ゴルフな人々    (イラストレーター渡辺隆司のブログ)

ゴルフが人生に似てるのか、人生がゴルフに似てるのか... 忘れ得ぬ、ゴルフで出会った人々。

カテゴリ: ゴルフな人々

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K氏は、静かに熱く燃えている。
父親が楽しんでいたために、早くから接していたゴルフ。

そこそこ自分でも楽しんでいたんだけれど、なぜか自他ともに認める「飛ばない』「100を切れない」というゴルファーだった。
...確かに飛ばなかったし、スコアもまとまらなかった。
自分はそんなもんなんだと言う諦めが、あった。

でも、それが大きな間違いだった事に最近気がついた!
きっかけはグリップ。
疑いも無く自然に握っていた自分のグリップが酷いウィークグリップだった事を指摘され、違和感一杯でストロンググリップにして打った所...30ヤードも一遍に飛距離が伸びたのだ!

それから、自分のゴルフを改めて見直してみた...何より、今までの思い込みを捨てて謙虚に自分を見直すつもりで。
アドレスが変だった。
ボールの位置も変だった。
腕の変な所に力が入り過ぎている。
右肩が前に出ている。
スタンスが狭過ぎる。
...等々。

グリップを改めてややストロングにしてみると...
トップのフライングエルボーと言われていた右肘が、グリップを変えた事で自然に収まった。
振り抜きの引けてカッコ悪いと言われていた左肘が、自然にたためるようになった。
グリップのおかげでスイングプレーンが、今迄と違って来た。
振り抜きのスピードがが違ってきた。
インパクトの音が違って来た。
フィニッシュが止まるようになった。
...
面白くなった。
あらためて色々なレッスン書を読み、練習場に頻繁に行くようになった。

ゴルフ仲間に、「とてもかなわない」と思っていた飛ばし屋がいる。
知り合いに「とてもかなわない」と思っていた上級者がいる。
いい仲間だけれど、いつも「上から目線」でゴルフを語られていた。
ゴルフの知識じゃ決して負けてはいないのに。
...いい勝負を出来るかもしれない...本気でそう感じた。

インナーマッスルをつける。
体脂肪率を下げる。
柔軟体操、ストレッチを続ける。
基礎体力の向上ならびにウェイトトレーニングも...

今は筋力をつけながらも、4キロの減量に成功した。
飛距離も確実に伸びている。
この次は無理でも、その次かそのまた次か...近いうちに勝負して勝てるかもしれない...飛ばしで、スコアで。
そうしたら、今迄の「上から目線」ではなくて、自分の前で「下から目線」でゴルフを語らせてやるから。
「男子三日会わざれば、刮目して見よ」と言う言葉を、思い知らせてやるから。



...問題は、仕事が忙しくてラウンドする時間がないだけだ。

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ゴルフをするとその人間の本質がわかる、と良く言われているのは知っている。
そうすると私って、獰猛な人間なのかしら。

...小さい時からずっと、他の人と喧嘩するなんて事はまずなかった。
たとえ喧嘩しても、いつも泣かされている方だったし、喧嘩しそうな雰囲気になるだけで逃げてしまったし。
それからずっと...少女時代も、20歳を過ぎてからでも、私は「目立たない」とか「おとなしい」という形容詞をつけられている、小心で穏やかな人間だったはずだ。
自分でも、争いごとを好まず、「みんなと仲良くしていければそれでいい」ってずっと思っているのは変わらない。

それがゴルフを始めたら、周りから言われる事が変わって来てしまった。
「君は獰猛なゴルフをするねえ」
「いやあ、本当に男前なゴルフだ」
「君の本当の性格は獰猛なのかもしれないねえ」
.....
そうなのかしら?
私は争いごとは相変わらず苦手だし、誰かを押しのけていい思いをしようなんて思わない。
「私は端っこでいいよ」なんて言うのが口癖だし、目立つところにいるのは嫌だ。

