ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

2016年12月

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出会ったのはT県のUカントリークラブのオープンコンペ。
一人ずつ参加の男二人、レディス二人のパーティーだった。

もう一人の男性は、ほぼ同じ年代の元サラリーマンゴルファー。
上手くはないものの、ゴルフが好きだと言う事は十分感じさせてくれるプレーを続ける。

女性二人は50歳前後の(多分ゴルフで)日に焼けた元気一杯の女性と、明らかに年上と判る静かな女性。
若い方の女性は、こういうコンペに出慣れているようで、打つ度に独り言で解説反省して明るく笑いながらプレーをしている。
70前後と思われる、微笑みを絶やさない上品そうな女性は、時折コースを振り返りながら淡々とラウンドしていた。

残念ながらこの日は、一緒だった全員が6インチプレース使い...というか、打つ前に必ずボールに触る人達だった。
受付の時に渡されたオープンコンペのルールでは、6インチ・OKありと書いてあるのでそれでも良いのだけど、ボールに触らない人達と一緒になった時には「ノータッチ・カップイン・前進ティー使用無し」でやる事が基本。
自分は一緒に回る人達のその姿勢を見て、楽しくやれるように自分のその日のゴルフの姿勢を変えるようにしている。
この日は、そういうゴルフに合わせる日...もちろん自分は絶対に6インチはしないが、OKパットはありだし、前進ティーを使えと書いてあるなら暫定球は打たない。

でも、この男性は6インチと言いながら16インチは動かすし、若い方の女性も良いライ迄ボールを(距離に関係なく)持って行く。
ただこの高齢の女性だけは、ライがどんなに良くても毎回打つ前にちょこんと座り、ボールを拾い上げて、同じ様な芝の上に乗せてから素振りをせずにポーンと打つ。
その一連の動きが全部プリショットルーティーンになっているようで、プレーは3人の中で一番速い。
飛ばないが曲がらない、いかにも慣れた感じのラウンドという印象を受ける。

詰まっているラウンド中の待ち時間や、カートの移動での間に、女性同士の会話が耳に入ってくる。
そして、昼のレストランでの会話やパーティーでの会話で出てきた話は、彼女の夫が3年前に亡くなったこと。
その夫が亡くなるまでの20年くらいは、毎週一回は夫と二人でラウンドし、海外も含めて色々なコースに行ってゴルフを楽しんだということ。

「夫が亡くなって一年間は、全くゴルフをする気にならなかった。」
「昨年から、またゴルフがしたくなってきた。」
「でも、夫と二人で回るゴルフをずっとしてきたので、ゴルフをやりたくてもなかなか一人ではすることが出来なかった。」
「でも、パーゴルフで漫画の「オープンコンペ挑戦記」を見て、夫と行ったことのあるコースなら、一人で申し込んでも迷惑を掛けずに回れて、楽しめるんじゃないかと思った。」
「でも、こうして来てみると(ああ、あの時、夫はここでOBを打った)とか、(あの時の夫と同じ所でミスをした)とか、一緒に回ったときのことを思い出してばかりいる。」

ぽつぽつと静かに語る言葉をつなげると、こんな風なこと。
そして、
「あたくし、皆さんが100名山を目標に山に登られるのと同じように、死ぬまでに夫と一緒に回ったコースを、全部もう一度回り切ることを目標にたてましたの。」
「幸い、夫が私が生活に困らないだけの物を残してくれましたので...」

多分羨ましいほどの、収入と財産のあった夫だったんだろう。
残された婦人が、生活の心配もなくゴルフが出来る環境でいられるんだから...

毎ホール毎ショット、必ずボールに触って置き直して打つことは、彼女にとってはそれがずっと一緒にやってきた彼女と夫の「ゴルフ」。
彼女は夫と一緒に「ゴルフ」を楽しみ、一人になった後、再びかって夫と回ったコースで、同じ「ゴルフ」を噛み締めて楽しんでいる。
本当に数少ない、恵まれている環境だとはいえ、そんなゴルフがあってもいいだろう。

まだまだ身体が動く限りは、彼女の旅を続けると言う。


...今日もきっと、彼女は夫と一緒に回ったどこかのコースで、淡々と夫と一緒のセンチメンタルジャーニーを続けているんだろう。

 


