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気は優しくて力持ち...Sさんは、豪快な男だった。
いつも朝から日本酒を飲んで、鼻の頭を赤くしてスタートホールにやってきた。

その頃よく行っていたホームコースの月例で、初めて一緒にラウンドした頃のSさんは50代だった。
Sさんは背はそれほど高くなかったが、もの凄く太い腕をぶん回して、ボールが潰れる程引っ叩くので有名なゴルファーだった。

その一緒のラウンドで彼も俺が気に入ったらしく、その後は月例では必ず一緒に回るようになった。
何よりも飛ばしが自慢で、二人で毎ホールドラコンをやったりして楽しく回った...当然10歳以上若かった俺の方が飛んだのだけれど。
「オレだって若い頃は、このホール突き抜けてあの林に打ち込んだんだぞ!」
「こんなロング、昔は5番アイアンでツーオンしたさ!」
なんて猛烈な負けず嫌いで、少しでもボールが先に行ってたりしたら、「どーだ!」「今だってちょっと当たりゃあ、こんなもんさ!」と、子供のように喜んでいた。

...太い腕だった、本当に太い腕をしていた。
二の腕は、細い女性のウェストくらいはあったろうか...その風体を最初に見た時、俺は「まるで牛の様な男だ」と感じた。
...飛ばしっこではなく、腕相撲だったら多分全然かなわなかったろう。
だからよく「Sさんの腕は、腕じゃなくて前足だからなあ」「だめだよ、前足で打っちゃあ!」なんて言って、彼をからかった。


仕事はそれほど大きくはない建設会社の経営者とかで、「今だって若いモンの二人分くらいの鉄骨担いでるよ!」なんて事を自慢していた。
その頃は景気が良かったので、彼はコースのプロや研修生の相談事に乗ったりして、クラブの中の「顔」のような存在だった。
プロが試合に行くと言えば、交通費や宿泊代としてかなりの金を出してやったり、研修生が腹を減らしているなんて聞くと腹一杯旨いものを食べさせてやったり、コースの従業員にも慕われていた。
景気が傾いてきても、「俺は信用第一にやっているから、景気が悪くなったって絶対大丈夫さ!」なんて、陽気なゴルフは変わらなかった。

その後暫くして、俺は怪我や仕事の都合と気持ちの問題で、月例などの競技ゴルフを殆どやらなくなった。
月例に参加しなくなる事で、Sさんと会う事も無くなってしまった。

何年くらいSさんとは会っていなかったか...数年前に思うところあって、そのホームコースの月例に久しぶりに参加した所、Sさんを知っているメンバーと一緒になってその後の消息を知った。
やはり、建設業の景気は最悪で、ずいぶん頑張っていたSさんの会社も数年前に倒産したという。

だから、Sさんも最近は全く姿を見せていないという。
本当はその月例参加も、久しぶりにSさんに会って話をする事も目的の一つだった。
(その月例の久しぶりの練習グリーンでは、Sさんはもちろん知った顔が殆どいなかった事が寂しかった。)

...陽気な酔っぱらいゴルファー、攻めっ放しの飛ばし自慢、前足のような太い腕。
あの太い腕は、今でもどこかのコースでクラブを握って、ぶんぶん振り回しているんだろうか?
あの太い腕は、彼のなにかの役に立っているんだろうか。

俺は一人で酒を飲みながら、あの太い腕が今でもどこかで白球をぶっ飛ばしている様を、想像している。
そうしていて欲しいと、願っている。