ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

カテゴリ: ゴルフな人々

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Tさんは、運動が小さい時から得意ではなかった。
かけっこも遅い。
野球やバスケットボールも卓球などの球技も、ボールの大小に関わらず一切苦手。
もちろん柔道や相撲などの格闘技もダメ。

そのために40の声を聞くまでは、あらゆる「運動」と名のつくものから距離をとってきた。

それが、取引先との関係で「やらなければならない」状態から、ゴルフを始める事になってしまった。
当然苦手な運動との自覚があるから、一番はじめから近所の練習場のレッスンプロに教えてもらう事に決めた。
道具の選び方から、グリップ、アドレスの姿勢から...すべて手取り足取りのレッスンを始めた。
それから5年、週1回の練習は欠かさず、必ず練習場のプロにチェックを受けている。
...が、スコアははじめのうちこそ、ハーフ70や80から少なくなってきたが、ハーフ60の壁を越える事ができない。
トータル120を切れない。

Tさん自身は、その原因が分かっているつもりだ。

Tさんのゴルフは、ドライバーの調子が良いと他のアイアンやパターの調子が悪い。
アイアンが調子が良いと、ドライバーが当たらず、パットは相変わらず悪い。
パットを練習して、調子が良くなると、ドライバ−もアイアンも当たらない。
・・・

プロはいつも「ドライバーもアイアンもスイングは一緒ですから..」と言う。
でも、Tさんはこれは絶対に違うと思う。
「だって、ドライバーが調子いいから、ドライバーと同じようにアイアンを打つと当たらない」
「アイアンが調子いいからと思って、同じようにドライバーを打つと当たらない」
「なんで、ゴルフってドライバーもアイアンも、アプローチも、バンカーも、パットも、みんな形も打ち方も違うんだろ?...なんでみんな、こんなにいろいろと違うものをちゃんと打てるんだろ?」

プロは、「打つ基本は一緒なんですよ。ボールの位置と重心と、ほんのちょっとしたイメージの持ち方でちゃんと打てますから」なんて言うんだが、それがよく理解できない。
だって、ゴルフってその度にみんな打つ場所や条件が違うんだから...
教わった事の無いところにばかりボールは行くし...
プロの言う通りに「同じに打って」も、ちっとも上手く行きやしない。

この前は「あの、お願いですから私の言う事をわかってください」なんて、コーチに泣かれてしまった。
確かに、5年もやっていてこんな風なのは私だけらしい。
一緒にゴルフをする仲間や先輩達には、「不器用にも、程度ってものがあるだろ?」なんて呆れられるし。

だけど、自分はゴルフが絶対に嫌いじゃない。
その日に何が調子がいいのか楽しみでもあるし、他の調子の悪いものだってそれが不愉快なものでもない。
スコアに対する期待は全然しないけど、ゴルフの予定が決まってからはずっと気持ちが浮き浮きしているし、ゴルフの前日は興奮して眠れないし、ゴルフから帰って来てからはすぐに次の予定を考えてるし。
多分これはゴルフが他のスポーツと違って、負けた原因や張本人にされて「お前がいなければ勝てたのに」なんて言われる事も無いし、下手だからって馬鹿にされたり邪魔者扱いされてのけ者にされる、なんて事が無いからだろう。
それに、5年もプロから教わっていて、上達はしてなくても「プレーを速く、ボールに触らない、ルールを勉強する」という事はちゃんと出来るようになってるんだから、他人に迷惑はかけていないと思うし。

...それにしても、どうしてみんなはドライバーもアイアンも、アプローチもバンカーも、おまけにパットまでちゃんと出来るんだろう。Tさんは、みんながそれぞれを使い分けて楽しんでいる事が、不思議でしょうがない。
形も打ち方も、みんな全然違うのに...


