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「もうシニアパブに出られる年齢なのか...」
Kさんは最近、そんな風に考える事が多くなった。

大都市近郊の土地持ちの家に生まれたおかげで、ずっと今まで生活の心配なんてした事もなかった。
いくつかのアパートを持ち、親の代からその家賃収入と地代の収入で、生活は十分やって行けた。

そして大学を出てから、貸した土地に建てられたゴルフ練習場に出入りするようになって、ゴルフにハマった。
面白かった。
裕福な家に生まれて苦労も知らなかったから、どうも運動部のがつがつした感じが苦手で、あまり運動はしていなかった。
でもゴルフを始めてみると、やればやるだけ上達するのが面白くて、毎日練習場で練習するようになった。
仕事は親を継いで大家としての仕事をやっていればよく、時間も金も十分あった。
親から名門のコースを受け継ぎ、新設のいいコースにも2つばかり入会して競技ゴルフに目覚めた。
...シングル入りしてからはますますゴルフに熱中して、「そろそろ結婚したらどうだ」なんて言う親の声も全く耳に入らなかった。
やがてハンデも5下になり、クラブ競技の入賞の常連になり、クラブ対抗の代表選手にも毎年選ばれるようになった。
面白かった。
毎日毎日ゴルフが中心の生活で、楽しくてしょうがない生活が続いた。
腕は確実に上がり、いくつかの名誉も得る事が出来た。
生活のこまごまとした事は母親に任せきりだった...何時しか親も結婚の事は言わなくなった。
...その母親が2年前に亡くなった。
そうか...もう、シニアパブに出られる年齢なのか..。

同じ年代の男達は、孫の話をする事が多くなった。
自分がゴルフしかしてなかった時に、彼らは結婚し、子供を育て、その子供が結婚し、孫が生まれ...
自分は、その間に恵まれた環境に浸かってゴルフをしているだけだった。
...自分はひょっとして取り返しのつかない、無駄な人生を歩んでしまったんじゃないか?
ただ、人生を浪費してしまっただけなんじゃないか?


...いや、今は夜だからそんな事を考えるんだ。

明日の朝になったら、またきっと次にプレーするコースの攻略法と、もっと飛ばすために仕入れたニュードライバーの事で頭がいっぱいになって、自分の選んだ生き方を後悔する暇なんて絶対にないはずだ。
また次のゴルフだって、絶対に孫の事話すより面白くなるに決まっている。

過ぎた日はもう帰らないんだし。