態で使い続けたんだろうか。

ダメだよ、このクラブをフィッティングしたゴルフショップの人達。
善良な熱中ゴルファー達は、あなた方を信じてなけなしの大金を払っているんだから。
彼等を失望させる様な仕事をしてたら、あなた方に未来は無くなるよ。