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オープンコンペに一人で参加、ということになると、一番回りやすいのが一人で参加した人達同士で一組になること。
一番回りにくいのは、仲間3人で組んでいる組に入れられてしまうこと。
こうなると殆どの場合、3人が仲間内の話で盛り上がっている場には入っていけない。
当然ラウンド中は3人と一人の2組で回っているような状態になり、大体は存在していないかのように無視されて一日が終わる。
中には気を遣ってくれる人がいたりするけど、会話は当たり障りのないことだけで、結局は一人黙々とラウンドすることになる。
まあ、そんな場合は逆に「スコアで負けるものか!」とか思って、ゴルフに集中できるので結構スコアが良かったりする。

...茨城県のSカントリークラブのオープンコンペで一緒になった3人組は、ちょっと雰囲気が違っていた。
スタート前に挨拶したときに、60年配の男3人組と一緒と判って、「ああ、今日は外れか..」なんて内心思っていたんだけれど、一人が側に来て「今日はご迷惑賭けると思いますが、よろしく」と挨拶してきた。
不思議なのは、少し後でもう一人が「すみませんねえ。今日は一つよろしく」といずれも、近くでこっそり、という感じで挨拶してきたこと。
二人は恰幅も良く、ドライバーの素振りをしたり屈伸をしたりしているが、残る一人は5ー6才ほど年上と思われる、痩せこけた身体で空を見上げているだけだった。
そして「俺はもう、ドライバー100ヤードしか飛ばねんだよなあ」なんてぼやいている。

ラウンドが始まると、相変わらずドライバーがとっちらかる俺は、一人隣のホールに行ったり山の上に行ったり...ドライバーが飛ばないと言った痩せた男は、本当にスローモーションの様なスイングで100ヤードがやっとという飛距離、でも曲がらずにフェアウェイセンターに打っていく。
その時不思議に思ったのは、カートのセルフプレーなのだが、挨拶してくれた二人の男がまるで痩せた男のキャディーのように、クラブを持って行ったり、カートを回したりして動き回っていること。
痩せた男がゆっくりとボールのあるところまで行くと、一人の男が自分のと痩せた男のとの二人分のクラブを10本以上持って走ってくる。
男がポーンとアイアンで数十ヤードを打つと、もう一人りがすぐ側までカートを持ってきて、すぐに自分のボールの所までクラブを担いで走って行く。

昼のレストランで陽気に相手のゴルフの悪口を言い合う3人は、同い年でもう30年以上の付き合いなんだという。
そしてゴルフに熱中したときに、3人は永久スクラッチで握ると約束したんだそうだ。
痩せた男が「いやあ、病気をしてから飛ばなくなってねえ...こいつらは鬼のように俺からチョコレートを獲るんだよ」なんて言うと、他の二人が「なに言ってるんだって! 今まで俺たちからどのくらい勝ってると思ってるんだよ」「家一軒じゃ、きかねえべ!」「うそつけ!俺の方が負けてるんでねえかよ」なんとも気心が知れた仲間同士という会話が弾む。
痩せた男は以前は飛ばし屋で、ハンデは3人の中で一番良くなったという。
でも、「ハンデをやる」という男に対して、他の二人は「永久スクラッチ」で約束したから「絶対にハンデはいらねえ!」という付き合いを通してきたんだそうだ。
ただ黙って聞いている俺は、彼らの話に「次の時には...」「次のゴルフは...」「次の...」と「次の」という言葉が多いなあ、なんて感じていた。

午後のラウンドも、やはり3人は漫才のようにやりとりをしながら、そして二人は痩せた男に気を遣いながら回っているように見えた。
あと2−3ホールというところになると、痩せた男は明らかに疲れ切ったように見えて、それまで飛ばないながらもきちんと当てていたショットが、トップしたりダフッたりするようになってきた。
最終ホールのグリーンに上がるときには、パターを杖のように使ってやっとの事で歩いている、と言う様子だった。
「なんだ、これ入れても俺の負けか!」「今まで勝ってたのを、少しは返してもらわなくちゃなあ」「そうだ、悔しかったら次に取り返せや」なんて笑いながら楽しそうにホールアウトする。
「まあ、永久スクラッチなんだから、今日負けたのが悔しけりゃあ、次はいつでも相手になるさ」
「おう、俺も今日は勝たせてもらったから、次はいつでも受けて立つさ」
「そうだな、次は負けねえからな...」

立ち入ったことや詳しい話は、なにも聞いていない。
残念ながら誰も入賞できなかったパーティーが終わった後、帰り際に最初に挨拶してくれた男が「今日は、本当にご迷惑かけました」と言って握手を求めてきた。