ただ、勧められて嫌々始めたゴルフは、まぐれ当たりでボールが遠くまで飛ぶのを見てからは、自分の数少ない楽しみのうちで最上位を占める趣味になった。
練習場のゴルフ教室で、レッスンプロに教わって一から覚えて、週一回の練習は欠かさない。

...ただ、私にとってその「ゴルフ」の最高の楽しみは「ボールを遠くへ飛ばす事」だから、(レッスンプロにちゃんと教わったのに)遠くへ飛ばしたくてフライングエルボーのオーバースイングになっちゃったし、「コース攻略の方法」なんていうのも勉強したんだけれど、ピンが見えたらピンに真っすぐ打たないと気が済まない。
せっかく広くて気持ちのよいコースに来たんだから、天に向かって「どこまでも飛んで行け!」とドライバーを打ち、ピンに向かって「ともかく最短距離を」とアイアンを打つ...それしか考えたくない、というのはおかしいだろうか。
(その間に池があっても谷があっても、OBがあっても1ペナがあっても、それを越える事が気持ち良いんだし...)

私の「人見知りをする」、「臆病」で「引っ込み思案」で「目立たない事が好き」で「争いごとは好まないし怖い」という性格は、ちっとも変わっていないんだから、ゴルフを見て私の事を「獰猛だ」なんていうのは間違っていると思うんだけど...

だから、「ゴルフのプレーを見れば、本当の性格がわかる」、なんていうのは間違っている、と私は思っている。
...私は獰猛じゃない。

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「本当に親父か?」
Kさんが、自分の父親のその写真を初めて見つけた時には、ルーペで何度も拡大してみたほどだった。
...父親が、照れくさそうに、でも嬉しそうにカップを抱いている写真。

...そんなはずは...
だって親父は最後まで100を切るか切らないかの腕だったし、ハンデだって15まで行ったかどうか..
自分とやっても何時も10打以上多く叩いていた。

酒もタバコもやらずに、趣味と言えば毎週一回行く練習場と月一回のゴルフだけだったけど、真面目に続けていたのは知っている。
どういう訳でゴルフを始めたのかは知らないが、長くやっている割には極端なオーバースイングとアウトサイドインのスライス打ちは、とうとう治らなかったなあ...
自分がゴルフを始めた時には色々と教えてくれたけど、スコアが親父より良くなってからは何も言わなくなったっけ。
「ボールに触るな」と「プレーを早く」だけは何時も言い続けていたけど。

だから親父のゴルフの自慢話なんて、殆ど聞いたことがない...まして「優勝した」とかなんて話は一度も聞いたことがない...それなのに、出て来たカップを持った親父のモノクロ写真。
気になって、親父のものを捨てられずに仕舞ってある物置を探してみると...一番奥の荷物の下から、ボール箱に入った古いカップが出て来た。
カップは結構大きく、台座には「XXテレビ」と地方テレビ局の名前が掘ってあって、あとはなにも書いてない。

その後テレビ局の広報に聞いてみても、よくわからなかったこのカップの由来が、この前やっと明らかになった。
知っていたのは、親父の古いゴルフ仲間のHさん。
自分があちこちでこの写真の事を聞いて回っている、と言う事を聞きつけて連絡をくれた。

「そのカップは優勝カップじゃないんだよ」
「それ、テレビでやっていた大会のニアピンのカップなんだ」

かなり以前の事、その地方テレビ局の番組で視聴者が一組4人単位で出場して、チームの成績を競う大会を開催した事があったという。
その大会に親父の仲間が応募して、人数あわせに親父も無理矢理出されたんだとか。
チームのホールごとのベストスコアを出せばいいので、下手でも4人目でいれば問題なかったという。

その時にアトラクションとして、全てのパー3ホールにニアピンがあった...これは勿論個人のショットごとの記録だが...そのあるショートホールで、親父の万に一つのスーパーショットが飛び出した...オーバースイングの大き過ぎたアイアンが、テンプラ気味に当たり、あわやホールインワンの30センチに付いたという。
(ホールインワンだったら車一台だったらしい)

