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彼とは、彼がゴルフを始めた頃に知り合った。
少し年上で背が高くハンサムで、かつ仕事も好調とのことで結構高い道具を揃え、ゴルフの上達に燃え始めている男だった。

少し先に始めてオフィシャルでシングルハンデになっていた俺が、ちょっとしたことをラウンド中に教えると、本当に真剣にそれを覚えようとし、上手くいくと子供のように喜んだ。

少し時間が経って、彼も仲間内でのハンデがシングルになる頃には、ゴルフの話題となると終わることがない熱さで語る男になっていた。
その代わり、プレーにも熱くなりすぎて、大きな声を出したりクラブを放り投げたりして、周りの顰蹙を買う事も多くなった。
彼を嫌う人も居るには居たが、彼のゴルフに対する姿勢を知っている人達は、それも苦笑いと共に「困ったね」という程度で、仲間達のゴルフコンペには欠かせないメンバーの一人だった。

俺も彼のゴルフに纏わる色々な話は、涙あり笑いありの悪戦苦闘話として非常に楽しくて、毎回のコンペで彼に会ってゴルフ談義をするのを非常に楽しみにしていた。
それはもう二十年以上続いていた。

しかし、昨年の今頃会ったのが最後で、彼はその後のコンペには参加しなくなった。
一回二回の欠場は病気や仕事でよくあることだけど、一年も出てこないのが気になって主催者に彼の不参加の原因を尋ねてみた。
参加メンバーの事情を良く知る主催者が、ちょっと言い難そうに語った彼の事情は、体調不良が表向きの理由だけれど...実際は仕事が不調になってゴルフをする金がないから、ということらしかった。

バブルの頃に比べると、ゴルフのプレー費自体は安くなっているが、こうしたコンペではそれに参加費・パーティー代や馬券代やら、古い仲間内のニギリやらで結構かかり、それに交通費等を加えると一回で3万円以上にはなる。
...その費用の捻出が苦しいと。
俺だってそんなコンペが3ヶ月に1回だから参加出来るが、毎月だったら厳しい。

彼の仕事も俺と同じに出版関係...今、この業界は本が売れなくて(新聞もだけど)どこも厳しい状態で、我々の仕事も少なくなるばかり。
定期刊行物は休刊廃刊が相次ぎ、かろうじて続いているものも原稿料の値下げ要請が来る様な事がしばしば。
仕事があって忙しくても収入が減ると言う状態で、連載をしていた雑誌が廃刊になってしまうと替わりの連載等は見つからず、収入が激減する事も普通にある事。
ベテランだった彼の仕事は、まさにそうした事情で収入が激減してしまったのだと言う。

(勿論同業者(といっても漫画家達)の人達のなかには、今も景気が良くてベンツや国産高級車に乗って、クラブも新製品を次々買い替えて遊んでいるものも多い。
もし当たれば彼等には印税と言う名のまとまった収入があるので、俺の様なイラストレーターには羨ましい世界だ。)

いくら良い仕事をしていても、仕事をする場が減るとゴルフをする機会は少なくするしかない。
フリーである以上、俺も何時そうなってもおかしくない。

ゴルフを嫌いになった訳では決して無い。
ただ、そんな事情であの熱い男は、静かにドライバーを置いてゴルフから離れていった。

...ぐっど・ばい。
俺の古いゴルフ友達。



俺は俺の、あとしばらくのゴルフライフを楽しもう。