驚く程強く手を握ってきた彼の目は、真っ赤に充血していた。

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以前は、カートに乗せるときによくキャディーさんに文句を言われた。
朝の挨拶よりも、謝る方が先だった。
だから、最近のラウンドが2〜3人のセルフカート主流になった事には、本当にホッとしている。
その方が安いし、最近はあまり4人揃ってのラウンドということが少ない事も、少しは気が楽だ。

Aさんのキャディーバッグは...重くはないのだが、大きいのだ。
プロなんかの使うチャンピオンバッグっていうのか...ああいうものじゃないけど、全体が丸い形で、かさばる。
特にカートに積むときには、今主流の「カートバッグ」のように前の方にポケットが集まっていて、左右の幅が狭いやつと違って、Aさんのは左右にポケットがついているので幅を取る。
だから特別大きい訳ではないのに、なかなかカートに収まらない。
特に4人パーティーだったらはみ出してしまって、大変。

最近は見かねた夫が、「カートに乗せやすい少し小さいのを買ってやるよ」と言ってくれたりするんだけど「ううん、あたしはこれがいいの」と言って、相変わらずそのバッグを使っている。
ラウンドするのは月に一回か二回だが、さすがにもう10年近く使っているのであちこち傷んできた。
それなのに、なぜそのバッグにこだわるのか、みんなが不思議がっている。

Aさんがゴルフを始めたのは子供の手が離れてから...近所の友人に練習場の教室に「一緒に行かない?」と誘われてやってみたい気持ちになった。
夫に相談したら、仕事で先に始めていた夫は賛成してくれた...「将来二人で一緒に行けたらいいね。」
でもそんなに給料の多くない生活だったので、道具は靴や手袋やボールといった小物以外は、全部中古ショップで揃えた。
キャディーバッグは、先にゴルフを始めていた知り合いのお古だった。
見栄えは確かに華やかなものじゃなかったけれど、ゴルフが出来るのは楽しかった。
何年経っても道具に関しては別に不満は無かった。


そして、10年程前のクリスマスイブに、夫がゴルフショップ(中古クラブ屋ではない)に連れて行ってくれた。
「今迄使っていたものがあまりにも古いから、キャディバッグをプレゼントするよ」
「どれでも好きなものを選んで」
そう言われて、一時間以上迷ったあげくに「色が好きだから」という理由で、ちょっと変わったこのキャディーバッグを選んだ。
初めて新品で、自分の好きなものを選んだ(ゴルフの)買い物で、自分の小遣いも少ない夫がくれた、クリスマスのプレゼントがこのキャディーバッグ。
嬉しかった...
その頃は「カートに乗せる」なんてことは考えてもいなかったから、ポケットは横や後ろについてるし、丸くて場所をとるんだけれど...独特の色合いが今でも気に入っている。


なぜこの不便なキャディーバッグにこだわっているのかは、誰も知らなくてもいいこと。
でも、Aさんはこのキャディーバッグが壊れてダメになるまで、絶対に換えるつもりは.無い。

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2年前の秋の初めに、I県のLカントリークラブのオープンコンペであった30半ばの男。

カートの前で初めて会ったときには、その顔の色にびっくりした。
真っ黒に日焼けしていたのではなくて、真っ白に厚化粧したような顔をしていたから...
それも顔だけではなく、腕も手も、首筋も真っ白!

よく見るとそれは化粧ではなく、日焼け止めのクリームの色...何度も塗り重ねたみたいで白い色が浮いていて、まるでふざけてあの志村けんの「馬鹿殿様」の白塗りメイクをしたように見えた。

でも、プレー振りは若くて身体が大きいせいもあって、良く振り切り、距離も出る。
自己流ではあるけれど相当練習している事が判るスイングで、「今ゴルフに熱中しています」という気持ちが、全身から滲み出ていて微笑ましい。
クラブは、ドライバーだけは新しいが、ウッド類は古い型のモデルを使っている。
特に5Wは、あのマルマンのダンガン...もう何十年前のモデルだ?
アイアンもミズノのMS11という古い型のもの。
パターも古びたピンアンサー。

数ホール回るうちに、ちょっとその顔の色について聞いてみた。
「ちょっと、日焼け止め厚く塗りすぎじゃない?」
「あ、あの陽に焼けたらまずいんで...」
「???」
「実は今日ゴルフやってるの、家内に内緒なんで...」

本当は今日は有給休暇でコースに来ているんだけれど、奥さんには内緒なので日に焼けるとまずいんだそうだ。
そのハーフ、39で回った彼は、昼は「僕、昼食べないんで」といってレストランに来なかった。
午後のスタートの後、ちょっと彼と親しくなったのでホールの合間に聞くと、昼はコンビニのおにぎりを車で食べた、という。