 

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Kさんは、子供の頃から理科系の勉強がよくできた。
実際に大学を出た後は、大企業の研究員として就職し、それなりの実績をあげてきた。

彼がゴルフと出会ったのは30歳のとき、ゴルフ好きな上司との付き合いから始めたもの。
それほど運動が得意な方ではなかったが、ゴルフというものが「止まっているボール」を自分で動かす球技なので、「自分にも何とかなりそう」な感じがした。
実際、うまくドライバーが当たった時に感じる「感触」は、それまでの人生で感じたことの無い「快感」で、それにはまり込んで行く自分を感じた。

そうなると、本来研究熱心で分析が得意な彼は、あらゆるレッスン書やビデオを買い込んで、無駄を省いて合理的で正確なスイングを追求しようと決心した。
止まっているボールを打つのだから、彼の得意分野の数式で「そのスイングスピードでの反発係数」だの、「最大飛距離」だの、「ボールの回転数」だの、「打撃角度」だの、あるいは材質による「摩擦係数」だの...あらゆることが、正確な答えとして導きだされるはずだと確信した。
そして有名選手のビデオで、どうやって最大のヘッドスピードを出せるのか、どのように再現性の高いスイングを自分のものにしているのかを分析研究した。
自分の体力や体型・筋力とそれに合った道具の研究や、大手メーカーの新製品の新理論も欠かさずチェックし、「本物の科学的効果」があるかどうかを調べて取捨選択して取り入れた。
もちろん自分の基礎体力向上の努力もした。

結果は出た。
35でシングル入りして、ハンデは6まで行った。
...しかし、40を過ぎてもハンデはそれ以上にはならなかった。
週に5日以上会社に出勤しているので、練習する時間やラウンドする時間がそれ以上増やせなかったのが一つの原因ではあった。
しかし、それでも彼はもっといい答えがあるはずと考えて、ずっと練習と分析と研究を続けた。

だが、45になってもハンデはあがらないどころか、8に落ちてしまった。
そしてそのころ、仲の良かったライバルに「最近、ゴルフが嫌いになったのか?」なんて聞かれた。
「いや、そんなこと無いけど...むしろますますのめり込んでるくらいだ。」
「じつは、他のメンバーがお前とゴルフやっても楽しくない、って言ってるんだ。」
「いつもしかめっ面して、うまく行かないとすぐ機嫌が悪くなるし、他の人プレーは見てないし..ってな。」
「せっかくの休日だから、お前と一緒にはゴルフをしたくないって人が増えてるぞ。」
「特に最近評判が悪くなって来たみたいだから気をつけろよ。」

Kさんは、この言葉に驚いた。
自分のスイングとゴルフを追求し続けて、正解が出るはずの数式を作ったのに答えが出ない...と言う感じのイライラとしていた日々が続いていた。
それが、そんな風に表に出ていたなんて。

Kさんは半年ほどゴルフから離れて、考えた。
最近は実際にゴルフが楽しくないかも、と感じてもいたからだ。

...またゴルフを再開したとき、Kさんは「答え」を見つけようとするのをやめた。
「理科系頭の自分だけれど、文科系の頭になって感じてみよう」と思ったのだ。
実際には骨の髄からの理科系人間の自分だから、答えがはっきり解らないと気がすまない思いは消えないんだけれど。ど、出来るだけ「曖昧さ」や「何となく」や「いい加減」な気持ちでゴルフをやろうと努力している。
うっかりすると眉間にしわ寄せて考え込んでている自分がいるんだけれど、最近ようやく目の下のボールばかりではなく、目の上の風景を見る事が出来る様になって来た。

スコアの安定感は消えてしまって、とんでもなく悪いスコアも度々顔を出す...でも、ゴルフの違う楽しみが少しずつわかってきたような気がする。

...まだまだ、悪い評判は消えてはいないようだけど。

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あれから何年経ったんだろうか...

新聞に載る事件だった。

Nさんの友人だった、Sさんが帰ってくる。
SさんはNさんの数十年来の友人であり、ゴルフのライバルでもあった。
腕はほぼ互角で、飛距離はSさん、アプローチやパットはNさんが得意と認め合っていた。
永久スクラッチの約束をして、お昼とラウンド後のスイーツを賭けてゴルフを楽しんで来た。

Sさんは夫との二人暮らしで、夫婦二人でのゴルフにも度々出かける仲の良さは、Nさんもよく知っていた。
そのSさんの夫が体調を崩してから、事態が変わって行った。
風邪だと思われた夫の様子が、その後急におかしくなった。
急な物忘れと、時間感覚の異常、記憶の混濁、会話が成立しなくなる...
若年性アルツハイマーと診断されたと、Sさんから聞いた。

