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かなり以前のこと、誘われて参加したコンペでの出来事だった。

スタートホールで3オンしてグリーンに上がった時、カップ周りにちょっと大きな引っ掻き傷を見つけた。
シューズの金属鋲を引きずったようで、ちょっと深くてちょうど自分の1メートルほどのパーパットのライン上だった。
「ひどいなあ...誰がこんな痕をつけたんだ?」なんて、ぶつぶつ言いながらパットをした。
当然、スパイク痕で蹴られて外してボギー。
「歩くのが下手な人がいるんだなあ」とか「グリーンを傷つけないで歩くのは常識なのに」とか一人でぶつぶつ文句を言っていた。
しかし、不思議なことに、同伴競技者は曖昧に笑い返すだけで困ったような顔をしている。

...数ホール進んだところで気がついた。
前の前の組のゴルファーの一人が、少し足を引きずって歩いている。
歩くたびに体が大きく揺れる。
...グリーン上では、気をつけているようだけど傷を付けてしまうのだろう...あちこちパターで直している...同伴競技者もさりげなく彼の歩いたところを直している。
「そうか」...悪いことを言ってしまった...それを知っているから、同じ組の人たちは何も言わなかったんだ。

そしてそれからかなり経ってから、別のコンペでその前を歩いていた彼と再会することになった。
今度は同じ組。
彼の歩いた痕に傷は残っていなかった。
昼食の時にふとそんな話になった。

「あの頃はみんな靴の底が金属の鋲だったでしょ」
「私、生まれたときから足の長さが違うので、あれだとどうしても足を引きずってグリーンに大きな傷を作ってしまうんですよ」
「一生懸命パターで直しても、時間がかかってスロープレーになってしまうんで心苦しくてねえ」
「他の方も手伝ってくれるんだけど、どうしても全部直しきれなかった...」
「それでゴルフのラウンドはかなり遠慮していたんですが」
「このスパイクレスシューズが出てから、楽になりました」
「特に今は芝に優しい靴選んでますから、ゴルフが楽しめます」

もちろん、足が悪いために飛ばないけれど、アプローチやパットの小技が実に巧く、ボギーペースで回って行く。
やはり以前と同じように一歩一歩大きく体を揺らしながら歩くけれど、グリーン上にスパイクマークは殆ど残さない。
色々なゴルファーそれぞれにどんな事情があるかは、狭量な自分の判断基準を超えていた。
彼が1メートルのパーパットを外した俺よりずっと苦しい思いをしていた、という事迄気が回らなかった。

金属鋲のスパイクシューズがほとんどのコースで使えなくなった今、そのプラスマイナスについてはまだ色々な意見が有る。
(俺の大枚をはたいて買ったフットジョイやエトニックの革靴も、鋲を合成樹脂のものに交換しなければ履けなくなったし。)
滑落や転倒事故には鋲の方が安全とか、スイングには鋲の方がいいとかの意見はまだ有る。
でも靴の進化は安価でより軽量な靴を作りだし、彼のような人にも伸び伸びとした気持ちでゴルフを出来る環境を作る事も出来た、という訳だ。


「以前は負い目があったので,大きな声で言えなかったけど。」
「こういうシューズが出来て有り難かった...」

「今は、ゴルフは私の生き甲斐です。」

彼は笑いながら、言った。