「実は僕、ゴルフに熱中していて、競技でも上を目指していているんですが、給料が少ないんで月4万円しか使えないんです。」
奥さんに渡す給料が多くないので、ゴルフに堂々とは行けないんだって。
そしてその自分の小遣いの4万円で、「月4回のゴルフをなんとしてもやりたいんです。」
競技の時は普通より費用が高くなるので、普段から少しずつへそくりを貯めて準備しているけど、普通の練習のラウンドはプレー費の安い平日の薄暮か早朝プレーにして、極力倹約しているんだそうだ。
昼食を車で済ましたのも、「レストランの昼飯を4回我慢すれば、安いコースで1ラウンド出来ますから」だそうだ(このコンペは昼食代は別だった)。
このコンペは過去に何回か入賞していて割引券があることと、もし賞品を貰えれば、それを中古クラブ屋に売れるから(賞品はゴルフ用品だった)だという。
この時は、彼はグロスで3位だったけど、ハンデに恵まれずに賞品はとれなかった。
しかしこの日のラウンドは、彼が1年分割払いで久しぶりに買ったドライバーの試打も兼ねていたから、「来た甲斐はありました」(でもそのドライバー、広いホールで3回使っただけなんだけど)。
「いやぁ、久しぶりに買ったドライバーなんで、なんか持ってるだけで嬉しくて...」


風呂に入って念入りに日焼け止めを落として(石鹸の匂いでバレるからシャワーだけだって)、洗濯物は厳重にビニールに包み込み(奥さんの居ないときにこっそり洗濯しておくんだって)、クラブは車の座席の後ろにしまい込み、普通のズボンに通勤ワイシャツ姿と革靴でパーティーに出席。

パーティーが終わった後は背広を着てネクタイを締め、まるで普通のサラリーマンの格好になって車で帰っていった。
「凄いなあ」とは思ったけど...そんな苦労するより、正直に奥さんに自分の気持ちを話して、理解して協力してもらった方が良いんじゃないの?




いや、彼にとっては、その方がゴルフより難しいのかも...なあ。


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数年前のコンペで一緒になった、アベレージゴルファーのYさん。
主にボギーペースで、何度かダボやトリプル、パーはハーフに1〜2回と言う所。
典型的なサラリーマンゴルファーのように見えた。

そんな彼がラウンドの最中に、ホールによってボールをわざわざ替えて使っている事に気がついた。
それが気になったのは、普通は綺麗なニューボールを使っているのに、何ホールかでちょっと「薄汚れた」という感じのボールに替えるのだ。

別に難しい池越えだとか、OBが近くてボールを無くす恐れがあるようなホールではないのに。
そのホールが終わると、彼はまた新しいボールに替えてプレーを続ける。
「??」不思議に思った俺は、ラウンド後のパーティーの時に彼に聞いてみた。
「何故、特別に変なホールでもないのに、時々古いボールに替えるんですか?」
「あれ、気がついていましたか...お恥ずかしい。」
「いや、あのボールは私のラッキーボールなんですよ。」
「私はあのボールを使うと、パーかボギーはとれる、って信じてるんです。」

はじめは結構前のこと、何時も池に入れてしまう難しい池越えのショートホールで、彼は無くしても惜しくないつもりで、少し使った汚れたボールでティーショットを打った。
すると、そのホールで初めて彼はパーオン、おまけにワンピンについて、年に何度かというバーディーまでとってしまった...パーも取った事無かったのに。
その時は別に気にせずに、次のホールからまたニューボールに戻してラウンドをして行き、ある左右OBの狭いホールで、またそのボールを無くして構わないつもりで使った。
結果はやはりパーオンして、2パットのパー...もちろんこのホールでも、パーなんて初めて。

その後の数ラウンドも、気にせずに使っていたのだけど、新しく下ろす綺麗なボールはどんどん無くなるのに、そのボールは何時までも無くならない。
汚れて汚いまま、キャディバッグに存在し続ける。

そしてある時、彼はやっと気がついたんだそうだ。
「これは、俺のラッキーボールなのかも知れない!」
試しにその次のラウンドで、苦手なホールで使ってみたら、パーとボギー...今まではどちらもダブルパーぐらい平気で打っていたのに。

...だけどおかしなもので、「ラッキーボール」と信じたら、今度は無くすのが怖くなって難しいホールで使えなくなってしまったんだそうだ。
「もちろん使えば、良いスコアであがれると思うんだけど、もし無くしたら自分の全てのラッキーが無くなってしまう気がして..」

