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「あ,違う!」
思わず声に出てしまった。

「どうしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです。」

来月早々にあるサークルのコンペの前に「月に一度くらいラウンドしなくては」と来た9ホールのコースでのこと。
友達と二人で手引きカートでスタートした。
ティ−ショットはまあまあで、セカンド地点でアイアンを持った時、今までと違うグリップの感触に驚いて出た声だった。

夫に買ってもらったこのアイアンも,もう2年以上使っている。
以前は夫と二人で週に一回くらいのペースでラウンドしていた。
その頃は夫の収入も良く、はやりのアイアンに買い替えたりも頻繁にしていて、このアイアンも結構評判が良かった製品を買ってもらったものだ。

でも、一年半ほど前に夫の会社が倒産して、生活が変わった。
50歳近い夫には、再就職の口がなかなか見つからない。
失業保険が切れた後は、やむを得ずタクシーの乗務員募集に応募して、今はまだ慣れない仕事に頑張っている。
生活も不規則になり、収入は以前の半分以下となった。
あたしも近所のストアでパートを続けている。

サラリーマンだった頃の夫は,ゴルフに熱中していた。
凝り性だったために、何セットもクラブを買い込み、物置にクラブを調整する器具や測定器などまで据え付けて、夜中までクラブを楽しそうにいじくり回していた。
しかし、会社が倒産してからなかなか仕事が見つからないために、そうした高価だった器具類や殆どのクラブはオークションで打ってしまったらしい。
ゴルフも「もう少し稼ぎが良くなるまでは」と、もう一年以上行っていない。

当然あたしも入っていたゴルフのサークルを辞めようとしたけれど、夫が「楽しみに月に一度くらいのゴルフをやらなくては...あんまり可哀相だから」と、続けさせてくれた。
(まあ、その金はあたしのパートの収入から出しているんだけれど。)

そういえば、一週間くらい前にあたしがアイアンを手に取っていたときに、夫が「なんだ、グリップが光っているじゃないか」なんて言っていたっけ...
2年くらい変えていないあたしのアイアンのグリップは、ゴルフ教室の練習で週に一回と、月に一回のラウンドで使っているだけだけど、よく使うウェッジやショートアイアンがカチカチのつるつるにはなっていた。
でも、グリップを買うんだって高いものだし、よく拭いて使えばそう滑る事もないのであまり気にしていなかった。
それが今日、握ってみるとアイアンは全部、明らかに新しいグリップに替わっていた。

ラウンドしながらグリップの話をすると、友達は「そのグリップ、今流行のやつで結構高いわよ。」
何でも、滑りにくいのと衝撃吸収の効果もあるらしい。

そんなグリップに8本全部交換するのには、結構お金がかかったろうに(自分の小遣いも無いような稼ぎなのに)。
...自分のゴルフには行かないで、夜中にあたしのアイアンのグリップを交換してくれている夫の姿を想像して、ちょっと涙が出た。

新しいグリップは、実に手に優しい感触だった。