それからはSさんが夫の代わりに昼も夜も働いて、夫の面倒を見ていた。
ゴルフは介護のヘルパーさんに代わってもらえる時...年に数回だけになった。
勿論、その時はNさんと一緒のラウンドで。
そのラウンドもだんだん間隔が空くようになり、Sさんが疲れ切って行く様子が気になって...最後のラウンドの時には、ショットの待ち時間や昼食の時間に、何かを考え込んでボーっとしているSさんの姿が気になった。

...色々な事情や情状が考慮されて、普通より軽い期間となったと言う。
署名運動や、面会等々...Nさんは、一生懸命彼女のために動いたけれど、Sさんにとってどれだけの助けになったかは判らない。

長い時間が過ぎて、Nさんはその間回数が減ったゴルフを続けていたけれど、Sさんとラウンドしていた時のような楽しいラウンドが出来る事はなかった。
そして、もうすぐSさんは帰ってくる。
...でも、彼女が再びゴルフを再開するようになるとは思えない。
どんな気持ちでボールを打ち、どんな気持ちで笑う事が出来るのか...
前に二人で回っていた日々のように、ゴルフを楽しめる訳がない...
それは十分想像出来て、理解出来るんだけど...NさんはSさんとゴルフがまた出来る日を待つつもりでいる。
許すとか許されるとか、考えても答えの出ない事ばかり。

街にジングルベルが流れるこの季節に、何かが許されて、奇跡が一つ起きてはくれないか。
Nさんは、そんな事を思って部屋の片隅のキャディーバッグに手を合わせる。

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机の上の二つの瓶の中には、全部で37500円ある。
さっき数えたばかりだから間違いない。

何のお金かといえば、去年の年の初めに約束した掛け金...というより、貯金の金額だ。

夫と私の趣味はゴルフ。
先に仕事の必要があって始めた夫に、「やってみると面白いから。」と言われてゴルフ教室に行くようになった。
それから8年経つけど、今ではスコアは同じくらい...100を切ったり、切らなかったり。
スイングはゴルフ教室で教わった私の方がきれいだと言われるけれど、夫は力だけはあるのでたまに凄くいいスコアも出す。

子供のいない共稼ぎなので、一昨年は夫婦でそれぞれ30ラウンドほどすることができた。
夫と一緒のラウンドも月1はできるようになった。
...が、同時に夫婦喧嘩も増えた。
一緒のラウンドでは、勝った負けたで結構マジ切れしたりする。

で、昨年の年の初めに「賭けをしよう」ということになった。
いろいろと検討した結果、「年間を通して穫ったパーの数で、勝負だ。」
つまり、平均スコアだと似たようなものだから、一つパーを穫るごとにそれぞれの瓶の中に500円を入れること...一年経って多い方が勝ち。

...一年経った。
結果は、二人で合計37500円の500円玉が貯まった。
...が、私の瓶には500円玉は5枚しかない。
後は35000円...70回パーを穫った夫の圧勝だった。
これは夫の作戦勝ちだった。
夫は飛ぶので曲がると大叩きはしょっちゅうなんだけど、フェアウェイに残れば白ティーからではパーもとれる。
それに比べて飛ばない私は、パーオンすることは稀で、パーパットはいつも長い距離が残る。
パーパットを「入れなきゃ」と思うとますます入らなくなった。
結局、ボギーやダボばかりになった。
平均スコアは似たようなものなのに、パーの数の勝負じゃあ完敗だった。

「お前、たったそれだけかよ」
...夫の偉そうに見下したような「どや顔」に腹が立つ。
「勝負にならないな」の声に、口惜しくて「ブチッ」と切れそうになった。
「なによ!その言い・・」
「じゃあ、この金を元にお前が欲しがっていたドライバーを買ってやろうか?」

「あ......」

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「朝はやっぱり寒いなあ..」という季節、スタート前に熱いコーヒーでも飲もうかとクラブハウスのレストランに入った。
その男は、窓側の席でお銚子2本目を空ける所だった。
耳まで赤くして、気持ち良さそうに熱燗の酒を飲んでいる。
(おいおい、もう酔っぱらってるんじゃないか)
(そんなんでゴルフやって大丈夫かよ)
なんて心配になるくらい。

...その男と同じ組になってしまった。
「いやあ〜、冷えますね」
「こんな時は軽く一杯引っ掛けないと、とてもゴルフする気になりませんよねえ」
...(ん? 軽く一杯? お銚子2本で?)
...(おいおい...)