だから今は、無くす恐れが無いホールでしか使わない。
それでも、「今までだったら、崩れるときはどこまでも崩れてしまったんだけど、今はこのボールを使うと崩れるのを止めることが出来るんですよ。」
...オープンコンペでも、何時もそこそこの成績で賞品を貰えることが多いんだそうだ。

このラッキーボール、いつもキャディバッグの特別な場所にしまってある...問題は、いくら丁寧に拭いても「灰色の汚れたボール」以上に綺麗にならないこと、なんだって。


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T県のPカントリークラブでの、夫婦二人でのラウンドを終えての帰りだった。
東北自動車道を東京方面に向けて、100キロを超えるスピードで走っていた。

ふいに左に急ハンドルを切ったクルマは、路側帯に入り、急ブレーキを掛けて急停車した。
驚いた助手席の妻が運転席の夫を見ると、夫はハンドルに突っ伏したまま動かない。
急いで救急車を呼び、インター近くの病院に運ばれたが、その時には夫は既に死亡していたと言う。
病名を詳しく聞くことは出来なかったが、噂では「くも膜下出血」だったらしい...50才だった。
(「くも膜下出血になってそんな事が出来るのか?」と、くも膜下出血から生還して今も現役で仕事をしている友人に聞いた所、「街を歩いていた時に、急にバットで頭を殴られた様な激痛があり、これは普通じゃないと近くの店に飛び込んで「救急車を..」と言ってる途中で意識が無くなったそうだ。
そこから運ばれた病院が脳外科の一流病院だったので命が助かった、とか...意識が無くなる迄激痛があっても少しは意識があると言うので、強烈な意思があれば車を止める事は可能らしい。)


夫は30歳頃からゴルフを始め、仕事関係の付き合いや、ホームコースの月例などでゴルフを楽しんでいたと聞く。
妻は、子供の手が離れてから、夫の勧めで近所のゴルフ練習場のゴルフ教室に入り、そこで知り合った人に主婦のゴルフサークルを紹介してもらい、週一回の練習と二ヶ月に一度のサークルのコンペに参加して楽しんでいた。
そして、普通に周りに迷惑を掛けずに、ゴルフを楽しんで回れるくらいになった最近は、夫婦だけのツーサムで回ることが多くなったという。
平均して月に一度か二度天気の良い日を選んで、少し遠くても安いコースを二人で回る事が、夫婦の唯一と言って良い「贅沢な遊び」だったとか。
二人がどんな会話をしながら回っていたのか知らない。
あるいは喧嘩をしながら回っていたのかもしれない。
でも、本音の所で楽しくなければ、ゴルフなんて同じ相手と何度も回れるものじゃないだろう(仕事の付き合いは別だけど)。

我々もいつかは死ななければならない人生で、いつかラストラウンドを回るときが来るだろう。
その時、大事なのは「どのコースを回るか」だろうか、「誰と回るか」だろうか?
俺は、ラストラウンドをどんな気持ちで回るだろうか...いや、「これがラストラウンドだ」、ってわかるんだろうか?
そう考えるとこれから回る、「限りある」ラウンドを一ラウンドたりとも、無駄なラウンドにしたくはないと思う。
...よく言われる「一球ずつが一期一会」なのだ、と肝に銘じて。


彼はラストラウンド18ホールが終わった後、言うならば「19番ホール」で、人生最後の「ナイスプレー」をした。
聞けば、夫は飛ばす事が大好きで、パットやアプローチはお世辞にも上手いとは言い難く、特にアプローチで寄った試しは殆ど無かったとか。
スコア的には基本に忠実な妻の方が良い事も度々あったらしい。
そんな夫が、命の危険を感じる激痛と、薄れ行く意識の中で、見事に100キロオーバーで高速道を走るクルマを、路側帯に無事に止めて、妻の命を守った。
止めたときに、彼は自分で自分に「よし! ナイスアプローチだ!」と言ったに違いない。
「オレだって、やれば出来るんだぞ..」と。

パートナーが退場した後、妻もその日のプレーをラストゲームとして、静かにクラブを置いた。

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その人は紳士だった。
腰は低く、いつも微笑んでいてマナーも良く、ルールは決して破らず、アンフェアなことはしない人だった。

数年前のオープンコンペで会ったMさんは、年は60年配、誰もが好感を持てるようなゴルファーだった。
腕はアベレージくらいかなあ...ボギーペースでラウンドするくらいの腕かな、と感じた。
まあ、ボギーペースで回るって事は、一ホールで1−2回はミスをするって事なんだけど。