この日の親父のナイスショットはこれ一発だけ...でも、チームとしても賞品を貰えたのはこのニアピンだけだったので、しばらくは親父達の仲間内で話題になったという...このとき成績が良かったチームはテレビに映ったらしいが、親父達にはカメラもつかず、テレビに映る事はなかったとか。
ただ、こういうアトラクションで賞を獲った人は、一人一人テレビ局のカメラマンに記念写真を撮ってもらってプレゼントされたんだとか。

謎が解けたこの写真...ひょっとしたら、これが親父のゴルフ人生で一番脚光を浴びたシーンだったのかも。
なんか、親父の表情といい、カップをぎこちなく持つ手といい...微笑ましくて、額にでも入れて飾っておきたい。

いいよなあ、親父のこんな顔は息子の俺もあまり見た事ないような気がするし。
他の人には、ニアピンのだ、なんて言わないでおくからさ。

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問題は山ほどあった。
迷っていた。

Hさんは、所謂「アラフォー」ならぬ「アラフィフティー」の女性...もう50に近いのか、なったのか。
先日、初めてオープンコンペに一人で参加した。
...それは、彼女にとって大変な決心だった。

山ほどある問題は、例えば...お金がない、車が無い、ラウンドは一年振り、練習にも月一度行ってるかどうか、人見知りするのに一人で参加、オープンコンペなんて出た事が無い...等々。
以前、といっても3年くらい前までは練習は週に一回、ラウンドは月に2度くらい行っていた。
ゴルフは初めて10年くらい、趣味と言うか、遊びの中では一番気に入っていた。

しかし、最近身の回りの「山ほどあるゴルフを続けるのが困難な問題」に対して、自分はどう対処すればいいのか。

そこで、自分が本当にゴルフをどのくらい好きなのか、ゴルフをどう思っているのか、オープンコンペというものに出て試してみようと思いついた。
勿論、いいスコアが出るなんてあり得ないし、賞品なんてとんでもない...でも、ここで嫌な思いをしたり、ゴルフを嫌いになるような出来事が起これば、それでキッパリとゴルフをやめられる...本心はそんな所。
探したのはHさんの住んでる私鉄の沿線で、電車賃とプレーフィーなど全部入れても1万円以下で、知り合いのいない初めて行くコース。
...気持ちは、なんだか無謀な大冒険に出る気分。

一緒になったのは、それぞれ一人で来ている五十代から六十代の男性3人。
「ご迷惑をおかけします。」と一応挨拶して言っておいたけど...

3人のうち六十代の一人は上手かった。
あとの五十代の二人は、一応アベレージゴルファーという所だろうか。
自分は一人レディースティーからだけど、緊張と練習不足からチョロや当たり損ねを繰り返し、自己嫌悪と申し訳ない気持ちで落ち込むばかり...ところが、「もうゴルフはやめよう」という気にならない。
...3人の男性が、チョロをそれぞれに励まして慰めてくれる、当たり損ねのボールを一生懸命探してくれる、バンカーで出なくても辛抱強く応援してくれる、パットのラインを自分のラインそっちのけで見てくれる...
六十代の男性は、ゴルフのこぼれ話をおもしろおかしく話してくれる。
自分のプライベートな事には立ち入らずに、なんとか落ち込む自分を楽しくさせようと気を使ってくれるのが感じられる。
五十代の男性達も、自分のミスを大笑いで笑い飛ばし、「ゴルフはスコアよりも楽しいのが一番です」なんて声をかけてくれる。

...スコアは、三桁を軽く越える散々なものだったけれど、「もうゴルフはこれでやめよう」なんて気持ちにはならなかった。
半分自爆するようなつもりで飛び込んだオープンコンペは、思わずほろりとするような暖かさで自分を迎えてくれた。
勿論、いい人達と一緒になった「運」もあったろうけれど、かえってゴルフの素晴らしさ...自分はやっぱりゴルフが好きなんだ、という事を自覚させてくれるものだった。

