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Tさんは、結構年配なんだけどエネルギッシュな男だった。

数年前の夏の暑い日に一緒にプレーしたとき、他の3人は1ラウンドで暑さでヘロヘロになっているのに、一人だけ平気で「あとハーフ行こう!」って言ってきかなかった(当然俺なんか、断固拒否)。

彼の仲間内では飛ぶ方だし、スコア的にも仲間から「上手い人」と言われるような腕だと自負していた。
練習にも熱心だし、スポーツジムでも身体を鍛え、泳ぐ方でも相当に上手いということを聞いた。
一緒にラウンドしたのは2度くらいだけれど、飛ばしで負けると本当に悔しがり、自分がミスしたときにはそのミスの原因を謙虚に他人に聞くような度量も持っていた。
ラウンドすれば1.5ラウンドが当たり前で、2ラウンド回るのも普通の事といい、自分はまだまだ上手くなると信じていた。

そして、ついには世間が不景気だと言うにもかかわらず仕事を上手く回して行って、入会困難な超名門コースのメンバーになり、本物のメンバーライフを謳歌し始めた...と聞いていた。
(そのコースには私も「行かない?」と誘われたけど...彼の仕事の関係で土・日曜のお誘いばかりだったので、プレー費が4万円程度と言う事で丁重にお断りした)

暫くして、彼のゴルフ仲間のWさんに会う機会があり、彼のその後の様子を訪ねると...「なんか、もうゴルフやってないみたいだよ」「全然やる気がなくなっちゃったみたい」。
え?どうして? ...あれだけ燃えてた人が?


それは、彼がTさんといつものように練習をした後、近所に出来た「シミュレーションゴルフ」を遊びに行ったときに起こったんだという。
シミュレーションゴルフでいろいろ遊んだ後、「もう、これは飽きたなあ」と言って横を見ると、スイングを色々とビデオで撮って、スローモーションやら分解写真やらで見て分析検討する機械があったんだそうな。
ちゃんとレッスンプロがいて、スイングチェックやレッスンもしてくれるんだとか。
当然研究熱心なTさん、「これ面白そうだな」「俺、自分のスイング撮ってもらったことないし」とやってみることに。

その仲間のWさん曰く
「もう目一杯張り切っちゃって、力が入り過ぎてたんだよなあ...」

良いところを見せようとするあまり、トップで激しく右にスエーしたあげく、酷いオーバースイングになり、ダウンでは右肩が酷く落ちて左側が伸び上がり、おまけにインパクトで右肩が突っ込んで詰まりすぎたために、左肘を思い切り引いて、結局が明治の大砲腹切りスイング...という、ミスのオンパレードのスイングに。
「普段はもっとずっとましなスイングをしてるのになあ、Tさん」

その自分のスイングの映像を見た瞬間に、Tさんの顔色が真っ青になったんだという。
暫く言葉が出なかったが、ようやく「...俺って...こんなスイングしてたんだ...」

肩を落としてWさんと別れたTさん、それからずっとクラブにも触らなくなってしまったという。
あれだけゴルフ、ゴルフと熱中していて、名門コースにも入会したのに、「ゴルフ」と言う言葉も言わなくなってしまったんだとか。

アマチュアゴルファーにとって「ゴルフ」は、「スイングを見せる」もんじゃなくて「やる」ものなんだから、自分が「絶対俺のスイングは格好いいはずだ」なんて思っちゃあいけないんだよなあ。
我々アベレージゴルファーで、自分のスイングを見せられて「ゾッと」しないゴルファーなんて殆どいないんじゃないの?
俺は自分のスイングなんて絶対に見たくない...「格好悪いに決まってる」っていう自覚があるもの。



Tさん、それから半年以上経って、やっと最近Wさんに「暖かくなったらやろうか?」なんて連絡をしてきたそうだ。
傷はもう癒えたのか...Wさんは心配している。