はじめに気が付いたのは、2番ホールのグリーンで。
1メートルほどのパーパットを外したときに、その人はボールを拾い上げた後、表情はにこやかなまま、無言で自分の靴のソールの横のところを「バンッ」と叩いた。
次のホールでも短いパットを外してダボにしたとき、やはり表情は変えずにさっきより強めに、自分の右足の靴をパターで叩いた。
気がついてしまったものだから、なんだか気になって、つい彼の打った後の仕草に目がいってしまう。
どうもミスショットをすると、自分に腹が立って靴の底の皮の部分をクラブで叩くのがクセらしい。
パットのミスならパター、アイアンのミスならアイアンで。

それで、つい興味が湧いて、ドラーバーでミスをしたらどうするのかこっそりと見ていた。
するとドライバーでミスをしたら、誰も見ていないのを確認して、クラブを逆さにしてグリップのところで、帽子を被った自分の頭をびしっと叩いていた。
自分でもやってみたけど、靴の横のソールのところとか、帽子を被った頭をグリップで叩くなんてのはそんなに痛くはなかった。

その日のラウンド...Mさんはかなり調子が悪かったらしい...ダボが続いて、相変わらず表情はにこやかだったけど、靴を叩く音は段々大きくなっていった...

最初の事件は、午後の14番ホールで起きた。
短いパットを「お先に」といって打ったが、それが外れた。
残ったボールをタップインしてカップから拾い上げた後、他の人のパットの邪魔にならないようにグリーンから出て、ポールを持ちにいくときに...こっそりと、しかしかなり強めに自分の靴を叩くのを見た...が、いつもの低い「バシッ」という音が聞こえなかった。
俺も自分のパットの順番の前だったので「?」と思ってそっと振り返った...そこに、全く動かずに固まってしまったMさんを見つけた...横顔だったけど、口を開いたまま目をつぶっている。

...次のホールに向かうとき、Mさんは一番後ろを微かに片足を引きずりながら歩いていた。

次のホールのティーショットの時には、Mさんはいつものにこやかな表情をしていたけど。

そして17番。
見た目ははじめと全く変わらない雰囲気のMさんだったけど、かなり頭には来ていたんだろうと思う。
ティーショットは大きくスライスして右の林。
2打目を打とうとして、クラブが木に引っかかって空振り。
3打目が出すだけ、4打目が大ダフリ...
そこで他の人が第2打目を打っているとき、Mさんが自分の頭をクラブでひっぱたくのを見てしまった。
「あっ、でも、それは!」
俺は自分のボールを打つのも忘れて、声を出してしまった。

5打目でグリーンに乗せて、パターを取りに来たMさんの帽子の下から、血が一筋流れていた。
「あの、血がでてますけど...」
「ああ、これ...さっき林の中で木の枝に引っかかってしまって..」
と穏やかに話すMさん。

でも、俺、見てしまった。
よっぽど腹が立ったのか、いつものようにクラブを持ち替えてグリップで頭を叩くんじゃなくて、そのままヘッドの方で頭を叩いたのを。

...痛いゴルフだった...見ていた俺も痛かった。

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どんなゴルフのレッスン書にも、プリショットルーティーンの重要性は書いてある。
レッスンプロも皆この事の重要性は教えてくれる。
プリショット・ルーティーンがきちんと出来るようになれば「どんなにプレッシャーがかかったときでも、いつもと同じようなスイングをすることが出来る」なんて事は、今やゴルフスイングの常識だろう。

で、オープンコンペで出会った、Fさん。
栃木のコースのメンバーで、オフィシャルハンデは8だそうだ。
いい人だ...50年配で腰が低いし、よく気が付くし、キャディーに威張るようなこともない。
髪の毛は短く、身体はガッチリしていて、体力勝負ガテン系の印象で、よく飛ばす。
かなり変則的なスイングで、バックスイングを始めてから、腰の辺りにグリップが来ると行ったん止まってしまい、そこから一拍置いていきなり担ぎ上げてスイングする。
ドライバーからアイアン迄全て同じ。
不思議なのは、素振りでは二段スイングになっていない事...普通に上げて下ろしている。

かなりゴルフは熱心にやっているようで、スイングも、その前のプリショットルーティーンも、ドライバーからパターまで一定している。
かなり再現性の高いスイングだ。

が、キャディーが「いや〜だ〜」、われわれも「おい、おい」って...