...おまけにパーティーでは、なんと「飛び賞」の55位で「ケーキ」のお土産まで貰ってしまったし...他の3人は微妙に入賞から外れてしまったのに。

帰りの電車の中では、バッグとケーキを膝に乗せて曝睡してしまった。
多分、アラフィフティーのオバサンのみっともない姿だっただろうなあ、と思う。


...でも、ゴルフのいい夢見ていたんだから...いいんだ。

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オープンコンペで出会うゴルファー達は、ほとんどが少ない収入と時間をやりくりして好きなゴルフを続けようとする「愛すべきゴルファー達」なんだけど...
時には場違いな人に出会う事もあるから、オープンコンペは面白い。

これはオープンコンペに参加するようになった初期の頃に出会った、「あるゴルファー」のお話。

朝、自分のバッグが積まれたカートの前に行って、同じカートにバッグを積まれた人と最初に挨拶するのは、その日のゴルフが面白くなるかどうかが決まる緊張の一瞬。
普通はお互いに帽子をとって挨拶し、「よろしく」となり、「最近はあまりゴルフをやってないもので」とか「久しぶりのゴルフなので」と言い訳を言い、「このコースは初めてなので」とか会話が続く。

その男は30代そこそこか...まるで映画の登場人物のように、背が高くハンサムで、歯並びの良い真っ白な歯を見せて笑う好青年だった。
使っているクラブも最新のクラブで、ウェアもなんだかメーカー品のものだとわかる高そうなもの。

他の二人は私と近い年齢のおじさん達だったが、この明るい若者はすぐに馴染んで会話も弾む楽しいラウンドとなった。
話題も豊富で、ゴルフの歴史などにも詳しく、ニクラスやパーマーの時代のゴルフの話も出てくる。
「いえ、私が見てたんじゃなくて、親父や祖父がゴルフをやっていたもので、聞かされていたんですよ」

昼食中などの会話でわかって来たのは、彼は代々続く医者の家系で、今は大きな病院勤務だけどやがては親の個人病院の後を継ぐ事になる...医師だという事。
ゴルフは子供の頃から親と一緒にやっていたんだけれど、自分にはあまり才能が無い...でもプレーするのは好きなので、夜勤明けなんかで急にやりたくなるとこうしてオープンコンペに飛び入りするんだと。

ゴルフの腕は、それほど執着しないゴルフのプレー振りからして、ハンデは10前後か。
いいショットを打つけれど、なぜか運悪くへんなライに行く事が多く、「あちゃー、またこんなところだ」なんて頭を掻きながら笑う。

小さい頃から「当然」医者になるのが当たり前という環境で育ち、別に「それほど」特別な苦労も無くストレートで医大に入り、病院勤務の間に「こんなところで」と結婚して、将来は「予定通り」親の後を継ぐつもり...彼が言うには「普通に」そうして生きて来たのだという。
「つまんない人生ですよ」
趣味はゴルフと車(しか)ないんだそうで..おじさん達は、何も言えずに苦笑いするだけ。

明るいプレーを続ける彼に対して、ラウンドが進むに連れて他の3人は言葉も少なくなり、淡々とプレーしていくようになった。
...何度目かの、酷くアンラッキーなライにボールが止まった時に、彼が言った。
「こんなアンラッキーがあるから、ゴルフは面白いんですよねえ」

おじさん3人は顔を合わせて、思わず同じ事を呟いた。
「彼にはゴルフしかアンラッキーな事は無かったんだろうねえ...」

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H子さんのキャディーバッグには、13本のクラブが入っている。
1W、4W、7W、4−P・A・Sのアイアン、それにパターだ。

しかし、実際に使うクラブは1W・7W・7−Sまでのアイアンにパターの9本。
「使わない4本分、重いなあ...」なんていつも思っていた。
そもそも、ゴルフ教室の友達の最新のアイアンはみんな5番からしかない。
自分のアイアンは夫が中古クラブ屋で探して来てくれたものなので、友達のアイアンの同じ番手よりずっと飛ばないし、ヘッドも小さくて難しそうに見える。
とはいえ、月に一度のゴルフでは100なんか絶対に切れない腕前だし、高い新品のアイアンを買う余裕も無いから、特に不満は無かった。

ただ、週に3日パートに出て自分のプレー代を稼いでゴルフを続けていたけど...最近はなんとなくゴルフというものにそんなにのめり込めない自分もいて、やがてゴルフをやめるかもしれないと感じてもいた。
収入の問題と、いつまでたっても100を切れずに上手くなれない自分の腕と、もう一つ熱中出来ないラウンドの積み重ねと...