飛ばないながらも、それなりのゴルフで楽しそうにプレーして行く。
パーオンはしないが、巧みなアプローチで入ってパー、外れてボギーなんてゴルフを鼻歌まじりで続けて行く。
特にパーだから嬉しいとか、ダボだから口惜しいという事も無いようで、話題は天気の話や病気の話。
「私、痛風が出るとゴルフ出来なくなるんで、毎日薬飲んでるんですよ。」
「ああ、高血圧もあるし、コレステロールも高いし、腰も痛いし、膝も痛いし、太り過ぎだし、心臓も悪いし..あっはっは..」
(あっはっはじゃないと思うんだけど...)

陽気なゴルフも3ホールほどで、4ホール目に林で立ち小便をしたとたん、まるでガス欠になったように元気がなくなった。
5ホール目に売店が見えた時には、パットもそこそこに「お先に」と言って売店に行ってしまった。
我々が売店についた時には、嬉しそうな顔をして何やら飲んでいる。
「なに飲んでるんですか?」
「ああ、これ養命酒の辛口です。 旨いですよ。」
(って、なんで3本も手にしてるの...)

一本を飲んだあと、残りをカートに乗せて、彼のゴルフは9番ホールまで楽しそうに続いた。

昼休憩のレストランでも、彼は「熱燗2本ね」。
「大丈夫なんですか? 色々と悪い所があるってお聞きしましたけど..」
「ああ、大丈夫ですよ。 寒い時には熱い酒飲めば、ぜ〜んぜん大丈夫ですよ」
「すみませんねえ、こんな酔っぱらいで」

食事は蕎麦だけで、それを摘みに旨そうに酒を飲んでいる。
「おねえさん、もう一本頂戴!」
「え? もうかなり酔ってますよ...」
「あ、皆さんもどうですか? ちょこっと一杯」
「いえ、もうすぐスタート時間なんで結構です。」
「飲んでる時間、あまりないですよ。」

「ああ、もうスタート時間ですか...」
「いやあ、酒が旨いなあ..」
「じゃあ、私、午後はここで飲んでることにします。」
「ノーリターンと言う事でよろしく。」
「は?...」
(でも、その方がいいかも,,,)

「おねえさん、もう一本頂戴!」
「ホントに今日はいい天気だなあ。」




「ゴルフっていいよねえ...」


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今月の第3土曜日に、またいつものメンバーとのゴルフの予定がある。
もう25年続いている年4回のゴルフだ。
25年前には、2組のコンペだった。

メンバーは当時スポーツジムで出会った、男7人、女はGさん一人だけの計8人。
そのスポーツジムに来ていた女性で、25年前にはゴルフをやる人はGさんしかいなかったのだ。

男性はリタイアした人が4人、自営業で時間が割と自由になる人が3人。
Gさんは、旦那さんが責任の重い立場にある公務員で経済的には恵まれている立場にあった。
それぞれが顔見知りになり、会話をするようになると、「室内のジムだけではなく、外でゴルフを一緒にやらないか」という事になり、25年前に二組のコンペがスタートした。
当時はGさんは35歳、自営業の3人は40歳前後、リタイアした人は60代が二人と50代が二人だった。
美人で華やかな雰囲気があったGさんは、男性7人に囲まれて非常に目立つ存在になった。
「まるで7人の従者を従えた女王様みたい」と噂されたりした。
実際には純粋にゴルフを楽しんだだけで、男女の関係は誰ともなにもなかったんだけど(だから長く続いていたと自分では思っている)、25年の間に4人の男性が世を去ったり病気療養で引退したりして、今では一組だけのゴルフとなってしまった。
最年長の男性は70歳を越えていて、他の二人は60代...自分も60歳になってしまった。
スポーツジムも潰れたり経営が変わったりで、今では同じジムにいるのは二人だけになってしまったが、Gさんは年4回のゴルフはずっとやめる予定はない。

