ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

ゴルフ人生で、触れ合いすれ違った人達の、忘れられぬ想いを描き残しておきます。

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T県のPカントリークラブでの、夫婦二人でのラウンドを終えての帰りだった。
東北自動車道を東京方面に向けて、100キロを超えるスピードで走っていた。

ふいに左に急ハンドルを切ったクルマは、路側帯に入り、急ブレーキを掛けて急停車した。
驚いた助手席の妻が運転席の夫を見ると、夫はハンドルに突っ伏したまま動かない。
急いで救急車を呼び、インター近くの病院に運ばれたが、その時には夫は既に死亡していたと言う。
病名を詳しく聞くことは出来なかったが、噂では「くも膜下出血」だったらしい...50才だった。
(「くも膜下出血になってそんな事が出来るのか?」と、くも膜下出血から生還して今も現役で仕事をしている友人に聞いた所、「街を歩いていた時に、急にバットで頭を殴られた様な激痛があり、これは普通じゃないと近くの店に飛び込んで「救急車を..」と言ってる途中で意識が無くなったそうだ。
そこから運ばれた病院が脳外科の一流病院だったので命が助かった、とか...意識が無くなる迄激痛があっても少しは意識があると言うので、強烈な意思があれば車を止める事は可能らしい。)


夫は30歳頃からゴルフを始め、仕事関係の付き合いや、ホームコースの月例などでゴルフを楽しんでいたと聞く。
妻は、子供の手が離れてから、夫の勧めで近所のゴルフ練習場のゴルフ教室に入り、そこで知り合った人に主婦のゴルフサークルを紹介してもらい、週一回の練習と二ヶ月に一度のサークルのコンペに参加して楽しんでいた。
そして、普通に周りに迷惑を掛けずに、ゴルフを楽しんで回れるくらいになった最近は、夫婦だけのツーサムで回ることが多くなったという。
平均して月に一度か二度天気の良い日を選んで、少し遠くても安いコースを二人で回る事が、夫婦の唯一と言って良い「贅沢な遊び」だったとか。
二人がどんな会話をしながら回っていたのか知らない。
あるいは喧嘩をしながら回っていたのかもしれない。
でも、本音の所で楽しくなければ、ゴルフなんて同じ相手と何度も回れるものじゃないだろう(仕事の付き合いは別だけど)。

我々もいつかは死ななければならない人生で、いつかラストラウンドを回るときが来るだろう。
その時、大事なのは「どのコースを回るか」だろうか、「誰と回るか」だろうか?
俺は、ラストラウンドをどんな気持ちで回るだろうか...いや、「これがラストラウンドだ」、ってわかるんだろうか?
そう考えるとこれから回る、「限りある」ラウンドを一ラウンドたりとも、無駄なラウンドにしたくはないと思う。
...よく言われる「一球ずつが一期一会」なのだ、と肝に銘じて。


彼はラストラウンド18ホールが終わった後、言うならば「19番ホール」で、人生最後の「ナイスプレー」をした。
聞けば、夫は飛ばす事が大好きで、パットやアプローチはお世辞にも上手いとは言い難く、特にアプローチで寄った試しは殆ど無かったとか。
スコア的には基本に忠実な妻の方が良い事も度々あったらしい。
そんな夫が、命の危険を感じる激痛と、薄れ行く意識の中で、見事に100キロオーバーで高速道を走るクルマを、路側帯に無事に止めて、妻の命を守った。
止めたときに、彼は自分で自分に「よし! ナイスアプローチだ!」と言ったに違いない。
「オレだって、やれば出来るんだぞ..」と。

パートナーが退場した後、妻もその日のプレーをラストゲームとして、静かにクラブを置いた。

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