彼のプリショット・ルーティーンは、ボールから一歩下がって素振りをする。
それからおもむろにクラブから手を離して...「ペッペッペッ!」。
勿論左手は手袋をしたまま...それからグリップして、スタンスとって、目標を確認して...
ドライバーからパターまで全く同じだ。

キャディーさん、途中からグリップを触らないようにして、手渡す。
なんか、我々も握手はしたくないよなあ、って顔見合わせて。

昼の休憩時に話をすると、訛りはきついもののとても「いい人」だってのはよくわかる。
で、「ちょっとあのクセは、やめた方がいいんじゃ?」
「え? 俺、そんなことやってっかい?」
全く自分のやってる事に気がついてない!

午後のスタートホール、それを意識してのFさんのティーショット。
素振りを一回..いつもの様にクラブを離しそうになって、「ハッ」としたように、止まる。
ちょっとそのままで、もう一回素振り...
そのまま止まる。
首をひねって、もう一回素振り...何度やっても、その先に行けない。
なんだかかわいそうになって「Fさん、いつもどおり行きましょっ!」って声をかけてしまった。

気を取り直して、いつもどおり「ペッペッペッ!」とやって、Fさんやっと先に進めた。
「俺さあ、あんな事やってたんだぁ..全然意識してなかったけどお」
「気にしてやめようと思ったら、身体がどう動いていいんだか判らねえようになっちまうんだ」

それが彼の長年やって来たプリショット・ルーティーン...直すことでスイングのリズムが壊れてしまうんだとしたら、あの二段スイングを変えることよりやっかいかも...

あれからしばらく経ったけど、今でもどこかでFさん、「ペッペッペッ」ってやっているんだろうか?

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気は優しくて力持ち...Sさんは、豪快な男だった。
いつも朝から日本酒を飲んで、鼻の頭を赤くしてスタートホールにやってきた。

その頃よく行っていたホームコースの月例で、初めて一緒にラウンドした頃のSさんは50代だった。
Sさんは背はそれほど高くなかったが、もの凄く太い腕をぶん回して、ボールが潰れる程引っ叩くので有名なゴルファーだった。

その一緒のラウンドで彼も俺が気に入ったらしく、その後は月例では必ず一緒に回るようになった。
何よりも飛ばしが自慢で、二人で毎ホールドラコンをやったりして楽しく回った...当然10歳以上若かった俺の方が飛んだのだけれど。
「オレだって若い頃は、このホール突き抜けてあの林に打ち込んだんだぞ!」
「こんなロング、昔は5番アイアンでツーオンしたさ!」
なんて猛烈な負けず嫌いで、少しでもボールが先に行ってたりしたら、「どーだ!」「今だってちょっと当たりゃあ、こんなもんさ!」と、子供のように喜んでいた。

...太い腕だった、本当に太い腕をしていた。
二の腕は、細い女性のウェストくらいはあったろうか...その風体を最初に見た時、俺は「まるで牛の様な男だ」と感じた。
...飛ばしっこではなく、腕相撲だったら多分全然かなわなかったろう。
だからよく「Sさんの腕は、腕じゃなくて前足だからなあ」「だめだよ、前足で打っちゃあ!」なんて言って、彼をからかった。


仕事はそれほど大きくはない建設会社の経営者とかで、「今だって若いモンの二人分くらいの鉄骨担いでるよ!」なんて事を自慢していた。
その頃は景気が良かったので、彼はコースのプロや研修生の相談事に乗ったりして、クラブの中の「顔」のような存在だった。
プロが試合に行くと言えば、交通費や宿泊代としてかなりの金を出してやったり、研修生が腹を減らしているなんて聞くと腹一杯旨いものを食べさせてやったり、コースの従業員にも慕われていた。
景気が傾いてきても、「俺は信用第一にやっているから、景気が悪くなったって絶対大丈夫さ!」なんて、陽気なゴルフは変わらなかった。

その後暫くして、俺は怪我や仕事の都合と気持ちの問題で、月例などの競技ゴルフを殆どやらなくなった。
月例に参加しなくなる事で、Sさんと会う事も無くなってしまった。

何年くらいSさんとは会っていなかったか...数年前に思うところあって、そのホームコースの月例に久しぶりに参加した所、Sさんを知っているメンバーと一緒になってその後の消息を知った。
やはり、建設業の景気は最悪で、ずいぶん頑張っていたSさんの会社も数年前に倒産したという。