また今月のゴルフでは、(年をとっていても)男性3人がナイトのように恭しく自分に付き従ってくれて、(年をとっても)自分は女王様のようにゆったりした気分でゴルフを楽しむ事だろう。
その一日だけはまるで魔法にかかったように、いつの間にか顔のシワも消え、動きもキビキビとしたキレを取り戻し、自分も従う3人の男性も25年前と変わらない姿に変わる事が出来るような気がする。
もちろん、他の人からそう見えている訳ではないのだが...

Gさんは彼らと一緒のゴルフのおかげで、年に4回、女王様になる事が出来るのだ。


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出会ったときからゴルフのうまい男だった。
「上手い」というより「強い」という言葉の方が近いようなゴルフをしていた。
なんでも、若い頃練習場でバイトをしていたとかで、一時期プロを目指そうなんて思ったことがあったと話していた。
...しかし、間もなく結婚することになり、「正業」について真面目に働いて来たのだとも。

ゴルフ仲間の友人ということで知り合い、何度かゴルフを一緒にすることになったが、お世辞にも奇麗なスイングとは言い難いのに、ほとんどのラウンドを75を切って回って来た。
ドライバーは飛ぶし、アイアンは切れる、おまけにトレビノばりの柔らかいタッチのパットが上手くて、ニギリは殆どひとり勝ちしていた。
唯一の欠点はドライバーを振り回し過ぎて、たまにフックして大トラブルになることくらいだった。

驚いたのは、彼のアイアンを見せてもらったとき...古いマグレガーのアイアンだったが、グリップしてみるとみんなグリップの種類が違う...ほとんどがコード入りのバックラインありだったが、柔らかかったり、硬かったり、フックに入っていたり、スライスに入っていたり...あげくの果てに2本は硬化して破れかけていた。
「なんだ! このグリップはみんな違うじゃないか!」
「なんかおかしいか? 俺はずっとこれでやって来たんだけど..」
「グリップいつ変えた?」
「そういえば使い始めてから変えてないな」

聞けば、貰ったそのアイアンでゴルフを続けて来たから、グリップしただけで何番アイアンだか判るし、クラブに合わせて振るから、別に不自由無いんだとか...
そんなバラバラのアイアンであのショットを打っていたのか、と驚き呆れたものだった。

その男が48のとき、急に「俺はシニアのプロになる」と宣言して、仕事をやめた。
...それから聞こえて来たのは、
「1年間、ゴルフ場にバイトで入り、キャディーや他のコース管理を手伝いながら、空いた時間を練習に明け暮れる生活をしている。」
「家族と別居して一人暮らしをしている。」
「奥さんと別れたらしい。」
「ニギリで勝った金で暮らしている。」
...

50歳になって、シニアのプロテストを受けた。
一次試験は、軽く通ったという。
二次試験の途中で、おかしな話が聞こえて来た。
彼が「テストにお金がかかり過ぎる」という理由で、プロテストを棄権したと言うのだ。

詳しい事情は判らない。
彼がシニアプロにならなかった(なれなかった?)、と言う事だけは判った。

ちょうどその頃からシニアツアーは試合数が激減して、大部分のシニアプロがとてもシニアツアーの賞金だけでは生活して行けない、という状態になってしまっていた。
シニアプロになれたとしても、彼が夢見たような「華やかなシニアツアー」で活躍する、と言う夢は実現しなかっただろう。

...その後、彼は姿を消した。
風の噂では、「何処か地方でレッスンをしている」とか「もうゴルフから足を洗った」とか...あやふやな情報ばかり。
ただ、「家族とは離れて、独りで暮らしている」のは確からしい。