使いもしないクラブを何時も持って行くようなゴルフに、飽きていたのかもしれない。
この前のラウンドまでは。

この日は朝から風が強く、それがホールを回るほど強くなって来て、みんな強風に翻弄されてスコアは二桁が何回も並ぶ有様。
そして、あるショートホール。
140ヤードを切る距離なのに、強烈な向かい風。
H子さんより先に打った3人は、いずれもウッドだったけど、みんな風に流され、叩き落とされ、グリーンには乗らない。
H子さんも最初は4Wを持ったけど、ふと何かの本に『向かい風には大きめのロングアイアン』なんて書いてあった事を思い出して、一度もラウンドでは使った事の無い4番アイアンを手にした。
どっちみち4Wで乗る自信が全くなかったので、やけっぱちの選択ではあったんだけど。
...打った。
なんとなくぎこちないスイングだったし、変なフィニッシュだったけど、ボールに上手く当たった感触は残った。
そして...見たのは何とも言えない不思議な眺め。
自分の打ったボールが、強い向かい風の中を、ゆっくりとゆっくりと真っすぐ進んで行く。
他の人が打ったボールのように流されもせず、曲がりもせず、吹き上がりも叩き落とされずもせずに、空中に浮いて飛んで行く。
まるでスローモーションの映像のように...風の中を行くボールは、本当に不思議なほど時間をかけて140ヤード先のグリーンの上に落ちた...

奇麗な光景だった。
ボールがグリーンに止まった後、「きっとこのショットは一生忘れない」と思った。
...そして
「ああ、今私はゴルフの神様に招待されたのかもしれない。」なんて考えが、突然頭に浮かんで来た。

なぜか、頭の中のゴルフの神様は「執事」の格好をしていたけれど...

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Hさんのバッグには1本の古いクラブが、使わないのに入っている。
古いと言っても、パーシモンなんかではなく一頃流行ったメタルのフェアウェイウッドなんだけど。

それをバッグに入れた理由は一人のイギリスのプロのため。
とは言っても、Hさんはそのプロのファンなんかでは無く、むしろそのプロが大嫌いだった。

プロの名はニック・ファルド...キャディーバッグに入っているのはアダムスのタイト・ライズ。
ニック・ファルドが強かった頃使っていて、宣伝にも出たりして世界的にヒットしたクラブだった。

...Hさんは、元々人付き合いが苦手なタイプで、ゴルフに熱中していても特に仲のいいゴルフ友達がいる訳でもなかった。
それに、他人に誘われる事も少なかったので、近くの安いクラブのメンバーとしてゴルフを続けていた。
そのクラブでも、他人のなあなあのゴルフが嫌いで、つい曖昧なプレーには文句を言ってしまうので煙たがられる存在なのは判っていた。
本心ではもっとみんなと仲良くやりたいんだけれど、どうしてもそれができない。
やっぱり気持ちとは裏腹な行動をしてしまって、また嫌われてしまう。

そこにニック・ファルド。
強かった...本当に見せ場の無いつまんないゴルフなのに強かった...相手がいくつバーディーをとろうと、派手なプレーをしようと、淡々とスコアカード通りのプレーをして勝ってしまう。
そして、ファルドに負けるのは派手なプレーで人気のあるゴルファーが多かったために、いつもファルドは「敵役」の立場の嫌われ者だった(ように感じていた)。
Hさん自身も、最初はファルドっていうプロはどうにも好きななれない存在だった...が、それでも勝ち続けるファルドの強さに、いつしか「尊敬」の念を持つようになった。
嫌われ者だって(本当はどうか知らないが、Hさんはそう感じていた)あんな風に強くなれるんだ...
...自分もファルドのようになりたい。
人に嫌われようと、何時もいいゴルフができるようになりたい。

