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いい天気だ。
ゴルフ日和といっていいだろう。

Kさんは空を見上げて、思う。
今日は一番大事なトミー・アーマーのドライバーを磨いてやろう。

ああ、なんて美しい...流れるような流線型のフォルム...絶妙な木目の流れ...時間が作り上げた渋い色合い...嵌め込まれたペーパーファイバーのインサートの美しさ...

ゴルフを始めた頃、一番気に入ったのがパーシモンのドライバーで糸巻きボールを打った時の、「バシュッ」というような音と、フェースにいったんくっついてから離れて行くようなあの感触だった。
あの頃はよく夢の中でも、「バシュッ」という音と、ドローの軌道で遥か遠くまで飛んでゆく白球の夢を見たものだった。
まあ、現実の世界では右に曲がる球しか打てなかったんだけど。

その当時、トミー・アーマーの693と、ターニーのM85は「幻の名器」とかいわれていて、パーシモンドライバーの最高峰だった。
飛距離の性能もさることながら、その道具としてより芸術品とまでいわれた形状と仕上げの美しさも見事な物だった。
おそらく当時のゴルファー全てが、やがてはあれを使ってみたいと憧れていたと思う。
自分でも使いたいという気持ちはあったけど、Kさんにとって月給より高いクラシックドライバー(状態のいいものはセットで100万円を越えていた)は、とてもじゃないが高嶺の花で現実味は全くなかった。
ラウンドは月に1度か2度、100を切るかどうかの腕だったけど、それなりにゴルフを楽しんでいた。

変わったのは、メタルヘッドのドライバーが普及してから。
あっという間にほとんど全てのゴルファーがメタルヘッドのドライバーを使うようになった。
メタルからカーボン、チタンとヘッドの素材は変わって行って、パーシモンの時代はあっさりと終わってしまった。
Kさんもメタルや、カーボンやチタンのドライバーを打ってみた...が、何の感動も湧かなかった。
ただボールが金属音を残して前よりも遠くに飛ぶようになっただけ。
パーシモンで糸巻きのボールを打った時の、あの胸が痛くなるような感動が全く無い。
周りの仲間は以前は「0Xはフェースのラウンドが...」とか「この二百年もののパーシモンの方が感触が..」とか「ここはヒールで打ってスライスを...」とか言っていたのに、みんな「XXヤード飛んだ!」とか「前より00ヤード飛ぶ!」とかの話ばかりになって、会話がつまらなくなった。
Kさんは、だんだんゴルフをプレーする情熱が無くなって行くのを感じていた。

ただ、Kさんにとって幸運だったのか不運だったのか...パーシモンの需要がなくなると同時に、あのクラシックの名器たちの値段も急速に下がっていった。
ゴルフへ行く情熱を殆ど無くしたKさんだったけど、不思議なことにパーシモンのドライバーへの興味は全然なくなっていなかったという。
ゴルフへ行かない分だけお金に余裕ができるし、名器の値段が下がってくる..,それからKさんは、お金を貯めてはクラシックのパーシモンヘッドのウッドを集めるようになった。

さすがに「トミー・アーマー693」や「ターニーM85」は状態のいい物はまだ高いので、状態があまり良くはない物を手に入れた。
それでも名器は十分に美しく、Kさんにとってはヘッドについている傷でさえそのクラブを使ってきた人のゴルフの歴史が感じられて、全く不満はない。
その他にも、純粋に「工芸品」として「美しい」と感じるクラブを集めるようになって、Kさんの狭い部屋はクラブでいっぱいになっている。
幸いな事に奥さんや家族は、困り顔をしながらもKさんのそんな趣味を大目に見てくれているそうだ。

ラウンドはもう10年以上していないそうだが、時間を見つけてはクラブを磨いたり、壊れたり割れたりしたクラブヘッドで置物を作ったりして、Kさんの幸せなゴルフライフは続いている。



いい天気だなあ...ゴルフ日和だ。
今日はトニー・ペナのドライバーを磨いてやろうかな...