img_0-14

オープンコンペで会った、70年配のTさん。

プレー振りはいかにもベテランゴルファーらしく、ボールのところに行くと一回素振り、方向を定めて淡々と打っていく。
ナイスショットでも、ミスしても、その態度もリズムも変わらずに淡々とラウンドしていく様は、「俺もやがてはあんな風なゴルファーになりたい」と思わせる格好の良いものだった。

しかし、ラウンドをこなしていくうちに、Tさんがキャディーバッグにクラブを取りに行くときに、いつも何か呟いているのに気がついた。
アイアンなりフェアウェイウッドを選ぶときに、「...」聞こえないくらいの小さな声で、何かを必ず呟く。
なんホール目かのグリーン側のアプローチの時に、たまたま一緒にクラブを取りに行ったとき、やっと何を言っているのか判った。

...「不甲斐ない」。
そう言っている。


何とも不思議に思った俺は、昼食の時にこっそり聞いてみた。
「あの、クラブを手にするときに必ず不甲斐ない、って言っていますよね?」
「あ、聞こえちゃいましたか...お恥ずかしい」
「...いや、クラブがねえ...不細工なクラブを使っているもので...」

Tさんは50年以上のゴルフ歴で、昔はかなりのハードヒッターとして鳴らしたんだそうだ。
それがこの10年くらい前から、昔から使っていたアイアンではどうしても満足なショットが打てなくなってしまったらしい。
それで悩んだ末、周囲の勧めもあって今流行のポケットキャビティー・カーボンシャフトのアイアンに替えたんだけど、それがどうしても自分で気に入らないんだ、と。

「マッスルバックにスチールシャフトでやってこそが伝統的なゴルフというもので、流行のポケットキャビティーのアイアンなんて、不細工で情けないし美しくないとしか思えないんです」
それでつい、
「こんな道具でゴルフやるなんて、俺はなんて不甲斐ない男なんだ」
と思って、それが口に出てしまうんだとか。

だから、今でもウェッジだけは昔のを使っているんだという。
...午後のラウンド時に見せてもらうと、ピッチングとサンドはすっかり溝のすり減ったマグレガーの「VIP」だった。

Tさん、貴男の今のアイアンだって、決して「易しい」アイアンじゃないですよ。
でも、きっと後ろが凹んでるアイアンは、Tさんにとって「不甲斐ない」アイアンなんでしょうねえ。

...「不甲斐ない」と呟く声は、結局最終ホール迄、俺の耳に小さく聞こえ続けていた。


そのラウンド、Tさんちゃんと41・40で回っていた。

...俺、「不甲斐ない」アイアンに負けた。