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その茨城県のゴルフ場のオープンコンペでは、40代の夫婦と30代の若い男の4人で一組となった。

その夫婦は、なかなか魅力的な奥さんが100前後、スポーツをやっていそうな身体の旦那さんが90を切るくらいの腕前だった。
もう一人同伴の若い男は、30になったばかりで独身、ゴルフを初めて3年目ということでゴルフ熱中時代...80台の前半で回りたいと言っていた。

スタートして順調にホールをこなしていくと、それぞれのゴルフが見えて来る。
若い男は、飛ばすが力が入ると左へのミスが多くなる。
夫婦のうち夫の方は、回数はかなりやっているらしく回り慣れている印象だけど、身体の割に飛ばない...スライスのミスが多い。
妻の方は、ゴルフスクールにでも通っているようで、いいスイングなんだけど傾斜や景色でミスが多くなる。
そんな妻のゴルフを夫の方は常に気にしていて、前の組との空き具合や後ろの組が来ているか、同伴の我々二人に迷惑をかけていないか、に注意を払ってともかくプレーを急がせる(特に遅い訳じゃないんだが)。

事件は7番ホールで起こった。
妻の方が左へのミスが重なって、残り100ヤードくらいがまるまる池越えになってしまった。
この奥さんはこうした「池越え」という状況が苦手らしく、打つ前から「どうしよう」「池なんか越えそうにないわ」と不安そうな声を漏らす。
その苦手意識が彼女のスイングを萎縮させて、無理矢理すくいあげようとしてダフりトップのミスの連続となる。
一球目を池にいれ、ポケットからボールを取り出してドロップ、それもダフってまた池に...
夫が後ろを気にして「おい! 遅れてるぞ!」
妻は慌てて、もう一球ポケットから取り出してドロップ。
それも池に入れてしまった。

「すみません!ボールがないんでとってきます」と妻がクラブを置いてカートの方に駆け出す。
「おい! みんなを待たせて何やってんだ! ボールは予備を持ってろっていつも言っているだろ!」
「ボール持ってたんだけど,みんななくなっちゃったの!」
「お前みたいな遅いプレーがみんなに迷惑をかけるんだ!」
「あたしだって一生懸命は速くやろうとしてるわよ!」

...夫婦喧嘩が始まってしまった。
夫は我々や後ろの組を気にして謝りながら、妻を怒る。
妻は涙を流しながら、自分だって速くプレーしようと思っているんだ、と言い返す。
勿論口だけの喧嘩だけれど、本気の夫婦喧嘩は迫力も半端じゃない...


「あの、夫婦って大変なんですねえ...」
「僕も結婚するの考えちゃいます...二人すごく仲のいい夫婦に見えたのに..」
若い男が本気で怯えた声で話しかける。
「ああ、でも大丈夫だよ。 夫婦でゴルフってのもいいもんですよ」
「でも、あの二人あんなに派手な喧嘩しちゃって..なんだか怖いです...」

その後はカートに乗っても冷たい空気が漂ったまま、ハーフ終了。
4人の会話がなくなってしまった。

...昼はバイキング形式だった。
俺とその若者はさっさと、焼きそばやカレーにソーセージやら卵焼きやらを持ってきて、食べ始めた。
遅れてそれぞれに皿を両手に持って夫婦がテーブルにやってきた。
同じテーブルに並んで座り、皿を置く。
少しして、目の前に置いた皿を夫がそっと妻の方に押した。
「...これ、お前の好きなサラダとフルーツ..」
妻が目を合わせないまま、皿の一つを夫の方に押した。
「...これ、あなたのハムとソーセージ...」
「...」



若い男が下を向いたまま、となりの席の俺に呟いた。
「...なんだぁ...」