だから、Sさんも最近は全く姿を見せていないという。
本当はその月例参加も、久しぶりにSさんに会って話をする事も目的の一つだった。
(その月例の久しぶりの練習グリーンでは、Sさんはもちろん知った顔が殆どいなかった事が寂しかった。)

...陽気な酔っぱらいゴルファー、攻めっ放しの飛ばし自慢、前足のような太い腕。
あの太い腕は、今でもどこかのコースでクラブを握って、ぶんぶん振り回しているんだろうか?
あの太い腕は、彼のなにかの役に立っているんだろうか。

俺は一人で酒を飲みながら、あの太い腕が今でもどこかで白球をぶっ飛ばしている様を、想像している。
そうしていて欲しいと、願っている。 

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Tさんは、結構年配なんだけどエネルギッシュな男だった。

数年前の夏の暑い日に一緒にプレーしたとき、他の3人は1ラウンドで暑さでヘロヘロになっているのに、一人だけ平気で「あとハーフ行こう!」って言ってきかなかった(当然俺なんか、断固拒否)。

彼の仲間内では飛ぶ方だし、スコア的にも仲間から「上手い人」と言われるような腕だと自負していた。
練習にも熱心だし、スポーツジムでも身体を鍛え、泳ぐ方でも相当に上手いということを聞いた。
一緒にラウンドしたのは2度くらいだけれど、飛ばしで負けると本当に悔しがり、自分がミスしたときにはそのミスの原因を謙虚に他人に聞くような度量も持っていた。
ラウンドすれば1.5ラウンドが当たり前で、2ラウンド回るのも普通の事といい、自分はまだまだ上手くなると信じていた。

そして、ついには世間が不景気だと言うにもかかわらず仕事を上手く回して行って、入会困難な超名門コースのメンバーになり、本物のメンバーライフを謳歌し始めた...と聞いていた。
(そのコースには私も「行かない?」と誘われたけど...彼の仕事の関係で土・日曜のお誘いばかりだったので、プレー費が4万円程度と言う事で丁重にお断りした)

暫くして、彼のゴルフ仲間のWさんに会う機会があり、彼のその後の様子を訪ねると...「なんか、もうゴルフやってないみたいだよ」「全然やる気がなくなっちゃったみたい」。
え?どうして? ...あれだけ燃えてた人が?


それは、彼がTさんといつものように練習をした後、近所に出来た「シミュレーションゴルフ」を遊びに行ったときに起こったんだという。
シミュレーションゴルフでいろいろ遊んだ後、「もう、これは飽きたなあ」と言って横を見ると、スイングを色々とビデオで撮って、スローモーションやら分解写真やらで見て分析検討する機械があったんだそうな。
ちゃんとレッスンプロがいて、スイングチェックやレッスンもしてくれるんだとか。
当然研究熱心なTさん、「これ面白そうだな」「俺、自分のスイング撮ってもらったことないし」とやってみることに。

その仲間のWさん曰く
「もう目一杯張り切っちゃって、力が入り過ぎてたんだよなあ...」

良いところを見せようとするあまり、トップで激しく右にスエーしたあげく、酷いオーバースイングになり、ダウンでは右肩が酷く落ちて左側が伸び上がり、おまけにインパクトで右肩が突っ込んで詰まりすぎたために、左肘を思い切り引いて、結局が明治の大砲腹切りスイング...という、ミスのオンパレードのスイングに。
「普段はもっとずっとましなスイングをしてるのになあ、Tさん」

その自分のスイングの映像を見た瞬間に、Tさんの顔色が真っ青になったんだという。
暫く言葉が出なかったが、ようやく「...俺って...こんなスイングしてたんだ...」

肩を落としてWさんと別れたTさん、それからずっとクラブにも触らなくなってしまったという。
あれだけゴルフ、ゴルフと熱中していて、名門コースにも入会したのに、「ゴルフ」と言う言葉も言わなくなってしまったんだとか。

アマチュアゴルファーにとって「ゴルフ」は、「スイングを見せる」もんじゃなくて「やる」ものなんだから、自分が「絶対俺のスイングは格好いいはずだ」なんて思っちゃあいけないんだよなあ。
我々アベレージゴルファーで、自分のスイングを見せられて「ゾッと」しないゴルファーなんて殆どいないんじゃないの?
俺は自分のスイングなんて絶対に見たくない...「格好悪いに決まってる」っていう自覚があるもの。



Tさん、それから半年以上経って、やっと最近Wさんに「暖かくなったらやろうか?」なんて連絡をしてきたそうだ。
傷はもう癒えたのか...Wさんは心配している。

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