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オープンコンペに一人で参加していると、本当にいろいろな人に会える。
中には「え? そんな仕事をしているんですか?」なんて人も少なからずいて、これがオープンコンペ参加の大きな理由の一つになっているほど面白い。

ちょっと前のT県のPカントリークラブのオープンコンペ。
一緒になった人の中に、年は40前くらいで一目見ただけで体つきが普通の男とは違う「典型的アスリート体型」の男がいた。
半袖から出る腕はそこそこ太く、ボディービルダーとは違う「実戦で鍛え上げられた筋肉」というイメージの逞しい腕をしている。
特に半袖シャツの上からも広背筋が非常に発達しているのが判る...腹回りに至っては、俺の半分くらいしかない。
それなのに足の筋肉はズボンを破りそうなくらい発達している。

ゴルフには非常に誠実に取り組んでいるようで、一球一球のプレーに真剣さが溢れ出る。
...がしかし、ゴルフの腕はアベレージの上クラス、といったところ。
鍛えられた筋肉を生かしきれていない、というか...ゴルフの動きになっていない。
なまじ筋力があるせいか、テークバックでほとんど肩を回さず、腕だけで左手を90度曲げて担ぐだけ。
それでも、瞬発力があるために普通の人より飛ぶんだけれど、とんでもなく曲がる球も出る。

...曲がったボールのところに行くスピードは速く、動きは俊敏で軽い。

その常人ならざる動きと身体に、他の同伴競技者と「あの人は何のスポーツやってるんでしょうねえ?」
「ボクシングかレスリングみたいな格闘技じゃないですか」「いや、身が軽いからサッカーとかバドミントンとか..」「ボディビルってことはないから、ダンスとか俳優とか...」
なんて、職業予想が始まってしまった。

昼食の時に、ゆっくり自己紹介し合ったところ、なんと彼の職業は「消防官」。
それも、とあるレスキュー隊の隊長さんであることが判った。
(後日、ある事故のニュースの映像で、活躍する彼の姿を見ることが出来た)

...そりゃあ、体が違う訳だ...彼は人命救助のためにトレーニングを続け、自分の体を毎日いじめ抜いて鍛え上げているのだから。
壁を登り、地を這い、人を担いで足場の悪いところを走り抜いたり、自分の命を賭けて火炎の中に飛び込んだり...彼から出ている強烈なエネルギーみたいなものの正体を、それでやっと理解することが出来た。

そうした彼にとって、不規則にしか取れない休日にするゴルフは、本当にリラックスして熱中できる趣味なんだと言う。
でも不規則な休みのために普通に4人で予約してのラウンド予定は出来ず、空いていれば前日に申し込んで独りでも参加できる、こうしたオープンコンペに出るのが唯一の楽しみなんだと言う。
あまり練習する時間もないので自己流なんだけど、「ゴルフは大好きです!」と。

結局彼は90くらい叩いたけれど、実に楽しげにプレーを続け、そのきびきびとした態度は終日変わらなかった。

「僕は今の仕事が好きで生き甲斐なんですけれど、上からそろそろ現場を離れて役職に就いてくれ、ってうるさく言われているんです」
「年齢が高くなっても、現場の仕事を続けたいんですが...」
ぽつりぽつりと、彼が言っていた。

後日、彼にメールでスイングのことを聞かれた時に、「左腕を曲げるだけのバックスイングだから、左腕をのばして肩をもう少し回す意識を持つだけで40ヤードは飛ぶようになりますよ。」と伝えた。

「今はまだ飛ぶ方向が安定しませんが、飛距離は凄く出るようになりました。」
少し経ってそういう返事が来た。

あれからしばらくの時間が過ぎて思っている...彼は相変わらず体を鍛え続けて、現場を走り回っているんだろうか?
それともデスクワークをしながら、窓から空を見上げているんだろうか?
...そして、オープンコンペにはまだ参加しているんだろうか?

爽やかな好漢は、ゴルフの腕を上げただろうか?