それで、ファルドの宣伝していたタイト・ライズを手に入れた。
使ってみるとフェースが薄いためにテンプラが多発して、自分にはあまり武器にはならなかったけど。
でも、これがキャディーバッグの中にあると、「ファルドのように嫌われ者でも強く!」という気持ちが湧き上がるのでずっと入れている。

それなのに。
最近あいつはどうしたんだ。
もう何年もあいつの噂も聞こえやしない。
あんたは嫌われ者でも強いんだろ?
シニアに行ったって、あんたのゴルフは絶対通用するはずだよ。
なんで、テレビに映って来ないんだよ。

憎まれっ子世にはばかる、だよ...俺はあんたが強くなければ困るんだよ。

最近のHさんは、元気が無い日が続いている。


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今年76になるKさんは、まだゴルフ歴は10年。
始めたのは65歳、やらざるを得なくなって始めたものだった。

それを仕掛けたのは、幼なじみの古い親友だったTさん。
Kさんの趣味は釣りで、Tさんとは川でも海でも腕を競ったライバルだった。
年を取ってからは川や沼がメインだったが、腕も道具も釣果も自慢しながら酒を飲む付き合いだった。

そんなTさんは、10年前にガンで亡くなった。
落ち込んでいたKさんにTさんの奥さんから電話があり、TさんがKさんにと残したものがある、という。
それを聞いたKさんは、てっきりTさん自慢の名竿を親友の自分に残してくれたのか、と内心...

しかし、車で来たTさんの長男が持って来た物は、靴からクラブからボールまで全部揃ったゴルフ道具一式だった。
おまけに、何冊かの本まで一緒に持って来た。
「親父が入院している時に、『俺と靴のサイズもみんな一緒だから、全部あいつに譲ってやってくれ。それに教本やゴルフの勉強の本も一緒に用意するから』と言われてました。釣りの道具は僕が全部譲り受けました。」
...そういえば、生前何度もゴルフをやらないかと誘われていたけど、「俺はあんなものやらん、釣り一筋だ」と何時も言い返していたっけ...

「竿じゃなかったのか...」
どうにも納得出来ない気持ちで、持って来た本を手に取ると...「ダウン・ザ・フェアウェイ」?「非力のゴルフ」?「ゴルフ名言集」?「200ヤード飛べばシングルになれる」?...ルールブックとかまである。
その「ダウン・ザ・フェアウェイ」なんてのを手にとっても、何が書いてあるのかさっぱり判らない。
一ヶ月ほどTさんの残した道具を前にして悩んだ末に、近所の練習場に行ってプロに教わって始める事にした。
もちろん始めはろくに当たりもしなかったが、何回かちゃんと当たるとそれなりに面白いような気がして来た。

それから10年、ドライバーだけは新しく大きなヘッドのものに買い替えたが、他はそのまま使っている。
初めて持った時に、シャフトに書いてあるメーカーの名前が釣り竿メーカーと同じだったのに驚いた...なんとなくしなる感じも釣り竿に似ていなくもないな、なんて思いはした。
10年、今は釣りよりゴルフの方が行く回数ははるかに多いが、正直よくわからないと言う気持ちがまだ残っている。
本の内容も、まだ良く理解出来ないし。
他人から見たらベテランゴルファーに見えるようで、よく頼りにされるんだけど...「まだ初めて間もない新米なもので」と応えるのが癖になってしまった。
まあ、面白くないか?と聞かれれば、...勿論「面白い」とこたえるんだけど。

そういえば、あいつの残した道具や本の他に一通の手紙があったっけ。

「暇つぶしにやってみろ、後悔しないぞ。」
としか書いてなかったが。

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「もうすぐ40代になるんだなあ...」
Mさんは、そんな事を最近度々考えるようになった。
20代の終わりに結婚し、子供が二人、義理の親と同居して10年。

