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Tさんは20年以上続けていた、クラブ競技への参加をやめた。

この倶楽部に入会してから、毎月の月例には必ず参加してきた。
クラブハンデはシングルになり、今は3までになって競技中心の生活を送ってきた。

特にこの10年は倶楽部選手権の優勝を目指して、必死に練習を重ねてきた。
仕事は自営だったので、週2回はなんとかゴルフをやる時間は作り出せた。
その代わりに朝から晩まで、人の2倍は真面目に働いてきた...つもりだ。

Tさんの所属するクラブは、決して名門という訳ではなく、「コースは良いけれど会員数が多いから...」という評判のコース。
その代わりにクラブ競技が盛んで、Tさんのように研修会に入っていると月に2回は公式の競技がある。
月例の優勝や入賞は数えきれないほど経験してきたTさんにとって、そのゴルフ生活の集大成、最終目標が「クラブチャンピオン」になることだった。
いいところまでは何度も行った。
この10年はマッチプレーの準決勝までは必ず行って、いつもクラチャンを争う3人との戦いがずっと続いていた。
Kさんは、ハンデ0アイアンの名手...この10年でクラチャンを5度獲っている。
Wさんは、アプローチ・パットが素晴らしく、この10年で3度タイトルを獲った。
Oさんは、飛ばしやで荒っぽいがつぼにはまるといいスコアを出す...彼は2回獲った。
いつもクラブの4強として優勝候補に挙げられながら、Tさんだけがまだタイトルを獲っていなかった。

今年Tさんは弱点だったパットが、新パターに買い替えてから良くなって来た。
ドライバーの飛距離も、去年より伸びた。
36ホールの予選は、メダリストとして通った。
「間違いなく今年は俺が獲る!」そう信じて、マッチプレーに入った。

18ホール勝負の1回戦は7−6、2回戦は4−3で問題なく勝ち残った。
ただ、ほかの組み合わせで波乱が起きていた...5度優勝を誇るKさんが、2回戦で中位で予選を通った始めて聞く名前の選手に2−1で負けていたのだ。

Tさんの準決勝36ホールマッチプレーの相手はそのH選手...なんと、子供だった。
聞くと高校の1年生で今年このクラブに入会したばかりの新人...それも、朝名前を名乗って挨拶したのに挨拶を返せもしない、マナー知らずの子供!
1番でTさんは、セカンドを1ピンにつけた。
Hはグリーンオーバー...ところがそこから強すぎるとも見えるアプローチをピンに当ててカップイン...Tさんは1ピンを入れられずに1ダウン。
毎ホールがそんな調子だった。
パット、アプローチともHは強すぎる調子で打ってくる...それがよく入る。
Tさんがとれるホールは、Hがパットやアプローチをオーバーして返しを入れられなかった時だけ。
圧倒されていた...強気強気の相手に先手が取れない...9ホール終わって3ダウン。
18ホールでは7ダウンになっていた。
...そして一度も追いつけないまま、9−8という大差で負けた。
この10年では経験したことのないような完敗だった。
試合が終わった後で挨拶をしたTさんは、勝って当然という顔のHという子供に無視された(ように感じた)。

そして、決勝戦もTさんのライバルだったOさんが、10−9という大差で負けたことを後で聞いた。
そしてその子供の親が練習場の経営者で、ラウンドも最低週に2回は行っているということ、その練習場のレッスンプロにずっと習っていること...そしてその子供にとって、このクラブのクラチャン出場なんて、トップアマの全国大会の前のほんの小手調べだったことを知った。

Tさんは、なんだか自分のゴルフやクラチャン、競技なんてものに対する価値観がすべて跡形も無く壊れてしまったような気がした。
Tさんにとって「クラチャン」というのは、クラブを代表するゴルファーとなることであって、態度もプレーぶりもそのクラブを代表するものとしての自覚が常になくてはいけない存在だった。
そして、それは仕事をきちんとやりながら生活して来たアマチュアゴルファーにとって、最高の名誉であり勲章であり、ゴルファー生活の最終目標でもあった。

...でも、今年のクラチャンは、挨拶も満足にできない子供で、クラブの代表になったなんて嬉しくもないという態度の、今年入ったばかりのメンバー。
ほかの3人がクラチャンになったんだったら、共に戦ってきた戦友として仲間として(たとえ口惜しくても)祝ってやる気持ちはあったんだけど、今回はそんな気がすっかり消えてしまった。
自分たちの懸命に目指してきた「クラチャン」という輝かしい称号が、今は子供の足下で泥だらけになって転がっているような気がした。


自分は何をしていたんだろう、という空しい気持ちが強くなって、それからTさんは競技への参加をやめた。
ゴルフは上手いだけでいいのか?...強いだけでいいのか?...Tさんは、今でもそんなことばかりが頭に浮かんできて考えがまとまらない。