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そんなに良い評判のコースではなかった。
東京からの距離は近いのに、アップダウンが激しく、距離も短く、非常にトリッキーという事で有名だった。
ホールは狭く短く、ちょっとでも曲るとボールは崖や池や藪の中に消えて行き、探して回収するなんて事は不可能で、ニューボールなんて勿体なくてとても使えないコースだった。

その代わりに値段は非常に安く、小さな山の連なりの上に作ってあるために、景色も中々綺麗だった。

ゴルフを始めて1年ほどのA子さんは、値段の安さと距離の近さに惹かれてこのコースにやってきた。
しかし、2〜3ホールもプレーするとボールをなくすだけではなく、そのアップダウンの多さに疲れ果て、クラブを杖代わりにやっとプレーを続けるという有様(当時は乗用カートではなく歩きのラウンドだった)。

腰を曲げて、老婆のようにヨタヨタと歩いていってやっとボールのところまで来ても、まだ下手なうえに疲れのためにチョロを繰り返し、前に進まず殆ど真横に飛び出すボールも多くなって来た。
「もう、ゴルフなんて疲れるだけでちっとも楽しくない。」
「もう二度とやるもんか!」
なんて、涙まで出てきた。

お昼でやめたかったのに、「せっかく来たんだから、今日は最後迄、ね?」と慰められ元気づけられて嫌々後半もプレーを続ける事になった。
疲れ果てながら、リフトやら階段やらを使ってやっとたどり着いた後半のあるホール。

ふと、頬に当たってきた枯れ葉に気がついて上を見上げたときに、「うわあ...!!」と声が出た。
今までずっと下を向いてプレーしていたので、全く気がつかなかった...紅葉の季節だった。

そこはコースの一番高いところにあるロングホール。
ホールの左右は絶壁で、気がつくと自分は関東低山の紅葉の真ん中にいた。
そして、さほど派手な色ではないけれど色とりどりの枯れ葉を、秋の風が自分のいる場所より高く吹き上げて、空を舞わせていた。
晴れていて気持ちの良い秋風の中、明るい日射しの中に輝きながら舞い踊る、色とりどりの紅葉はまさに忘れる事が出来ない幻想的な光景だった。

「こんなに綺麗な紅葉は生まれて初めて見た...」

日光や、他の有名な観光地の紅葉と違い、色数が少なく「錦織なす」とはいかないけれど、陽の光の中を舞い踊る落ち葉の風景は息を呑むほど複雑で美しい。
今までのゴルフの「苦しみ」なんて、どこかに飛んでいってしまった。

...それから十年近くの日々が過ぎて、色々なコースに行くようになったけど、あれほどの綺麗な紅葉は見ることが出来ない。
なので、去年の秋に同じような時期を選んで、無理に頼んであのコースに連れて行ってもらった。
天気も良かったし、きっとあのときと同じ紅葉を見ることが出来る...そう信じて。



「...え?ここだっけ?」
「こんな風な紅葉だったっけ?」

あの頃よりはだいぶ上手くなったうちの奥さんは、そのホールのその場所で..途方に暮れる。

「あのときの紅葉は、その後何度も夢に見たほど綺麗だったのに...あの時も、こうだったのかしら..」
彼女の周りには、谷から吹き上がる風に舞う、色とりどりの枯葉が流れて行く。