50を前にして、自分の夢の実現に踏み切った男。
それ迄の生活を全て捨てて、チャレンジした男。
そんなにまでして、彼の追いかけたものは一体何だったんだろう。


共感は出来ないが、心の片隅に引っかかる。
 

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そのビルの窓から見る夕焼けは、実に奇麗だといつも思う。
もうこの仕事にも大分慣れて来たけれど、体力的に楽じゃないのは変わらない。
30歳くらいから専業主婦に落ち着いて、家庭内での主婦業と子育てに専念して来たけれど、時代がそれを続ける事を許してくれなくなった。
もう年が年なので、奇麗で楽な仕事なんてあるはずもなく、色々と探したあげくにこの清掃の仕事にたどり着いた。
沢山の同じような年齢の応募者の中からなんとか採用してもらって始めた仕事だけれど、生まれて初めての純粋な肉体労働は身体にきつくて、正直つらかった。
同期に採用になった人もすぐに殆どの人が辞めて行った。
...そんな眠れないほどの筋肉痛に悩まされながらも、ずっと続けて来られた自分に少し驚いている。

もうゴルフは2年くらいやっていない。
以前のゴルフのサークルの仲間からは、まだお誘いの連絡はあるけれど。
...本当は、今日はそのサークルのコンペの日だった。
実際には練習も一年以上やっていないし、クラブに殆ど触っていないからプレーするのは無理なんだけれど、仲の良かった人からの気取らない誘いの言葉に心が揺れたのは確かだった。
少しはある自分のへそくりから、プレーするお金はなんとかなる額だったし...
しかし、今はまだゴルフを再開出来る状況にはないのは判っている。
残念だけどもうしばらくゴルフは出来ない、と返事をした時には少し胸の奥が痛んだ。

今日はいい天気だった。
絶好のゴルフ日和だったろう。
風もないし日向はぽかぽかして、冬も近いと言うのに小春日和の一日だった。
モップを動かしている時に、何回かビルの窓から空を見上げた。

仕事の終わる時間、奇麗な夕焼けの空に少しの時間見とれていた。
今日の彼女達のゴルフコースも同じように奇麗な夕焼けになっているだろう。
でも、その景色は今の自分には遥かに遠い。

今年のゴルフシーズンは間もなく終わってしまう。
それでも半年もしないうちに、またいいゴルフシーズンはやってくる。
何回か後のそんなシーズンに、数は少なくていいから、自分もまたゴルフコースに帰りたいと思う。

自分は、まだゴルフをやめたつもりはないんだから。

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これは、あるコースのオープンコンペでついてくれた、キャディーさんから聞いた話。
...そのベテランのキャディーさんがついたお客さんの中でも、特別に印象深かったラウンドだという。

一年ほど前、4組ほどの小さなコンペがあった。
そのコンペの出場者は、特別高齢に見える男性を中心に、50〜60代の男性が多く、中に女性が3名、40代くらいの人が数名というところだった。
仕事が同じとも言う訳ではないらしく、それぞれマナーの良いゴルファー達だった。

そのキャディーさんがついた組は、一番高齢そうに見える男性と60代の男性3人の組。
高齢の男性のショットは、ドライバーで130〜140ヤードほど、短いミドルなら3オン、少し長いホールなら4オンというところで、ボギー、ダボ、パットが入ってパーというゴルフを淡々とプレーしていた。
そして時折立ち止まって空を眺めたり、深呼吸をしてあたりの匂いを嗅ぐような動作を繰り返す。

ハーフが終わる頃には、なんとその男性の年齢が90歳という事が判って来た。
ハーフで50を越えるスコアではあったけれど、かってその男性が相当上手かったであろう片鱗は各所に感じられた。
そして一緒に回る男性達が、その90歳の男性のかってのライバルの息子達である事も会話で判った。

「引退ゴルフ」ということだった。
彼はこのラウンドを最後に、ゴルフを引退すると。
「もうプレーが遅くなりますし、一緒の方にも前後の方にも迷惑をかけるようなゴルフになりますから。」
「もう今では、私のライバル達は一人もいなくなりましたし..」
「いつかはやめなくてはなりませんが、こういう機会を作って頂いて..」