子供が学校に行くようになり、まだ元気な義理の親達の世話の間に、ぽっと空いた時間があるようになった。
10年は、それはそれなりに充実していたけれど、どこかに「このままじゃあ...」という焦りのような気持ちがあり、それがだんだん大きくなって来ているのがわかる。

ゴルフ。
最近よくテレビの中継を見る。
自分には縁のない世界だと思っていたのに、いつの間にか熱心に見るようになった。
奇麗な広い庭園のような場所で、思いっきり白いボールを飛ばしている光景...あんな遊びを自分も出来たら...なんて。
学生の時にも運動は特に熱中してやった事が無いし、運動神経があるかどうかはわからない。
そう言う能力は子供の頃から「人並み」だったので、特に才能はないだろう。
でも、「あれをやってみたい」という思いは強くなるばかり...

ただ、それを現実のものとするには沢山の問題がある。
夫がゴルフをやらないので、自分がゴルフをやりたいとは言い出しづらい。
義理の両親も、ゴルフは「贅沢な遊び」としか思ってないようだし。
...道具が無いから、まずそこからお金がかかるだろう。
ゴルフの事を知らな過ぎるから、ルールの勉強も必要だろう。
ボールの打ち方なんて、練習場に行って先生に教わらなければ出来っこ無いだろう。
一人じゃ出来ないから仲間も必要だし、ウェアも靴も...
何からどこから手をつければいいのか、考えれば途方に暮れる。
もちろん、家族の世話も手を抜くわけにはいかないだろうし。

でも、きっと私はゴルフを始めるだろうと思う。
始めるまでの道が果てしなく遠い気はするけれど、今のままでは「このままじゃあ...」という気持ちが絶対に消えないだろうから。

とりあえず今出来るのは「ゴルフ入門」なんて類いの本を読む事くらい。
あまり面白くないし、自分でやってみないとわからない事ばかりなんだけど、とにかく一歩目を踏み出したい。
自分の気持ちは、夫にも近いうちに話してみるつもり。

もうすぐ40代。
今日もMさんは、家事の合間のティータイムにテレビのゴルフ中継を見ている。
そして考える
「このままじゃあ...」


そして考える
「緑のフェアウェイを、現実の私が胸を張って歩いているのは、一体何年後なんだろう...」


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拝啓..なんて、堅苦しく書くのはやめておこう。
俺が先に18番をホールアウトした、というだけのことだ。

お前が先に始めたゴルフを、あとから始めた俺がすぐに追いついたことは、今でも悪いことをしたと思っている。
頭に来たお前が、俺に永久スクラッチで握り続けることを申し込んで来た時に、受け入れたことも悪いことをしたと思っている。
俺の方がいつもお前より10ヤード以上飛ばしていたのも、悪かったと思っている。

おかげで俺はお前から勝ち逃げすることになってしまったし、お前が俺の何倍もドライバーを買い替える事になったのも、みんな俺のせいだ。
こう書くとお前が、握りはたいして差がつかなかった、とかドライバーで負けても小技は俺の方が上だったとか反論する声が聞こえるようだが、いつもセカンドショットを先に打つ時のお前の口惜しそうな顔が目に浮かぶぞ。

だがお前のおかげで、俺のゴルフは楽しかった。
いろいろなことはあったが、お前とのゴルフは楽しかった。
俺は、ゴルフとお前に感謝する。
どうもありがとう。

追伸
握りの勝ち逃げの分は、香典でチャラだ。
俺は遠くの19番ホールで酒を飲みながらゆっくりしているから、お前はもうしばらくゴルフを楽しんでいてくれ。

追伸
お前はここ一番で力が入ると、左の膝が早く伸びて突っ張る癖がある。
だから、肝心な時に左に引っ掛けてミスをする。
これは10年以上前から気がついていたんだが、握りに勝つためにお前に言わなかった。
親友とはいえ、永久スクラッチのライバルだ...心の狭い俺を許してくれ。

俺は笑っているんだぞ。


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