ある有名コースの創立当時のメンバーで、半世紀の間ゴルフを楽しんで来たという。
そのホームコースではそんなプライベートな事を大袈裟にしたくないので、こうして他のコースで有志の方が集まって引退ラウンドをする事になった。
集まったのは、かってのライバルの息子や娘、彼に世話になった事のあるホームコースのメンバー、ゴルフを教えてもらった後輩達。
そうして、これがラストラウンド。
コースの匂いを嗅ぎ、空を眺め...ショットの手応えを楽しみ、カップインの音を聞く。
「私は世界一幸せなゴルファーです。」

ラウンド後、コンペルームで小さなパーティーを開いたらしい。

私が聞いたのはここまで。

...「その数年後、彼はゴルファー人生を全うして、幸せな眠りについた。」とでも書けば、誰かさんのコラムのようになるんだろうけれど、私はその後の事は聞いていない。


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ゴルフに最適な季節だというのに、F子さんはゴルフが出来ない。
というより、今年はゴルフの練習もしていない。
医者に「最低1年はゴルフの練習もしてはいけません」といわれているためだ。

始めは寝違いかと思った。
ちょっと後ろを振り向こうとして、左の首筋に激痛が走った。
首だけを回して後ろが振り向けなくなった。
でも、寝違いだったら放っておいても1ー2週間もしないで治ると思っていたから、週に2日のゴルフの練習にも行った...首が痛くてアプローチしか出来なかったけど。
しかし、治らない。
一ヶ月、二ヶ月経っても治らないので、医者に行った。
色々と調べてもらった結果、「頸椎捻挫」らしいと言われた...簡単に言うと「むち打ち症」になっていると...それも、結構重症なんだと。
交通事故にあった訳でもないし身に覚えがなかったので、途方に暮れた。
その原因が分からないと治療の方向も期間も判らないので、痛くなった頃とどんな動きで痛くなるかを色々と考えてみた。
その結果、思い当たる事が一つ出て来た。
そう、ずっと熱心にやっていたゴルフスイングの、俗にいう「頭の残し過ぎ」。


7年前に始めたゴルフは、自分の人生で久しぶりに熱中出来る面白いものとなった。
夫のすすめでゴルフ教室に入ってみると、学生時代やっていたテニスの感覚が結構役に立った事もあって、上達は早かった。
何よりもそこのプロコーチに褒められたのが自分の奇麗なスイングフォームだった。
元々身体が柔らかく、無理せずとも肩は楽に90度以上回った。
フィニッシュでは肩はアドレスから180度以上楽に回る...腕が首に絡み付くように回るスイングはゴルフ教室の仲間からも羨ましがられた。
そこでプロに「打ったあともボールのあったところを見ていろ」とか「頭を残せ」と言われた事を忠実に守って、飛んで曲がらないフォームと褒められていた。

...スイングを褒められ、飛ぶし、曲がらないし、スコアもどんどん良くなってますます熱心に練習し、ラウンドしていた。
その奇麗なスイングフォームが原因らしい。
身体が柔らかい事を生かした、頭が奇麗に残る大きなフォローとフィニッシュ。
その度に頸椎が思い切り右に捻られて悲鳴を上げていた、って事だ。
その首への負担に身体がついに耐えきれなくなってSOSを出した、と。

それで今年は一度もクラブを振っていない。
「1年静養すれば、多分大丈夫だろう」と、医者に言われたから。
「でも、同じフォームで打ったらまた痛めますよ。首に負担のないフォームで打つようにして下さい。」

プロも、「身体が柔らかいので、ちょっと無理しちゃったかなあ..」と反省している。
「これからは、あのソレンスタムのスイングのようなイメージを持ってスイングしましょう。」
「練習出来ない間に、イメージを作って下さい。」と提案された。

自分でも、そうするしかゴルフを続けられないってよくわかる。
これからはソレンスタムみたいなスイングで振る...でもそうすると、あの今迄の「飛んで曲がらない」スイングのゴルフとは全然違う、飛ばないし曲がるゴルフになってしまうんだろうという気がする。

それでもゴルフをまたやりたいから、来年の始めから少しずつアプローチの練習を始めようと思う。
なるべく早く普通のショットを打てるようにして、なるべく早く首に負担の少ないソレンスタム風スイングを完成させる。

良い季節になっても、今は静養だ...しばらくはイメージだけでゴルフを楽しむしかない。

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